artscapeレビュー

2011年03月15日号のレビュー/プレビュー

シュルレアリスム展──パリ、ポンピドゥセンター所蔵作品による

会期:2011/02/09~2011/05/09

国立新美術館[東京都]

大規模な「シュルレアリスム展」といえば以前、東京国立近代美術館で開かれたものを思い出すが、あれはもう36年も前、ぼくがまだ学生のときだった。ヒエー。なんでまた忘れたころにシュルレアリスムなのかといえば、今年はアンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』刊行から87年という記念すべき年ではないので、きっとパリのポンピドゥー・センターが改修工事にでも入って、大量のコレクションが借りられることになったのかも。日本でシュルレアリスムというとダリとかマグリットみたいな通俗的な画家に人気が集まるが、今回はアンドレ・マッソン、ヴィクトル・ブローネル、フランシス・ピカビアといった日本ではあまり紹介されてない画家の作品が大量に出品され、ツー好みの展示になっている。とりわけマッソンは全出品作品173点中27点を占め、じつに1割5分6厘の高打率。同展にはゴーキーやポロックの初期作品も出ているので、マッソンが開拓し、抽象表現主義に受け継がれた「オートマティスム」にスポットが当てられているのがわかる。なかなか大人のシュルレアリスム展。

2011/02/23(水)(村田真)

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高畑早苗「WEAR ME 転変無常」

会期:2011/02/22~2011/03/05

ギャルリーパリ[神奈川県]

ドレスのような立体作品と絵画の展示。ドレスのほうはキャンヴァス地を切り抜いて固め、表面に装飾を施したもので、実際にはきつくて着れない。絵画は植物のツルか、寄せ来る波頭のようにも見えるニョロニョロな形態が描かれている。このニョロニョロ、若冲の《動植綵絵》や北斎の《冨嶽三十六景》にも出てくる波の表現によく似ている。でも高畑さんと若冲や北斎との接点が見つからない。そもそも昔は人物を描いたり女性性を前面に出していたのに、今回は人物がまったく登場しない。と思ったら、棚に名画などをコラージュした手づくりのアクセサリーが100点ほど並んでいて、そっちに人物が集中していた。

2011/02/24(木)(村田真)

ゆきのことば──長尾ふみ展

会期:2011/02/22~2011/03/06

gallery morning[京都府]

大阪成蹊大学芸術学部4年生の長尾ふみ。雪景色を描いた作品が並ぶ個展だった。精緻にその情景を描き出そうとする、というよりも、自らの目に映る光や水の輝き、冷たい空気や高い湿度の肌触りなど、微妙な一瞬の印象を画面にとどめようとするような、身体的感覚をともなう瑞々しさが感じられる長尾の作品は、同時にはかなさもたたえている。同時期に京都市美術館で開催されていた卒業制作展には150号のキャンバス2枚をつなげた大作が展示されていてそれもまた美しい風景だったが、描写力の高さとその説得力が立って見えたそれよりも、こちらの個展会場で発表された小さな作品の方が個人的には好き。今後の活躍も楽しみな人だ。

2011/02/24(木)(酒井千穂)

artscape開設15周年記念企画「Dialogue Tour 2010」Vol.7──トーク&ディスカッション:MACとhanareと保育所設立運動

会期:2011/02/22~2011/03/06

Social Kitchen[京都府]

全国8カ所のアートスペースを巡るartscapeの開設15周年記念企画「Dialogue Tour 2010」第7回目。このツアーイベントに出席するのも初めてだったのだが、会場のSocial Kitchen(京都市)に訪れたのも初めてだった。山口市にある一軒家のアートセンター「MAC(Memachi Art Center)」の運営者会田大也さんと、1960年代に京都で起こった若い女性研究者達による保育所開設運動の中心メンバーであった坂東昌子さんをゲストに開催された今回のプログラムは、MACやSocial Kitchenのような現在各地に存在する「ミニ文化施設」の活動意義について、またそれらの今後の活動のあり方について、保育所開設運動の事例を参考にしながら考えるというものであった。はじめに会田さんによるMAC(Memachi Art Center)の活動が紹介され、次に坂東さんから保育所設立運動のプロセス、その社会的背景などが丁寧に語られた。どちらも興味深い内容であったが、今回の主題にそって考えるならば、個人的には坂東さんによって語られた、保育所設立までに自宅を開放するというスタイルで始められた「共同保育所」の活動が特に鍵になる気がした。そこでは、女性であり、研究者であり、そして母である人々の生活と子育てに関する切実な願いや苦労が前提にあった。ここで取り上げられる「ミニ文化施設」の活動とはもちろん動機も主旨も異なるが、この「ミニ文化施設」の各活動が「ユルさ」や「遊び」を共通項として成立しているとすれば、逆に、多くの人の切実な思いや問題として必要とされるものはどんなことなのだろうかと以来考えている。「ミニ文化施設」が同じ環境や趣向の人々が集い循環する身内のコミュニティになりがちという問題のヒントにもなるかもしれない。食をベースにしたSocial Kitchenの活動に関していえば、個人的には期待している。今回もおいしい玄米おにぎりや総菜など、素敵な軽食がついていたが、食事という生活の基本的な喜びは文化的活動ともはや切り離せなくなった。そういえば、坂東さんがトークを始める前に「私の話より、そこにあるおいしいごはん食べるほうがさきでしょう!」と言って会場を和ませていたな。なににしろ濃厚な内容で勉強になった。できることなら他の回も参加したかった。

2011/02/24(木)(酒井千穂)

colors lecture series 一番町建築夜話 ikken’ya vol.2 山梨和彦

会期:2011/02/25

東北工業大学 一番町ロビー4Fホール[宮城県]

まず最初に15年におよぶ東北工業大学の学生団体colorsの活動紹介を行ない、その後に日建設計の山梨知彦の講演が続く。木材会館やホキ美術館を案内していただいたことはあったが、レクチャーを聞いたのは初めて。彼が追求するのは、熱、音、光などの諸要素をすべてヴィジュアル化し、設計の手続きに組み込む、超視覚化主義だ。それはコンピュータの導入によって、変わった形態(フランク・ゲーリーやザハ・ハディドなど)の構造を実現する以外の可能性を大きく拡張する試みでもある。日建設計では、泉ガーデン、京都迎賓館、大阪弁護士会館、京都の東本願寺修復など、山梨以外にも意欲的なプロジェクトを展開しているが、とりわけ山梨のチームは現代的な感覚をもつ。

2011/02/25(金)(五十嵐太郎)

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