2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2012年08月15日号のレビュー/プレビュー

岸幸太「Barracks」

会期:2012/07/19~2012/08/10

photographers' gallery/ KULA PHOTO GALLERY[東京都]

岸幸太の作品は、2011年8~9月のKULA PHOTO GALLERYでの個展「The books of smells」のあたりから、そのフェイズが大きく変わってきた。それまでのように、東京・山谷、横浜・寿町、大阪・釜ヶ崎などのドヤ街の路上で撮影されたスナップ写真を、ストレートに引き伸ばして展示するだけではなく、プリンターで出力した画像をさまざまな材料にプリントして、インスタレーションしていく方向にシフトし始めたのだ。
前回の展示では新聞紙に出力していたのだが、今回のphotographers' gallery/ KULA PHOTO GALLERYの個展ではそれがさらにエスカレートして、拾い集めた廃材、床の材料、プラスチック製品などに直接プリントを貼り付けている。しかも画像がプリントされているのは、ドヤ街で拾ったビラやチラシ、文庫本のページ(ジャン・ジュネ『泥棒日記』、車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』など)、さらには紙ヤスリなど、その物質性が強烈に際立つ材料だ。このようなインスタレーション的な展示の試みは、ともすれば手法が一人歩きして散漫なものになりがちだ。だが岸の場合、むしろ確信犯的にそのような展示のスタイルを選びとっているのがわかる。ある場所からかすめ取ってきた画像を、半ば強引にその場所へ戻そうという彼の意志がしっかりと伝わってくるのだ。
そのなかに2点だけ、釜ヶ崎の路上で撮影した写真を、ストレートに印画紙に引き伸ばした作品が含まれていた。彼がなぜ、この2点を選んだのかはよくわからないが、そのたたずまいが実にかっこよかった。結局のところ、岸のインスタレーションがアイディア倒れに終わっていないのは、彼が2005年頃から積み重ねてきた撮影行為の厚みが、作品のリアリティを保証しているからだろう。このところの彼の仕事を見ていると、より大きな会場での展示も期待していいのではないかと思う。

2012/07/19(木)(飯沢耕太郎)

「隠喩としての宇宙」展──The Cosmos as Metaphor

会期:2012/07/20~2012/09/01

ホテルアンテルーム京都[京都府]

ホテルアンテルーム京都と、タカ・イシイギャラリー京都の二会場で開催されている展覧会。3.11の東日本大震災や原発問題以降、多くの人が感じている人間と自然、文明と自然の関係についての再検証の必要を、地球、さらには宇宙の規模で考えるということや、ウェブ環境やネットワークの発達でより身近に感じられるようになった多次元的な時空間のイメージ「隠喩としての宇宙」をテーマに、12名のアーティストが作品を発表している。企画は椿玲子(森美術館アシスタント・キュレーター)。ホテルのロビーやエントランスホール、ラウンジスペースなどに作品が展示されていたこの第二会場の出品作家は、磯谷博史、梅沢和木、大舩真言、土屋信子、名和晃平、宮永亮、矢津吉隆、山下耕平の8名。矢津吉隆は4点の作品を発表していたが3D立体映像技術を使った大喜多智裕との共作《Umbra》が特に凄い。専用の3Dメガネをかけてプロジェクションされた映像を視聴するこの作品は、映像の煙や火、木の枝などがまるで展示空間に浮遊して見える。自分が動くと映像も合わせて近づいて見えたり離れて見えたりするからなお面白いのだが、だんだん、神秘的な現象を見ている感覚にもなっていくから不思議。映し出されるイメージと音のリズムが見る側の記憶を刺激して、新たなるイメージを誘発する宮永亮の映像作品《scales(Blir-ray Disc version)》、外光によって色の表情が変化して見える大舩真言の《VOID-meteoron》《VOID f》も見飽きない。廊下のつきあたりに展示してあった磯谷博史の《Land》は、作家が1000日間履いた靴を用いた写真のインスタレーション。これも物語の想像を掻き立てられる。本展のタイトルはどうも取っつき難い印象なのだが、出品作家の作品に惹きつけられるものが多く、魅力的な会場だった。会期は長いのでもう一度見に行きたい。


左=展示作品。大舩真言《eternal#5》
右=ホテルアンテルーム京都での会場風景

2012/07/20(金)(酒井千穂)

奈良美智──君や僕にちょっと似ている

会期:2012/07/14~2012/09/23

横浜美術館[神奈川県]

年とると時のたつのが早く感じられるもんで、また横浜美術館で「奈良美智展」かよ?と思ったら、前にやったのはもう11年前の話。そういえば同時期に第1回横浜トリエンナーレが開かれていたっけなあ。しかし、横浜に大して縁もゆかりもない現役作家が、10年ちょっとのあいだに同じ公立美術館で2度も個展を開くというのは、やっぱりどうなのよ。いっそトリエンナーレみたいに横浜美術館では何年おきかに「奈良美智展」をやると決めちゃったら? などと思いつつ会場に入ってびっくりした。去年の横浜トリエンナーレの記憶がよみがえってきたからだ。なんと、ヨコトリ期間中に美術館前に陣取っていたウーゴ・ロンディノーネみたいな彫刻があるではないか。もちろんこれも奈良の作品なのだが、素材といい大きさといい色合いといい触感といい、よく見れば台座まで似ているのだ。これが意図して似せたかどうかは知らないけれど、結果的にヨコトリを想起させたのは事実。あとは絵画、ドローイング、オブジェなどの出品だが、作品はともかく展示がすっきりしていてとてもきれい。これはホメてあげたい。

2012/07/20(金)(村田真)

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丸沼芸術の森所蔵 アンドリュー・ワイエス展 オルソン・ハウスの物語

会期:2012/05/26~2012/07/22

宮城県美術館[宮城県]

宮城県美術館「アンドリュー・ワイエス展 オルソン・ハウスの物語」を見る。ワイエスという作家にはあまり興味がなかったが、30年以上もずっと同じ家を描き続けたという行為には驚かされた。それもある意味ではなんの変哲もないような普通の家である。

2012/07/20(金)(五十嵐太郎)

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中谷由紀「むずむずする庭」

会期:2012/07/16~2012/07/29

日本茶カフェ 一日(ひとひ)[兵庫県]

中谷由紀がJR摂津本山駅近くの日本茶カフェで作品を展示していた。Tシャツ生地に描いている絵画が中心。どれもパネルには貼っていない。染色のような滲みや色あいも綺麗。松、毛虫、芋虫(チョウやガの幼虫)、水やりをする女性など、何気ない日常のものごとから生まれたモチーフは相変わらずユーモラスで、ほのぼのとしているのか不気味なのか微妙だが、物語の一場面のように愉快でリズムのある画面が面白い。発表の機会も多い方ではなく、あまり目立つ活動をしている作家ではないが、今後の活躍も楽しみにしている。


左=中谷由紀《家の裏手でのびる》
右=同《元気そうな近所の人》

2012/07/22(日)(酒井千穂)

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