artscapeレビュー

2010年01月15日号のレビュー/プレビュー

M-ポリフォニー09

会期:2009/12/07~2009/12/12

東京造形大学大学院棟1階ギャラリー[東京都]

大学院2年の4人展。タイトルの「M」は担当教授の母袋俊也のイニシアルかと思ったら、ドイツ語の「Malerei(絵画)」のMだった。薄く解いた絵具でサラッとファッションやぬいぐるみなどを描いたり、ブランドもんの紙袋でインスタレーションした佐藤翠、タダモノではないな。勝手にM賞だ。

2009/12/07(月)(村田真)

『現代建築家コンセプト・シリーズ1藤本壮介──原初的な未来の建築』藤本壮介

発行所:INAX

発行日:2008年4月25日

久しぶりに手にとって、やはり圧倒的な強度の形式を内在させた本だと思った。藤本壮介の建築は、どれも物事を徹底的に還元させていったときに残るような形式を持っている。不思議なのは、還元され、抽象化されたような形式性であるのに、そこから生まれる建築は、必ずしも単純ではなく、還元されない複雑性を持っているところである。例えば、「ぐるぐるとはなんだろうか。最も古い形。それでいていまだによくわからない形」とはじまる短いテキスト。冒頭のぐるぐるとした線のスケッチ。しかしそれが次の段階で急に魅力的なプロジェクトに変化する。本当はその間には長いプロセスがあるのだろうが、その過程をすべて省略しているので、最初の形式が最後の段階まで強力に維持されているということが分かる。ところで90年代以降、OMAの影響でダイアグラムが建築に大きな影響を与えたといえよう。図式化されたものがもつ強さである。しかし、藤本はダイアグラムをさらに遡る。むしろ図式に潜むさらなる「原初的な」抽象性である。誰もが一見して理解できるにも関わらず、誰もが辿り着けないような初源の形式へと遡行することで、藤本はそれを未来に反転させようとしている。

2009/12/07(月)(松田達)

アートの課題

会期:2009/11/21~2010/01/17

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

段ボール箱が散乱している。なかをのぞくと、箱の奥にスクリーンのように映像が映し出され、その前の箱にプロジェクターが隠されている。しかも手の込んだことに、箱には出入口みたいな造作がしてあってちゃんと劇場っぽくなっているのだ。段ボール劇場。そこで流される映像も、ニューヨークあたりの路上の水たまりに小さな舟を浮かべて風で走らせるという、いかにも段ボール劇場にふさわしいプログラム。これはすばらしい。たまにこういうヒット作に出会えるからTWSはあなどれない。作者は照屋勇賢。あとふたり作品が出てたけど霞んでしまった。

2009/12/08(火)(村田真)

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TOKIO-LOGYサロン

会期:2009/12/08

森記念財団[東京都]

森記念財団のバックアップのもとで2008年秋から連続的に開かれている「東京学」についての研究会。主宰は橋爪紳也氏、モデレーターは中島直人氏、初田香成氏で、次世代の都市づくりを担う若手の研究者や実務家がメンバーとして参加している(筆者もメンバーの一人として加わらせて戴いている)。大きく、都市(都市工学、都市計画)、建築(建築史、設計)、社会(社会学)、という異なった分野のメンバーが、研究、実務といった領域を超えて集まっており、東京を「都心」「郊外」「湾岸」「地下」というフィールドに分け、領域横断的な発表と議論が行なわれてきた。その成果が少しずつ公開されてきている。ひとつは雑誌『東京人』における連載で、2010年2月号から3回にわたって掲載される。またTokio-logyのホームページでも、サロンの成果が発表されている。今後、別の機会にも成果が公開されるだろう。森記念財団は、都市戦略研究所(竹中平蔵氏所長)から世界都市ランキングを発表する、特に東京関連の書籍を多く発行するなど、都市に関する活動を多数行なっている。まだあまり知られていないかもしれないが、都市を考える上で有用で新鮮な東京発の情報を多く発信している機関である。

詳細URL:http://www.mori-m-foundation.or.jp/seminar/index.shtml#tokiology

東京人
http://www.toshishuppan.co.jp/tokyojin.html

森記念財団
http://www.mori-m-foundation.or.jp/

2009/12/08(火)(松田達)

高木こずえ『MID』/『GROUND』

発行所:赤々舎

発行日:2009年11月1日

高木こずえは一作ごとに脱皮し、作品のスタイルを変えつつある。1985年生まれ、25歳の彼女のような年頃では、まだ自分が何者かを見定めるのは無理だしその必要もないだろう。だが、赤々舎から2冊同時に刊行されたデビュー写真集『MID』と『GROUND』を見ると、この若い写真家の潜在能力の高さにびっくりしてしまう。特に『MID』の方は、東京工芸大学在学中にほぼ形ができていたポートフォリオを元にした写真集なので、彼女の作品世界の母胎がどんなものなのかが、鮮やかに浮かび上がってきているように思える。
とはいえ異様にテンションの高いイメージ群が、闇の中に明滅するようにあらわれては消えていくこの写真集を、きちんと意味付けていくのはそう簡単なことではない。というより、高木本人もなぜそれらに強く引き寄せられていくのか、はっきりと理解しているわけではないだろう。ただいえることは、牛、猫、鳥、犬、山羊などどこか神話的な動物たち、エメラルドのような瞳でこちらを見つめる「ロックスター」、闇を漂う赤ん坊といった断片的なイメージ群が、何かを結びつけ、媒介する「中間的」な役割を果たしているように見えることだ。それがそのものであることだけに自足するのではなく、別の何者かへと生成・変容するその過程でフリーズドライされてしまったようなイメージ群──それがおそらくタイトルの『MID』に込められている意味なのだろう。
その生成・変容のプロセスをより加速させ、齣落としのようにめまぐるしく変化していく画像を、今度は一瞬のうちに白熱するミクロコスモスとして凝固させたのが『GROUND』の作品群だ。写真集は2009年2月~3月のTARO NASU GALLERYでの個展のレプリカ的な造りなので、この作品が本来持つスケール感を完全に伝え切ってはいない。だがこれはこれで、高木こずえの創作エネルギーの高まりと集中力を証明してはいる。

2009/12/10(木)(飯沢耕太郎)

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