artscapeレビュー

2010年01月15日号のレビュー/プレビュー

平敷兼七 展

会期:2009/12/05~2010/12/26

TARO NASU[東京都]

沖縄在住の写真家、平敷兼七に注目したのは、仲里効の評論集『フォトネシア──眼の回帰線・沖縄』(未來社、2009)におさめられた「小さき者たちの黙示録」という論考だった。そこに登場してくる、吃音であることを、むしろ内在的に引き受けて写真として反転していく写真家像にとても引きつけられたのだ。そのままあまり開かずに本棚に放り込んであった写真集『山羊の肺』(影書房、2007)を引っぱり出して、掲載された写真をじっくり眺めた。衝撃だった。特に逞しくも哀切な、夜の商売をしている「職業婦人」たちのポートレートには、胸を突かれるものを覚えた。
ところがその直後、2009年10月に平敷が那覇で急逝したということを知った。なんともいいようのない悔しい気分でいた所、今度は現代美術作品を主に扱うギャラリー、TARO NASUで、彼の東京では初めての個展が開催されるという話を聞き、また驚かされた。どうやらギャラリーの顧客のひとりが平敷の1970年代以降のヴィンテージ・プリントを所蔵しており、それらを急遽展示するということになったようだ。写真は透明シートにおさめられたままで、壁に一列にピンナップしてある。その数は200点余り。『山羊の肺』におさめられた写真もあるが、未発表のものも多い。
特に上手な写真とはいえないし、プリントも荒っぽいが、光も闇も、善も悪も、強さも弱さも、すべてひっくるめて、目の前にいる人の存在を全身で受けとめ、肯定していくような眼差しの質を感じる。写真から伝わる波動が、優しく温かいものなのだ。彼の写真家としての仕事をまとめて見ることができる写真展、写真集の企画を強く望みたい。

2009/12/15(火)(飯沢耕太郎)

藤岡亜弥「私は眠らない」

会期:2009/12/05~2010/12/26

AKAAKA[東京都]

「赤々舎冬の陣」の掉尾を飾る写真集として刊行されたのが、藤岡亜弥の『私は眠らない』。その発売にあわせて藤岡の個展が清澄白河のスペース、AKAAKAで開催された。
若い写真家の家族写真は見飽きるほど見てきたのだが、藤岡のそれはとんでもないパワーを秘めている。たとえば、展覧会のDMや写真集の表紙にも使われている「祖父」らしき人物の頭部の写真。頭蓋骨に皮膚と薄い毛が貼り付いている様を、真上から鷲掴みにするように写しとったこの写真を見ていると、「生命の器」というべき人間の体がこのような形状をしているのだということに、不意打ちされたような驚きを感じる。同じように「母」らしき人物の立ち居振る舞いも、どこか異常なものがある。ひらひらと異様に骨張った手を動かしたり、フラフープを腰で回したりしている姿は、やはり何か見てはいけないものを覗き見しているような気にさせられる。藤岡が伝えようとしている人間の生のあり方は、とりたてて特異なものではないが、その微かなズレや違和を繋ぎあわせていくと、なんともいいようのない「怪物」めいた様相が立ち現われてくるのだ。生きるということが否応無しに引き寄せてしまう哀しみと、滑稽さと、不気味さと、荘厳さと──おそらくもっと的確な言葉で言いあらわすことができそうだが、今はまだ言葉が追いついていかない。いずれにしてもこのシリーズは、2009年に見た中で、最も奇怪で謎めいた作品といえるだろう。
展覧会には大小様々なフレームにおさめた写真のほかに、映像作品も展示されていた。ひとつは写真集の内容をそのままなぞったものだが、もうひとつの「月が見ている」が面白かった。写真集にもその一部がおさめられているのだが、赤い三角屋根の建物を遠景で画面に取り入れた風景写真の画像の集積である。この建物、どうやら丘の上の老人ホームらしいのだが、藤岡の故郷の呉市のどこからでも見ることができるのだという。それでもつねに遠景として建物や樹々の陰から姿をあらわすだけで、近づくことができない。あたかもカフカの『城』のようなその設定もまた、われわれの生の隠喩なのだろう。以前から感じていたのだが、藤岡亜弥という写真家はただものではない。それが本作ではっきりと見えてきたと思う。

2009/12/16(水)(飯沢耕太郎)

ヤン・フードン──将軍的微笑

会期:2009/12/19~2010/03/28

原美術館[東京都]

映像作品。なかでもタイトルにもなった《将軍的微笑》は、1階のメインギャラリー全体を使った大作。細長い展示室に白いクロスをかけたテーブルを置き、上から料理の映像が映し出される。大勢で食事しているという設定だ。ローマ時代の饗宴や最後の晩餐を現代の中国にダブらせているのだろうか。原館長が思わず子ども時代にこの場所(リビング・ダイニングルームだった)で体験したことを思い出したというほど、五感に訴えるものがある。周囲のモニターでは老将軍のストーリーが語られるが、そんなのはつけたしにすぎない。

2009/12/18(金)(村田真)

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カレンダー for 2010

会期:2009/12/08~2009/12/20

アートスペース虹[京都府]

ヤノベケンジや藤本由紀夫といった作家から現役の学生たちまで、さまざまなアーティストが一堂に会する、まるで寄せ鍋みたいな展示に毎回心躍る。カレンダー展なのだけれど、いつも和やかな雰囲気に包まれている会場で、美術を身近に感じることができる生活って幸せだなあとしみじみ思わされる。今回は吉岡千尋さんの作品と木内貴志さんのカレンダーを購入。今年も(美術に)ありがとう。

2009/12/18(金)(酒井千穂)

stream DEW 2009展

会期:2009/12/18~2010/12/24

INAX:GINZA 7F クリエイティブスペース[東京都]

清水建設で生まれた縦割りでない設計部の新しいチーム「stream DEW」による展覧会。DEWとは「雫」のことであり、その流れが内部から設計を変革することを目的として結成されたという。stream DEWの関わった三つのプロジェクト、《清水建設新本社》《大阪富国生命ビル》《富士ゼロックス統合R&Dセンター》が展示紹介された。いずれも超巨大プロジェクト。確かにスーパーゼネコンの設計は、いわゆる建築雑誌の中では地味に見られがちかもしれない。しかし決してそうではなく、背後のアイディアの斬新さとノウハウの蓄積を力強く表現した展覧会だった。巨大プロジェクトに二十代の若手を抜擢する、高層オフィスの外周部を通路とする、海外の建築家と組んで設計を行なうなど、それぞれのプロジェクトでかなり大胆な勝負をしていることも伺えた。普段知られることの少ないゼネコン設計部の内部を知ることができたのはとても新鮮だった。(なお、12月18日には、藤本壮介 x 五十嵐太郎 x stream DEWによるトークセッションが開かれ、アトリエとゼネコンの最前線による刺激的な対話が生まれていた。)

2009/12/18(金)(松田達)

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