artscapeレビュー
2012年03月15日号のレビュー/プレビュー
RYUGU IS OVER!!──竜宮美術旅館は終わります
会期:2012/02/17~2012/03/18
竜宮美術旅館[神奈川県]
ラブホ、というより連れ込み旅館というにふさわしい昔ながらのたたずまいを誇る竜宮美術旅館。この3月、日ノ出町駅前再開発のため取り壊されるこの珍妙な建築全館を使って、10人以上の若手アーティストがインスタレーションを繰り広げた。キュレーターはサラリーマンコレクターとして知られる宮津大輔氏。取り壊しを待つ建物での展覧会というのは、たいてい現状復帰しないでもいいことが多いためやり放題できて楽しいものだ。ゴードン・マッタ・クラークやPHスタジオは解体前の家を真っ二つにしたし、遠藤利克は同潤会アパートで水道を出しっぱなしにして部屋を水浸しにしたものだ。最近の若いアーティストはそこまではしない。お行儀がいいというか、ハデなインスタレーションを避けたがるというか。絵や彫刻みたいなブツとしての作品にこだわる面もあるんだろう。例外は丹羽良徳と狩野哲郎だ。丹羽はこれまで物置として使われていた開かずの間にビデオを展示。Mくんの部屋みたいに雑然とした薄暗い空間に、3台のモニターが妖しい光を放つ。そのビデオも、キオスクで買った雑誌を本屋に持ち込んでもういちど購入するという挑発的なもの。内容も場所も自閉的・変態的でとてもいい。狩野は部屋の窓を開け放ち、畳を一部はがして植物やロープやホースなどを張り巡らしている。寒風の吹き込む部屋は内とも外ともつかぬ開放空間になっていた。あとは、いつもコーヒーの香り漂うキッチンの壁にコーヒー液で描いた浅井裕介のドローイング、色鉛筆を固めて削った彫刻を玄関の把手にすり替えた八木貴史のインスタレーション、その上のガラス窓に真っ赤な金魚を泳がせた志村信裕の映像などがすんばらしい。それにしても取り壊されるのは惜しい建物だ。
2012/02/20(月)(村田真)
The Emerging Photography Artist 2012 新進気鋭のアート写真家展
会期:2012/02/21~2012/03/04
インスタイル・フォトグラフィー・センター[東京都]
2010年に写真専門ギャラリーのディーラーを中心に発足したジャパン・フォトグラフィー・アート・ディーラーズ・ソサイエティー(JPADS)は、これまで何度かアート写真のフェアを開催してきた。クオリティの高い作品が多かったのだが、有名写真家の作品だとかなり値段は高めになる。そこで、写真学校に在学中、あるいは卒業したばかりの若手写真家を中心に開催することになったのが、今回の「新進気鋭のアート写真家展」である。このような試みは、顧客の幅を広げていくという意味でなかなかいい企画だと思う。あの手この手で、この不況の時期を乗り切っていくことが求められているからだ。
今回はディーラーのほかに、写真ワークショップの主宰者や写真教育機関に属する先生たちを推薦者として委嘱し、16名の写真家が選ばれている。推薦者は福川芳郎(ブリッツ・ギャラリー)、北山由紀雄(岡山県立大学)、圓井義典(東京工芸大学)、松本路子(写真家)、斎藤俊介(キュレーター)、高橋則英(日本大学芸術学部)、山崎信(フォトクラシック)の7名。彼らが選んだのは安達完恭、相星哲也、青木大、イワナミクミコ、市川健太、石川和人、川島崇志、岸剛史、小林信子、新居康子、西村満、斎藤安佐子、酒井成美、佐藤寧、鈴木ゆりあ、高畑彩である。川島や酒井の映像処理のセンスのよさ、斎藤や佐藤の緻密な画面構築、高畑のナイーブな感性など、可能性を感じる作品が多かった。だが、総じてまとまりがよすぎて、はみ出していくパワーを感じられない。ぜひ何度か続けてほしいのだが、「アート写真」の枠組みにおさまりにくい作品もあえて選んでおかないと、こぢんまりした紹介展で終わってしまいそうな気がする。
2012/02/22(水)(飯沢耕太郎)
真下慶治記念美術館
真下慶治記念美術館[山形県]
山形県にて、高宮眞介が設計した真下慶治記念美術館を見学した。画家の愛した最上川を見下ろす、ほとんど最高のロケーションに位置する。それゆえ、絵のなかの構図と同じような風景を建物から見ることができる。川沿いの画家のアトリエも視界に入る。張弦梁の同じ天井の構造が連続するシンプルな断面ながら、奥にいくにつれ、横に、あるいは縦に膨らみ、最後は川が眼下に広がり、どんどん空間が変化する構成が絶妙である。
2012/02/22(水)(五十嵐太郎)
ワンダーシード2012
会期:2012/02/04~2012/02/26
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
若手アーティストによる10号以下の小品の展示即売会。4~5年前のプチバブルのころはオープン後まもなく完売していたもんだが、今年は会期終盤なのに半分程度しか売れてない。でも最初のころはもっと売れてなかった気がする。たかだか10年なのに盛衰が激しくね? ちょっとよさげなアーティストをピックアップしてみると、熊野海、木下令子、椿崎千里、鈴木寛人、松本奈央子、原田悠子あたり。ほとんど女性だ。名前だけじゃわからないだろうけど、これらの作品に共通するのは「ペインティング」だということ。てか、それ以外の大半の作品はマンガかイラストで、絵画にすらなってない。
2012/02/22(水)(村田真)
フェルメールからのラブレター展
会期:2011/12/23~2012/03/14
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
2度目のフェルちゃん、今回はニコンの単眼鏡(7倍)を携えての訪問。単眼鏡は画面を拡大して細部まで観察するために買ったのだが、拡大するだけでなく、画面を枠どり(丸いが)その部分に神経を集中させるという予想外の効果ももたらしてくれた。これによって判明したことその1、《手紙を読む青衣の女》はピントを合わそうにもボカシが絶妙なため合わせにくいこと。これは輪郭がはっきりした《手紙を書く女と召使い》と対照的で、もちろんほかの画家にも見られない特徴だ。このピンボケ感をフェルメールの独自性と考えると《手紙を読む青衣の女》はまさに画家の代表作といえるだろう。その2、手の描き方がヘンなこと。これは前々から疑問に感じていたことだが、たとえば《絵画芸術の寓意》の画家の右手が妙にぽってりしていたり、《ワイングラスを持つ女》《ヴァージナルの前に座る女》の左手が豚足みたいに不格好なのだ。今回の《手紙を書く女》も《手紙を書く女と召使い》も、テーブルの上に置いた左手がどうもおかしい。こんなふうに見えるか? ここになにかフェルメールの秘密が隠されているのではないかと勝手に思っている。
2012/02/22(水)(村田真)