artscapeレビュー

2012年03月15日号のレビュー/プレビュー

俺の湯

会期:2012/02/25~2012/03/04

art zone[京都府]

ガラス張りのギャラリー。外から見えるいつもの展示空間全体が、銭湯の浴槽のようになっていた。二階に上ってみて吃驚したのは、これまた銭湯さながらの空間だったから。木の札の鍵がついた下駄箱、脱衣籠のほか、籐筵が敷かれた床にはマッサージチェアが置かれ、牛乳を入れた冷蔵庫まである。これは企画した京都造形芸術大学の学生たちが、それぞれにテーマを設定し、日替わりの「湯」をしつらえるという展覧会。番台の受付で「今日は刺青湯です」と言われた。刺青のある人はお断りという場合が多い銭湯。この日は担当の学生がデザインし、制作した刺青シールを身体に貼って、足湯を楽しんでほしい、という日だったよう。その本人が丁寧に説明、案内してくれた。前日には、一階の浴槽の前の壁に金魚の絵を描くなど、ライブペインティングも行なっていたそう。小さな石けんやマッサージ器など今展に使われた銭湯グッズは、廃業した京都市内の銭湯を実際に訪ね、譲ってもらったのだという。いろいろな人とつながるためのポイントを準備から丁寧に考え、実践しているのも興味深かった。最終日は「大人湯」でスペシャルゲストにプロのストリッパーがショーをすると聞いていたのだが行けず残念。


26日の《刺青湯》会場風景

2012/02/26(日)(酒井千穂)

よくばりのはじまり 羽部ちひろ×吉田典子

会期:2012/03/13~2012/03/25

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

「既視感」をテーマに作品制作を行なっている羽部ちひろと、「自分の中の本当のものをイメージ化する」という潜在的な感覚にアプローチしている吉田典子。今展はこの二人の作家の自主企画による展覧会。平面という枠に留まらず描いたモチーフを立体化するなど、多様な表現を行なっている二人のアーティストの作品がどのように展示されるのか楽しみだ。

2012/02/26(日)(酒井千穂)

うつろう展

会期:2012/03/16~2012/03/25

ギャラリー唐橋[滋賀県]

滋賀県を拠点に制作活動を続けている4名のアーティストのグループ展。展覧会名が示すとおり、季節や自然の風景など、時の移ろいを丁寧に見つめる眼差しが四名の制作には共通している。福村真美は砂丘を描いたシリーズ、塩賀史子は藤の花をモチーフにした作品等を展示。花が咲くのも待ち遠しいこの時期にぴったりの展覧会になりそうだ。

2012/02/26(日)(酒井千穂)

東京五美術大学連合卒業・修了制作展

会期:2012/02/23~2012/03/04

国立新美術館[東京都]

近年、美大ごとの特色が失われ、均質化しつつあるように感じていたが、今年はわりとはっきりと違いが表われたように思う。とくに武蔵美と多摩美。この2校はいつになく優秀作が多く、平均点も高く感じられたが、それぞれ見てる方向が違うような気がする。武蔵美は絵画も彫刻も正面からマジメに追求しているという印象だ。たとえば、4脚の椅子を積み上げたアトリエ風景を描いた大高友太郎の絵は、ただそれだけといえばそれだけなのだが、自分の置かれた場所から絵画を立ち上げようとする姿勢が感じられたし、布をかけた鏡を木彫にし、鏡像をレリーフ状に彫った茂木美里は、あえて非彫刻的なモチーフに挑んでいるように思えた。対照的に多摩美はサブカル系が多く、マンガチックな表現やセンセーショナルな作品が目につく。床にギザギザの穴が開いてるように錯覚する絵を置いた吉野ももの作品は、単にトリックアートというだけではすまされない強さを感じさせるし、粗い麻に内臓的モチーフを描いた松本奈央子や、李禹煥の失敗作のような宮原明日香の絵はそれだけで目を引く。女子美はなぜか動物ネタが多く、ぬるいメルヘンチックな空気に包まれている。造形はいちばんアンチフォーマルなインスタレーションが多い反面、井上琴文や小川晴輝ら注目すべき抽象絵画もあった。日芸は相変わらず団体展の予備校といった印象しかない。全体的に既視感が漂っていたのは、「ワンダーシード」に出してる学生が多いせいかも。

2012/02/27(月)(村田真)

林田摂子「島について」

会期:2012/02/20~2012/03/04

蒼穹舍[東京都]

以前本欄でも紹介したことがあるが、林田摂子の写真集『森をさがす』(ROCKET)はいい仕事だった。写真の一枚一枚に深みがあるだけではなく、それらが連なってほんのりと上品な(だが、どこか血の匂いのする)物語を編み上げていく。そんな彼女の才能が、今回の「島について」でもしっかりと発揮されていた。
撮影場所は島根県の沖合に浮かぶ隠岐島。林田は小学校の社会科の授業のときに地図を見て、隠岐や島前、島後といった地名になぜか強く惹かれるものがあったのだという。20歳のころにたまたま知り合った友人が、まさにその隠岐・西ノ島の出身だったことをきっかけに島を訪れることになった。その旅の場面を例によって淡々と撮影し、写真の連なりとして提示している。とりたてて、特別なものが写っているわけではないが、何度か姿を現わす黒猫、友人の実家の台所で料理される魚の赤い切り身、ブレた指先でさし示される遠い森など、心を騒がせ、どこかに連れていかれるような感触を持つ写真が、さりげなく挟み込まれている。このあたりの写真構成とストーリーテリングのうまさが、林田の真骨頂と言えそうだ。もう少し撮り込んでいけば、「森をさがす」のように、緻密に組み上げられた作品として完成していくのではないだろうか。なお、東京・中目黒のPOETIC SCAPEではその「森をさがす」の写真展(2月14日~3月17日)も開催されている。

2012/02/29(水)(飯沢耕太郎)

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