2019年11月15日号
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artscapeレビュー

荒木経惟『道』

2014年12月15日号

発行所:河出書房新社

発行日:2014年10月30日

2014年4月~6月に豊田市美術館で開催された荒木経惟「往生写集──顔・空景・道」で発表された新作「道路」は、心動かされる作品だった。2011年末に転居したマンションのバルコニーから、真下の道路を毎朝撮り続ける。それだけの写真が淡々と並んでいるのだが、背筋が凍るような凄みを感じる。生と死を含む人間界の出来事のすべてが、その縦長の画面にすべて写り込んでいるように感じてしまうのだ。森羅万象を自在に呼び込んでいく、荒木の写真家としての能力がそこに遺憾なく発揮されているといえるだろう。
その「道路」の連作が、写真集として刊行された。『道』には108枚の写真がおさめられている。いうまでもなく「除夜の鐘」の数であり、このところ荒木の作品に色濃くあらわれてきている仏教的な無常観からくるものだろう。ちなみに、彼の実質的なデビュー作である写真集『センチメンタルな旅』(1971年)も108枚の写真で構成されていた。特筆すべきは町口覚によるブックデザインで、最初と最後の2枚以外はほぼ同じ構図の写真がずっと続く縛りの多いシリーズを、「40頁の観音開き」を巧みに使うことで、見事に写真集としてまとめている。「観音開き」で写真の大きさを変えながら、108枚の写真を最後まで見せきっていくのだ。
それにしても、途中に挟み込まれている何枚かのブレた写真が何とも怖い。その瞬間に、霊的な存在がふっと通り過ぎたような気配が漂っている。

2014/11/23(日)(飯沢耕太郎)

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