artscapeレビュー
2012年08月15日号のレビュー/プレビュー
トーマス・デマンド展
会期:2012/05/19~2012/07/08
東京都現代美術館 企画展示室3F[東京都]
トーマス・デマンド展を見る。これまで単体では幾度も彼の作品を見てきたが、現実を再現した紙模型の世界を撮影した写真群を、これだけまとまった量で、この大きさで見ることができたのには意義がある。早速、福島原発の作品も発表されていた。またコマ撮りによる撮影で、揺れる船の室内風景を映像として再現した作品には驚かされる。
2012/07/07(土)(五十嵐太郎)
ART OSAKA 2012
会期:2012/07/06~2012/07/08
ホテルグランヴィア大阪 26階[大阪府]
2002年から開催されているアートフェア「ART OSAKA」。10回目の今回は約50のギャラリーが参加。今年もホテルの1フロアを使って各客室にてそれぞれのギャラリーが作品を展示、販売するスタイル。毎回のことながら今回訪れたときも多くの来場者で賑わっていた。出展ギャラリーの数も多いぶん、はじめて見る作家の作品など、新たな出会いが楽しめる機会でもあるのだが、なにしろホテルの客室での作品展示。どちらかというと、あまりゆっくりと作品を見たり作家やギャラリストと会話を楽しむ雰囲気でもない。次々に入室する人々でそれぞれの展示室は渋滞状態にもなりやすく、必然的に、混み合ってくるとそこを出て隣の展示室へ移動、混み合ってきたらまた隣へという流れになる。ホテルでのアートフェアとはそのようなものなのかもしれないが、できれば来場者がもっとゆったりと過ごせるような工夫や配慮があると嬉しい。しかし今回、ホテル客室という制約の多い空間を活かし、アーティストの作品世界を魅力的に紹介している展示室にもいくつか出会えた。大阪のギャラリーほそかわの6016号室は、京都市立芸術大学博士課程に在籍する西山裕希子によるインスタレーション空間。西山がこれまでの発表で度々キーワードとしてきた鏡、屋内空間、女性像、そして染色技法を用いた表現が、どれも違和感なく緩やかにイメージの脈絡をつくり、作家の世界観へと導いていくような美しい構成だった。また、現在、茨城を活動拠点としている片口直樹の最近作の絵画が展示されていた金沢のインフォーム・ギャラリーの6108号室も作家の制作テーマや画風の変遷もうかがえる濃厚な作品空間で記憶に残る。ほかにもいくつかあったが、多数のギャラリーや人々、多様な作品が一堂に会する場だからこそ、ただ陳列したというのではない展示が見たいし、そのような出会いの喜びは大きい。
2012/07/08(日)(酒井千穂)
20世紀日本建築・美術の名品はどこにある?
会期:2012/07/09
彦坂尚嘉が企画するアート・スタディーズの最終回をついに迎えた。20世紀の100年を5年ずつ区切って、全20回で建築と美術を横断する連続シンポジウム+2回の特別編である。2004年11月に第1回が始まり、ついに大団円だ。最終回は豊川斎赫らを迎え、丹下健三とアートについて討議した。これは複数のコメンテーターが登壇するリノベーション・スタディーズのスタイルを継承するシンポジウムの形式をとりながらも、じつは彦坂による壮大なアート・プロジェクトだったと思う。
2012/07/09(月)(五十嵐太郎)
本城直季「diorama」
会期:2012/06/05~2012/08/05
写大ギャラリー[東京都]
本城直季は東京工芸大学芸術学部写真学科の出身(2004年に大学院芸術研究メディアアート科修了)だから、同大学の中野キャンパス内にある写大ギャラリーでの個展は、いわば凱旋展ということになる。こういう展示は本人にとってはとても嬉しいものだろう。多くの後輩たちが見にくるわけだから、いつもにも増して力が入るのではないだろうか。代表作であり、2006年に第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した「small planet」に加えて、今回は新作を含む「Light House」(2002年/2011年)のシリーズも展示していた。
本城のトレードマークと言えるのは、言うまでもなく「small planet」で用いた、4×5インチの大判ビューカメラの「アオリ」機能を活かして画像の一部にのみピントを合わせ、あとはぼかす手法だ。これによって得られる、まさにジオラマ的としか言いようのない視覚的効果は、何度見てもめざましいものだ。本城は撮影するポイントを厳密に定め、被写体をきちんと選択することで、見る者に驚きを与えつづけることに成功した。
すでに完成の域に達している「small planet」と比較すると、「Light House」はまだ試行錯誤の段階にあるように見える。自然光で上から見おろす視点の前者に対して、夜の人工光に照らし出された街の一角を水平方向から精密な模型のような雰囲気で写しとる後者は、どちらかと言えば凡庸な描写に思えてしまうのだ。本城は東京、千葉など首都圏近郊の眺めにこだわっているようだが、むしろ被写体となる地域の幅を広げた方が面白くなりそうな気がする。地方都市や外国の街にまで視野におさめていけば、より「映画のセットのような」雰囲気が強まるのではないだろうか。次の展開に期待したい。
2012/07/11(水)(飯沢耕太郎)
清水裕貴「ホワイトサンズ」
会期:2012/06/25~2012/07/12
ガーディアン・ガーデン[東京都]
リクルートが主催する第5回写真「1_WALL」展(2011年9月20日~10月13日)でグランプリを受賞した清水裕貴の個展である。とても可能性を感じる作家だと思う。注目すべきなのは、1点1点の作品に、それに対応するテキストが付されていること。しかもそれが単なる添え物ではなく、重要な意味を担っている。日本の写真家たちの多くは、どちらかと言えば言葉を潔癖に拒否するタイプが多い。純粋に写真だけで語ろうとする態度を、あながち否定すべきではないが、言葉と画像とを組み合わせて、その相乗効果でより広がりのある世界を創出していくようなつくり手が、もっと増えてもいいのではないだろうか。
ただ、動物園や水族館、さらに「ニューメキシコ州の雪花石膏の純白の砂漠」(「ホワイトサンズ」)などで撮影された画像群、そして「先生」や「ペンギン」や「男の子と女の子」などが登場するテキストのどちらも、まだまだ中途半端で物足りない印象を受ける。写真に写っている事物も、文章で描写されるキャラクターも、どこか入れ替え可能な記号のようで、生身のリアリティを感じることができないのだ。1984年生まれということは、もうそろそろ若書きから脱してもいい年頃だ。写真と言葉の両方とも、さらに厳しく鍛え上げ、研ぎ澄ましていってほしい。もし彼女が一皮むければ、スケールの大きな、凄みのあるつくり手が出現することになりそうだ。
2012/07/11(水)(飯沢耕太郎)