artscapeレビュー
2013年11月15日号のレビュー/プレビュー
ターナー展 Turner from the Tate: the Making of a Master
会期:2013/10/08~2013/12/18
東京都美術館[東京都]
日本では久しぶりの大規模なターナー展。ターナーというと、晩年の朦朧とした大気の表現が印象派の先駆けみたいにいわれるが、初期の作品を見ると意外と古風で、レンブラントやクロード・ロランを彷彿させる。でも40歳をすぎるころからクセのある色彩や丸みを帯びた形態、かすんだような大気の描写が出てきて、なにかこの世のものとは思えない光景が現出し始める。晩年のモネと同じく目をわずらったんじゃないかと勘ぐるのだが、細部は意外としっかり描き込んであって、むしろその粗密の落差がターナーらしさを生み出しているのかもしれない。「崇高」を絵に描いたような《グリゾン州の雪崩》、古典主義的な《ディドとアエネアス》、夢の情景みたいな《チャイルド・ハロルドの巡礼──イタリア》、クロード・ロランに触発された《レグルス》、ラファエロのいるパノラマ画《ヴァティカンから望むローマ》、モネを思い出す《湖に沈む夕陽》など佳品が少なくない。首をひねったのは、縦長の画面を水平に分割した抽象画。これは《三つの海景》というタイトルのように、三つの水平線を縦に並べたものだが、まるでロスコの絵みたい。もうひとつ興味深かったのは、画家愛用の絵具箱が出ていること。箱のなかには小さなガラス瓶や豚の膀胱でつくった袋入りの絵具が並び、登場したばかりのチューブ入り絵具が1本だけ入ってる(色は多用したクロームイエロー)。ようやく晩年になってチューブ入りの絵具が発明され、戸外での制作が容易になったのだ。
2013/10/11(金)(村田真)
竹内栖鳳 展──近代日本画の巨人
会期:2013/09/03~2013/10/14
東京国立近代美術館[東京都]
終了間際の土曜日なので開館時間の10時ちょうどに駆けつけたら、すでに約100メートルの列が。20分待って入館。「東の大観、西の栖鳳」といわれるように大観とはライバル関係といわれているが、人気や知名度ではかなわないものの絵のうまさでは栖鳳のほうが大観よりはるかに上だ。でもこれ見よがしに技巧に走る作品もあって、いささか鼻につくのも事実。ライオン、骸骨、女性、富士山などなんでも描き倒したなかで圧巻というか仰天なのは、ヨーロッパの風景を水墨で描き屏風に仕立てた《羅馬之図》や《和蘭春光・射伊太利秋色》。まるでターナーだが、東西の画法と美意識が混在したさまは、まさに鵺(ヌエ)のようにとらえどころがない。
2013/10/12(土)(村田真)
あいちトリエンナーレ2013 映像プログラム「短編2 若人の大地」
会期:2013/10/12
あいちトリエンナーレの映像プログラム、短編集「若人の大地」を見る。ぬQの「ニュ~東京音頭」、室谷心太郎「平成アキレス男女」、加藤秀則「あの日から村々する」など、震災後の世界を意識しつつも、笑いを伴う作品を集めたものだ。姫田真武の作品「ようこそぼくです」の音、色、強烈な自己愛はクセになりそう。夜に上映されたパールフィ・ジョルジの「ファイナル・カット」は、映画450本の引用のみで構成された作品である。恋、ケンカ、目覚め、別離、結婚、死闘など、テーマごとにお決まりの場面をつないでいく。ステレオタイプな物語として再編集された映画史である。地下二階の展示、編集と音の文法を逆利用したニコラス・プロヴォストの映像と比べて鑑賞するのも興味深い。
2013/10/12(土)(五十嵐太郎)
原芳市「ストリッパー図鑑」
会期:2013/09/25~2013/10/20
汐花[東京都]
原芳市の快走はさらに続いている。今回、東京・根津のギャラリー、汐花(Sekka Borderless Space)で開催されたのは、1982年に刊行された写真集『ストリッパー図鑑』(でる舎)の収録作品の印刷原稿として使われた、6切りサイズのプリント22点である。
やや黄ばみかけたヴィンテージ・プリントを見ていると、身を捩るような切なさがこみ上げてくる。原はこれらの写真を1974~80年にかけて撮影したのだが、その時期、全国各地には300館近いストリップ劇場があり(現在はその10分の1ほど)、踊り子さんの数もかなり多かった。彼が丹念に劇場を回り、踊り子さんたちと細やかな交流を積み重ねながら撮影したこれらの写真群は、彼女たちの揺るぎのない存在感を見る者にしっかりと伝える。踊り子さんたちの優しいけれどこちらを強く見据える眼差し、愁いと諦めを含んだ表情、薄い裸の胸、やや弛んだ腰まわり、そして彼女たちの楽屋に散らばっているぺらぺらの衣装や化粧品の類──原が写しとったそれらの細部が、もはや二度と見ることができない輝きを発しているように感じるのだ。文字通り体を張って生き抜いている者だけに許された、奇蹟のような一瞬の集積。「ぼくが愛してやまない踊り子たちの誇り高き肖像」。まさに埋もれていた名作と言えるのではないだろうか。
なお、汐花では新宿の路上写真家、渡辺克巳が残した1960~70年代のポートレート作品を定期的に展示している。本展と同時期には、その3回目として「HAPPY STUDIO!」展が開催されていた。
2013/10/13(日)(飯沢耕太郎)
あいちトリエンナーレ2013 パフォーミングアーツ ARICA+金氏徹平「しあわせな日々」
会期:2013/10/12~2013/10/14
愛知県芸術劇場 小ホール[愛知県]
ARICA+金氏徹平「しあわせな日々」は、身体がほぼ埋まった異常事態にもかかわらず、些細なことをしゃべり続け、日常の所作を維持しようとする女を描く、ベケットを原作にした演劇である。今回は、金氏徹平が舞台装置を担当したが、いつものカラフルなお菓子細工のような、食べられそうな雰囲気とは違うタイプの作品をつくり、それが秀逸だった。これがNHK紅白歌合戦での小林幸子の身動きできぬ巨大ドレスのような、被災物の集積にも見える身体の鎧である。「しあわせな日々」において、安藤朋子は動けないから上半身だけ、そして最後は頭だけで演技を行なう。今回のトリエンナーレでは、梅田宏明も、立ち位置をほとんど変えずに踊った。田尾下哲による「蝶々夫人」と朗読劇も、立ち尽くすシーンが重要である。立つという意味では、「われわれはどこに立っているのか」というテーマと呼応し、片山真理、クリスティン・ノルマン、ミハイル・カリキスも場所に立つことをめぐる作品だった。
2013/10/13(日)(五十嵐太郎)