artscapeレビュー

2013年04月15日号のレビュー/プレビュー

若冲が来てくれました──プライスコレクション 江戸絵画の美と生命

会期:2013/03/01~2013/05/06

仙台市博物館[宮城県]

石巻に用事があり、仙台市博物館に寄る。「若冲が来てくれました」とは奇妙なタイトルだが、これは日本美術コレクターとして知られるアメリカのエツコ&ジョー・プライス夫妻の発案により、東日本大震災復興支援のために若冲をはじめとするコレクションを東北の被災3県に巡回するもの。プライス夫妻のコレクションは2006~07年にも「最後の里帰り展」として全国を巡回したが、今回は震災復興のためもういちど特別公開することに。だから若冲が来てくれたのは東京からでも京都からでもなく、カリフォルニアからなのだ(一部国内コレクションも出ている)。展示は画家別でも時代順でもなく、長沢芦雪の《白いゾウと黒いウシ》などの大きな屏風絵にはじまり、「目がものをいう」「数がものをいう」「プライス動物園」「美人大好き」と、美術的価値とは異なる観点から子どもでも親しめるように構成されている。作品名も《野をかけまわるウマたち》《のめやうたえや、おおさわぎ》《〈かんざん〉さんと〈じっとく〉さん》など、仮名表記でわかりやすく砕いて表わしている。これは肩ひじ張らずにだれでも楽しんで見てもらおうという主催者側の配慮だろう。実際、前に見たときよりずっと作品のおもしろさがダイレクトに伝わってきた。ひとつだけ不満をいえば、芦雪や曽我蕭白や鈴木其一や河鍋暁斎らの作品だって十分見ごたえがあるのに、タイトルが「若冲が来てくれました」になっていること。たしかに「若冲」のブランド効果は抜群かもしれないが、これではほかの絵師たちの立場がないし、プライスコレクションの過小評価にもつながりかねないではないか。

2013/03/28(木)(村田真)

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7人の建築学生展─卒業設計まで考えたこと─

会期:2013/03/22~2013/03/31

Herman Miller ergokiosk 3F Briefing Room[宮城県]

ハーマンミラーエルゴキオスク仙台店にて、「7人の建築学生展─卒業設計まで考えたこと─」を見る。東北大の学生によるもの。学校からのお金がなくても、自前で開催したことはよい試みだ。が、少なくともタイトルに記された肝心のはずの「卒業設計まで考えたこと」のキャプションが読みにくい。字は小さいし、パネルで隠れていたりが、残念である。いかに作品を見せるかという展示の方法にも、もっとこだわってほしい。

2013/03/28(木)(五十嵐太郎)

石ノ森萬画館

[宮城県]

石巻に1泊し、翌朝自転車を借りて海寄りの南浜町や旧北上川の対岸へ行ってみる。瓦礫はずいぶん少なくなったが、ポツンポツンと半壊の家が残るだけであとは土台だけの殺風景な元住宅地は、ほとんどそのまま変わってない。遠目には新築そのままでビクともしてないように見える市立病院と文化センターも、近づいてみると解体工事が始まろうとしていて心が痛む。そんななか、旧北上川の中州に建つ卵形の屋根の石ノ森萬画館が先週リニューアルオープンしたというので、のぞいてみることに。さっそく入口のスロープに「龍神沼」の原画コピーが貼り出されている。忘れもしない『マンガ家入門』に「作例」として載っていた作品だ。当時マンガ家志望で石森章太郎の大ファンだったぼくは、この本をむさぼるように繰り返し読んだものだ。しかし2階の展示室は案の定「仮面ライダー」に支配されていて楽しめなかった(3階は「サイボーグ009」で、こちらは懐しかった)。たどってみると、ぼくが石森章太郎に耽溺したのは60年代までで(「ボンボン」「となりのたまげ太くん」「ミュータントサブ」「サイボーグ009」「ファンタジーワールドジュン」……)、70年になるまでに終わっていたということがわかった。もう40年以上も前だよおおお。

2013/03/29(金)(村田真)

東日本大震災復興支援「つくることが生きること」東京展

会期:2013/03/09~2013/03/31

アーツ千代田 3331 メインギャラリーA, C, D[東京都]

アーツ千代田3331にて、昨年に引き続き、開催された東日本大震災復興支援「つくることが生きること」東京展を見る。最初の導入部では、リアスアーク美術館による明治三陸沖津波の報道画が出品されていた。そのほかには、宮本隆司、畠山直哉らの写真、阪神・淡路大震災のタイムラインマッピング、漂流物でかわいいオブジェをつくるワタノハスマイルなど、東日本大震災に限定せず、さまざまな展示が集まっている。その後、トークイベント「観光資源のネットワークが描く復興のかたち」のモデレータを務める。アーキエイドからは門脇耕三さん、石巻2.0からは西田司さんが、牡鹿半島における小さな拠点をネットワーク的につなぐ新しい観光の可能性を報告し、大西麻貴さんは気仙沼などの風景をつくるプロジェクトについて紹介した。おそらく、最終的に手垢のついた「観光」という言葉に代わる新しい概念をつむいでいくことが重要ではないかと思われた。

2013/03/30(土)(五十嵐太郎)

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フランシス・ベーコン展

会期:2013/03/08~2013/05/26

東京国立近代美術館[東京都]

東京国立近代美術館のベーコン展は、まさに実物を見るべき絵だった。多くの絵画が共通したサイズやプロポーション、あるいは額縁をもち、また作家の意向によって鑑賞者と距離をとるべくガラスをはめているからだ。こうした感覚は書籍やコンピュータではわからない。ベーコンの作品は、一点透視の空間とアクソノメトリックの混在(彼はインテリアデザインの仕事もしていた)、違う画法の共存、異なる身体の接合が指摘できるだろう。独特の色味のなかで、異世界のレイヤーが重なり、ときには衝突する。またデッサンが巧くないがゆえの写真のコラージュ的な技法が、平坦なキャンバスに異なる空間を出現させる。今回、土方巽とウイリアム・フォーサイスのパフォーマンス映像が参考作品としても紹介されていた。前者はどろどろとした情念を身体化し、後者はペーター・ヴェルツと組んで、ベーコンの手法を理知的に分析し、絶筆の痕跡をトレースするもの。なお、ヴェルツ+フォーサイスは、サミュエル・ベケットをモチーフにした作品で、あいちトリエンナーレに参加する。ところで、ミラン・クンデラのベーコン論は、「乱暴な手つき」で埋もれたモデルの自我をむきだしにすると指摘しつつ(漫画の『ホムンクルス』を思い出した)、彼の空想画廊の中でベーコンとベケットは一組のカップルになっていたという。いずれの人物もアイルランド生まれであり、ともにヴェルツ+フォーサイスが参照しているのは興味深い。

2013/03/31(日)(五十嵐太郎)

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