artscapeレビュー

2011年03月15日号のレビュー/プレビュー

ながさわたかひろ展「告白/ヤクルト愛」

会期:2011/02/14~2011/02/19

ギャルリー東京ユマニテ[東京都]

これはすばらしい。野球選手を描いた小型の銅版画なのだが、よく見るとヤクルトスワローズの選手ばかり。2010年に毎試合1枚ずつその試合のハイライトシーンを描き、そのつど球団へ手渡していたという。毎日嬉々として版画を彫る姿が想像され、プロ野球には興味のないぼくにも作者のウキウキした気分が伝わってくる。愛と情熱が感じられる作品だ。ただしヤクルトへの愛と情熱だが。

2011/02/18(金)(村田真)

吉岡雅哉「庭いじり」

会期:2011/02/04~2011/03/12

ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート[東京都]

この人の作品は以前「トーキョーワンダーウォール公募展」で見て強烈な印象があった。コンビニの前で性交する男女を、妙にクセのあるタッチで描いていたのだ。こんな不穏な絵が青少年の健全な育成をめざす東京都生活文化局文化振興部が推進する公募展で入選するなんて、東京都も意外と健全なんだなと見直したものだ。今回はコンビニだけでなく、和風のお屋敷の内外で■■たり●●●したりする風景が波打つような筆づかいで描かれ、まるでムンクみたい。案内状によれば、5~6歳のころから春画を模写していたという吉岡は、いまでも「初期衝動のまま描き続けている」という。その特異なモチーフをさらに際立たせているのが、一見フォーヴィズム風の野蛮な(でもじつは達筆な)ウネウネした描線だ。この先どうなるのか見てみたい絵描きである。

2011/02/18(金)(村田真)

コレド・ウィメンズアートスタイル

会期:2011/02/15~2011/03/14

コレド日本橋+コレド室町+日本橋三井タワー[東京都]

コレド日本橋をメイン会場にした女性だけの展覧会も今年で3回目。まいど感じるのは、こういう場所に作品を置くのは難しいということ。カゲキなものをやろうとすれば止められるし、場所に合わせようとすれば目立たなくなる。そのため、どっちつかずの中途半端な作品が多くなりがちだ。鈴木紗也香の絵やフジモトアヤのファブリックは、作品そのものは美しいし、場所にも合っているが、それだけに商品広告と見間違えかねない。その点、遠目には人が並んでるように見えながら、近寄ってみたら表面に新聞や雑誌の広告ページを貼りつけたハリボテだったという富田菜摘の人体像は、一見ユーモラスな表情の下に不気味なグロテスクさとシニカルな批評精神が感じられ、秀逸であった。この作品はほかのと違って、ギャラリーよりこういう人のいる場所に唐突に置いたほうが効果的だと思う。

2011/02/18(金)(村田真)

TOKYO FRONTLINE

会期:2011/02/17~2011/02/20

3331アーツ千代田[東京都]

ゼロ年代の世界的なアートバブルの波に乗って急増したアートフェアだが、リーマンショック後も勢いはまだ続いてるのか。ってさっき書いたばかりだ。つーか、1日に2本もアートフェアを見るなよ。つーかやるなよ。でも見てしまった。こちらはギャラリーよりアーティストを前面に出したり、アート以外の団体にも出展してもらったり新機軸を打ち出している。やっぱり飽和状態のアートフェア業界で勝ち抜いていくには、いろいろと試行錯誤していかなければならないようだ。

2011/02/18(金)(村田真)

ラジオ広島ツアー/「建築系フォーラム2011 コンペのコツ」

会期:2011/02/19~2011/02/20

平和記念公園、平和記念聖堂、ホテルフレックス、なぎさ公園小学校、広島環境局中工場、広島市現代美術館[広島県]

今回、広島の学生団体scaleの吉岡佑樹が広島ツアーをコーディネイトしたが、バスを借り切っての予想以上に充実した内容だった。すでに何度も広島を訪れていたが、普段は見ることができない、なぎさ公園小学校と基町高校の内部、広島市現代美術館のバックヤード、村上徹と宮森洋一郎の事務所を見学したからである。
黒川紀章が設計した広島市現代美術館では、学芸員に案内していただいた。興味深いのは、ホワイトキューブが連続する企画展のための空間と、作品を想定して部屋ごとに個性がある常設のための空間を、10年ちょっと前に入れ替えたということ。つまり、プログラムを交換したのである。日本では「現代美術館」の先駆けとして登場したが、やはりアートそのものがどんどん変化していく。現在は多様なスペースを用意した方が、企画展に向くという。さて、開催中の「サイモン・スターリング 仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)」展は、その土地の物語をつむぎだす、リサーチ的な現代アートである。木の船を壊して燃料にするウロボロスの蛇的な作品をのぞくと、見るだけでは全容が理解できない、すなわち解説を必要とする作品が多い。日本では仮面劇を構想し、1985年の阪神優勝、バースの活躍、カーネル・サンダースのエピソードを用いていたが、学生がこれを架空のはなしだと思ったことに驚かされた。また飯沢耕太郎によるきのこアート研究所展も興味深い。ジョン・ケージや草間彌生から始まって、とよ田キノ子のキノコグッズコレクションまで、いかにアーティストがキノコの不思議さに魅了されてきたかをたどる。
20日の午後は、広島国際大学にて建築系フォーラム2011「コンペのコツ」が開催された。
五十嵐は「コンペと審査員」と題し、自分が審査する立場と、審査される立場との両面からコツを紹介したほか、建築系ラジオのメンバーがコンペをめぐってさまざまな切り口で語ったが、とくに南泰裕の負けることと持続することのはなしは印象深い。コンペでは、ひとりの勝者をのぞき、ほとんどの人が負けるわけで、それでもなお腐ることなく、建築家を持続することが、むしろ大事なのではないかと言う。

2011/02/19(土)(五十嵐太郎)

2011年03月15日号の
artscapeレビュー