2021年09月15日号
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artscapeレビュー

2009年12月15日号のレビュー/プレビュー

若冲ワンダーランド

会期:2009/09/01~2009/12/13

ミホ・ミュージアム[滋賀県]

日帰りで滋賀県の山奥のミホ・ミュージアムと神戸ビエンナーレを見てしまおうという無謀な旅。まず朝一の新幹線で京都に出て、琵琶湖線で石山まで戻り、バスに50分ほど揺られて信楽の里に到着。バスは1時間に1本しかないので、これを逃すと神戸に行けなくなるのだ。さすが宗教団体のやってる美術館だけあって、桃源郷をイメージしたというロケーションといい、トンネルをくぐって美術館に着くアプローチといい、I・M・ペイ設計のなかば地中に埋もれた建築といい、まるで別世界に来てしまったよう。若冲展は辻惟雄館長の肝煎りだけに、「皇室の名宝」展に出ていた《動植綵絵》を除く代表作の大半を集めましたって感じで恐れ入る。ただ、会期が長いだけに展示替えも多く、いっぺんに見られないのが残念だが。目玉は同展開催のきっかけとなった新発見の《象と鯨図屏風》。オバQみたいな白象と、潮を吹く黒い背中だけしか見えない鯨の対比図で、冗談で描いたとしか思えない。近年、商売や人づきあいが苦手だから絵に走ったとする「若冲=おたく」説が修正を迫られているが、しかしこの絵を見る限り若冲は、フツーの人から「どこ見てんだ?」「なに描いてんだ?」とツッコまれるボケ役として尊敬されていたに違いない。

2009/11/13(金)(村田真)

LINK──しなやかな逸脱

会期:2009/10/03~2009/11/23

兵庫県立美術館[兵庫県]

信楽から船に乗って神戸に着いた。ウソ。石山からJRに乗って来ましたよ。ただ、京都で新幹線に乗り換えて新神戸まで行ったのは失敗だった。新快速で直接三宮まで行ったほうがずっと安く、時間もそれほど変わらなかったからだ。よし次回は新快速だ。ってもう2度とミホまで行くか。「リンク」は神戸ビエンナーレの1企画で、招待作家部門という位置づけらしいが、街を活性化させようと始まったビエンナーレなのに、美術館内でやるってのもどうよ。しかも出品作家12人のうち絵画が4人を占めていて、なんか内向きでないか。そんななか、唯一美術館を外に開こうとしたのが島袋道浩だ。美術館の手前の海に面した巨大な地下施設を開放したのだ。この空間は雨水をためる貯水槽のような役割をはたしているらしく、鍾乳洞のようにつららまで垂れ下がっている。入口でヘルメットを渡され、「事故があっても知らないよ」みたいな誓約書にサインさせられて入っていく。美術館のバックヤードツアーというのはあるが、これは美術館とは直接関係ない施設。よく開放したもんだ。

2009/11/13(金)(村田真)

神戸ビエンナーレ2009

会期:2009/10/03~2009/11/23

メリケンパークほか[兵庫県]

そして、神戸ビエンナーレ。美術館近くの船着場からメイン会場のメリケンパークまで船で行ったのだが、その途中の防波堤に出色の作品が。突堤の上にコンクリートの板を斜めに置いた植松奎二の《傾くかたち》と、30年前のBARローズチューを再現した榎忠の《リバティ・アイランド》。メリケンパークには前回同様コンテナが70個近く並んでいるが、そのうちの約半分はいけばなや陶芸なので見ない。見るのはコンペで入賞した「アートインコンテナ国際展」だけ。作品は、暗くて密閉されたコンテナ空間の特性を生かして映像や光を使ったものが多いが、まあ9割は見るに値しない。大賞を受賞した戸島麻貴の《ビヨンド・ザ・シー》も映像だが、さすが見ごたえがある。床に白い砂を敷き、上から映像を流す趣向で、波打ち際の海岸や花畑などの映像が音とともに歯切れよく移り変わっていく。見ていて気分がいい。戸島、やったな。

2009/11/13(金)(村田真)

gallerism 2009

会期:2009/11/02~2009/11/14

大阪府立現代美術センター[大阪府]

大阪、京都などの12の画廊がそれぞれ推薦アーティストの作品を紹介。毎年開催されている展覧会だが、前年の出品作家の中から「次回も見たいアーティスト」として来場者と参加ギャラリーの投票で選出された作家のアンコール展示も同時に行なわれている。今回は牛島光太郎。先月、神戸ビエンナーレで見た展示と同様の作品がいくつか展示されていた。刺繍されたテキストと身近にある道具が紡ぐロマンティックな物語の作品はどれも魅力的でまたしてもその才能に脱帽。シリーズ小説の新刊が待ち遠しい思いそのままに次の活動が楽しみだ。

2009/11/13(金)(酒井千穂)

普後均「On the circle」

会期:2009/11/04~2009/11/17

銀座ニコンサロン[東京都]

普後均は1980年代からの長いキャリアと、高度な技術を持つ写真家で、これまでも安定した水準にある作品をコンスタントに発表してきた。今回の「On the circle」もなかなか見応えがある。だがそれだけではない。正統派のイメージを打ち破る、ひねりを利かせた快作でもある。
タイトルが示すようにテーマは「円」(サークル)。雑草が生えている庭のような場所に、コンクリートのようなもので固められた丸い空間がしつらえてある。その「円の上で」いろいろな出来事が起こる様子を、写真家はやや上方から写しとっている。風船に囲まれた青年、バレリーナと中年の男女、中華鍋で顔を隠した花嫁、舟の上の老婆──さらに「円」の周囲では四季が巡って、草は枯れたり茂ったりし、雨や雪が降り、不意に炎が燃え上がったりする。つまりこの「円」は世界そのものの寓意であり、そこでは写真家が呼び寄せた人物たちによる、さまざまな出来事が起こっては消えていくのだ。
このような演劇的な手法は、ともすれば底の浅いものになりがちだが、あえて淡々と撮影することで、静かな、抑制された雰囲気を作り出したことが逆に成功している。普後の師匠である細江英公なら、もっとドラマチックな演出を試みそうだが、そのあたりに写真家のスタイルが滲み出てくるということだろう。そういえば、普後の代表作である『FLYING FRYINGPAN』(写像工房、1997年)も、フライパンの丸い形にこだわったシリーズだった。「円」は彼にとって、魔術的な意味合いを持つイメージの生成装置なのだろうか。

2009/11/14(土)(飯沢耕太郎)

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