artscapeレビュー
2012年08月15日号のレビュー/プレビュー
水と土の芸術祭2012
会期:2012/07/14~2012/12/24
新潟市内各所[新潟県]
もういちど万代島のメイン会場をのぞいてから、市の中心部(新潟島)に点在する作品を歩いて見ることにする。最初に見たのは、廃園となった保育園に残されていた窯から架空の物語を発想し、保育園全体を作品に組み込んでしまったナデガタ・インスタント・パーティーの《ワンカップストーリー》。これはいちおう「土」と関連しており、ゆるさも含めて楽しめた。その後、渡辺菊眞+高知工科大学渡辺研究室、佐藤仁美、藤江竜太郎、近藤洋平、坂爪勝幸、照屋勇賢、華雪などを回ったが、省略。さて今回、越後妻有色が抜けて独自色を出すことができただろうか。答えはとりあえずイエスだ。前回と比べて全体に泥臭い作品が減り、なんとなくモダナイズされた作品が増えたように感じるからだ。それはおそらく、前回は潟や川岸に泥まみれになりながら設置する野外インスタレーションが目立ったのに対し、今回は旧水揚場をはじめ民家や記念館などを使う屋内展示が多かったせいかもしれない。ちなみに、前回は新潟市美術館に約10組の作家が展示していたが、今回美術館は会場からはずれ、「平山郁夫展」を開催中。そもそも作家選択が、前回のおもに水と土に関連する「泥臭い」作家と違い、今回は「モダン」な作家を選んで水と土のテーマを与えたという面がある。結果的に越後妻有色は抜けたといえるが、逆にモダナイズされた分、ほかの展覧会との差異が縮まってしまったかもしれない。
2012/07/14(金)(村田真)
東明 展「ground work」
会期:2012/07/10~2012/07/22
アートスペース虹[京都府]
東明の個展。会場の床に、複数の布地を縫い合わせたカラフルな生地が広がっていた。空気をはらむと大きくドーム状に膨らんでしばらく形が崩れない。ユニークな見た目もさることながら、そのなかの空間に入って遊ぶことができるのがまた楽しい。ピクニックシートとしても使えそうと実用的なイメージも掻き立てられる作品だ。まわりに無造作に置かれていたのは《ピョンピョンパラシュート》。摘んで空中に放り投げるとカメやウサギ、車の形などに膨らんで、ふわりと地面に落下する玩具。こちらも、地面に着地してもしばらくは萎まず形を保っている。素材にはアウトドア用品などに使われる極薄のハイテク生地を使用しているそうなのだが、着地したときの形もコロコロと丸くてかわいらしい。東は以前からこのようなパラシュート作品を制作している。見る度に軽やかで、形状も崩れにくいものに“進化”しているから感心してしまう。ほかには、どこを切ってもハニカム構造が現われるというブルーシートを用いた作品もあった。これまでさまざまな手法で作品を制作、発表してきたが、東の作品の多くには、構造物の内側と外側、表裏、空間や隙間といった要素が意識され、それらを鑑賞者が実際に体験したり体感できるような一貫性がある。今展は、訪れた人たちが自然に笑顔になるような作品で素敵だった。
2012/07/15(日)(酒井千穂)
海老優子 展「鳥が鳴いたら」
会期:2012/07/03~2012/07/15
ギャラリー モーニング[京都府]
海老優子の描く風景のイメージは、どちらかというと明るいものではなく、どんよりと重たい雲に覆われた空や鬱蒼と木々が生茂る薄暗い森を思わせる。どれにもコンクリートの建物ような無機質な構造物が描かれているのだが、いくつかは能舞台を想起させるもので物語性を感じる。構造物の縁や周囲を植物の緑が覆っているそれらの情景の印象は静謐だが、同時に、こころもとない雰囲気に気持ちが引き摺られ、振り返って再び見たくなるような魅力があった。《鳥が鳴いたら》《最後の鳥が鳴いた後》《もとの場所》などタイトルも、作家の内面に存在する特別な場所への想像を掻き立てる。構図、モチーフ、色彩、筆のタッチ、油絵の具の塗り方など、どの要素にも独特の個性が感じられる。また次の発表が気になる作家。
2012/07/15(日)(酒井千穂)
MEDIA ARTS SUMMER FESTIVAL 2012
会期:2012/07/13~2012/07/15
ICC (Intercross Creative Center)[北海道]
ICC (Intercross Creative Center)は札幌市豊平区に「様々な業種のクリエイターとそれをサポートするビジネスが集まるハイブリッド施設」として2001年に設立された。メディア・アートの振興を中心に活動してきたのだが、NPO法人、S-AIRが主宰するアーティスト・イン・レジデンスの活動も、その大きな柱となっている。
今回の「MEDIA ARTS SUMMER FESTIVAL 2012」は、アーティスト・イン・レジデンスで滞在していたベトナムの映像作家、ファム・ゴック・ランとインドの写真家、ロニー・センの帰国にあわせて企画されたもので、写真、映像、音楽、インスタレーションなど、さまざまなジャンルにまたがる30名以上のアーティストたちが参加している。また、7月15日には「映像・メディアサミット」と「写真家サミット」の2つのシンポジウムが開催され、僕はそのうち「写真家サミット」に、札幌在住の写真家、小室治夫、今義典、露口啓二、山本顕史とともにパネラーとして参加した。
この種のメディア・アートの展示に写真家たちが参加することも、いつのまにか当たり前になってしまった。デジタル化以後、写真家が動画やインスタレーションを含めた展示を試みたり、映像作家が静止画像を取り入れたりするのも目につく。ジャンルの混淆が進むことはむしろ歓迎すべきことだが、逆にそれぞれの領域の固有性が、うまく発揮しにくくなっているのではないだろうか。今回も倉石信乃のテキストと写真とを巧みに組み合わせた露口や、撮影済みのフィルムを光に曝すというインスタレーションを試みた山本など、面白い作品もあったのだが、準備期間が短かったこともあって、水と油的なぎこちなさがつきまとっているようにも感じた。
残念ながら、現在ICCが使用している元教員研修センターだったという建物は、来年3月で閉じられることになるのだという。ICCの活動そのものはそれ以降も別な場所で継続するということなので、また意欲的な展示企画を実現してほしい。
2012/07/15(日)(飯沢耕太郎)
[二期会創立60周年記念公演]東京二期会オペラ劇場
会期:2012/07/13~2012/07/16
東京文化会館大ホール[東京都]
あいちトリエンナーレ2013でオペラの演出をお願いしている田尾下哲が演出を行なう、二期会創立60周年記念公演「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「パリアッチ」を東京文化会館にて観劇した。いずれも不倫→殺人の物騒な作品だが、現代の設定とし、新しい解釈を加えた舞台装置だった。「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、椅子やテーブルの幾何学的な配置を変えることによって、場の配列が変わる空間的な演出である。また「パリアッチ」は、原作の旅劇団を60年代のテレビショーに仕立て、劇中劇に大胆な解釈を行なう。もとの楽曲にコーラスが多く、場面展開も多いので、ミュージカル風にも楽しめる。ちなみに、田尾下は東京大学で建築を学んでから演出家になった経歴をもつ。
2012/07/15(日)(五十嵐太郎)