artscapeレビュー
2010年01月15日号のレビュー/プレビュー
サスキア・サッセン『グローバル・シティニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』
発行所:筑摩書房
発行日:2008年11月25日
本書は、ニューヨーク、ロンドン、東京という3都市の分析を通じて、「グローバル・シティ」という新しい概念を提示し、グローバル化する現代社会を読みとく本。日本語版は1991年の第一版に対する批判を踏まえて改訂した2001年出版の第二版の翻訳。400ページを超える大著だが、著者のサスキア・サッセンはつねに構造的な文章を書くため、論旨と構成がはっきりしている。もっとも重要な主張は、グローバル・シティにおける社会と空間の二極化であろう。本社機能だけを集めたグローバル・シティでは、高度な専門サービスに従事する高所得者層と、その生活を支える労働力として移民や低賃金労働者が同時に集まり、格差がますます拡大すると同時に両者の空間は近接する。その仕組みと背景、そのことが示す意味を、地理(第一部)、経済(第二部)、社会(第三部)、政治(最終章)という側面から分析、検証される。グローバル化が均質化ではなく、都市という単位を再度浮上させることが指摘されている。いわば国民国家から、都市(グローバル・シティ)へと世界的な秩序を生み出す主体が変化していることが示唆されているともいえる。
2009/12/10(木)(松田達)
束芋「断面の世代」
会期:2009/12/11~2010/03/03
横浜美術館[神奈川県]
暗い。エントランスホールからして暗い。ここはグランドギャラリーという名のムダな空間なのだが、その広大な壁面に映像を映し出して有効活用している。展示室も暗い。5点のアニメ・インスタレーションが中心なので暗いのは当然だが、挿絵やドローイングを展示してある部屋も暗いから、束芋のダークな世界を強調しているのだろう。スクリーンも縦に3面凹型に角度をつけていたり、半円筒形の内側に映し出したり、よく計算されている。髪がゆらゆら揺れる《油断髪》は戦慄的。
2009/12/11(金)(村田真)
医学と芸術展
会期:2009/11/28~2010/02/28
森美術館[東京都]
ひとことでいえば「医学と芸術の出会い」なのだが、医学の概念も芸術の概念も拡大し続ける一方なので、かなり大風呂敷を広げた印象だ。展示はレオナルドの解剖図から、エジプトのミイラ、死体を樹脂で固めて薄切りにしたプラスティネーション、義手・義足・義眼、手術用具、デミアン・ハーストの手術中の絵、やなぎみわや松井冬子の作品まで、じつに多彩で満腹感がある。どうでもいいけど、医者であり、初めて聖母子像を描いたとされる(もちろん伝説だが)、つまり医学と芸術の最初の接点ともいうべき聖ルカについて、展示でもカタログでも触れられてないのはなぜだろう?
2009/12/13(日)(村田真)
福山えみ「a trip to Europe」
会期:2009/12/08~2010/12/20
福山えみは1981年佐賀県生まれ。2006年に東京ビジュアルアーツを卒業し、TOTEM POLE PHOTO GALLERYでの個展を中心に作品を発表している。今回の展示は、2009年の夏にフランスのアルル、パリ、ドイツのベルリン、チェコのプラハなどを旅行した時に撮影した写真でまとめた。
なんともつかみ所のない、どんよりした曇り空の下の、どこか寒々しい街の片隅の光景が並んでいる。フェンスや窓枠によって区切られた眺めに固執しているようだが、それがはっきり打ち出されているわけでもない。だが、6×7判(カメラはプラウベルマキナ67)のとりとめのない旅のイメージは、これはこれで目に気持よくおさまって悪くはない。自分がどんな被写体に反応し、たくさん撮影した中からどれを選んでいくのかという基準がはっきりしているからだ。会場に旧作の「月がついてくる」(2008)シリーズをおさめたファイルが置いてあったのだが、日本で撮影されたそれらとヨーロッパの写真の質感がまったく一緒なのに逆に感心した。どこに行っても「自分の眼差し」を保ち続けられるというのは大事なことだ。
とはいえ、このままでは「玄人好み」の、地味だが悪くない写真ということで終わってしまう。むずかしいかもしれないが、もう一歩踏み出して、被写体の幅と表現方法の幅を広げていくべき時期にきているのだろう。
2009/12/13(日)(飯沢耕太郎)
DOMANI・明日展 2009
会期:2009/12/12~2010/01/24
国立新美術館[東京都]
文化庁海外研修制度で海外に派遣された12人のアーティストの成果発表展。派遣先も作品傾向もてんでばらばらなのになんの意味があるんだろうと思っていたが、たしか行政刷新会議の事業仕分けでも「成果が見えない」とか指摘されていたから、発表することに意義があるのだろう。ちなみに派遣国は半数の6人がアメリカを選び、イギリスとイタリアが2人ずつ。伊庭靖子や吉田暁子らも捨てがたいが、今年のサプライズは藤原彩人。陶を素材に人物をレリーフ状に彫り、着色までしてある。《Swimming Woman》なんか幅4メートル近い不気味な天女像だ。こんなのつくってどうすんだ。
2009/12/15(火)(村田真)