artscapeレビュー

2009年12月15日号のレビュー/プレビュー

長倉洋海「シルクロード──人間の貌」

会期:2009/11/02~2009/12/19

キャノンギャラリーS[東京都]

長倉洋海はいま一番信頼できるドキュメンタリー写真家の一人だろう。彼は1980年代から、上からの目線ではなく自分が体験した出来事、出会った人間たちに寄り添うようにして長期間にわたって撮影していく「私報道」の形を模索していった。アフガニスタンのゲリラの指導者で、2001年に暗殺されたマスードの戦いと人間像を捉えたシリーズ『獅子よ瞑れ──アフガン1980~2002』(2002年)などによって、国際的な評価も高まりつつある。
今回の展覧会は、足掛け5年にわたるシルクロード取材が完結したことを受けて開催されたものだが、シルクロードの地域に生きる「人間の貌」というテーマに絞り込むことで、とても見やすく共感を抱きやすい展示になっていた。会期中には7回のギャラリートークが予定されており、そのうちの1回を聞くことができたのだが、1枚1枚の写真について、実に丁寧に観客に語りかけていた。50人あまりの観客が初老の男性から女子高生まで、実にバラエティに飛んでいるのが印象的だった。そこに込められた長倉の思いや撮影時のエピソードを知ることで、その写真の背景がよりくっきりと浮かび上がってくる。写真家本人と作品とを重ねあわせるような視点を強く打ち出すことは、特にドキュメンタリー系の写真の展示において大事になってくるのではないだろうか。なお。写真家生活30年間の代表作を集成した『地を駆ける』(平凡社)が刊行され、会場でも販売されていた。川畑直道による、写真の視覚的な流れに配慮した装丁・レイアウトが素晴らしい。よく練り上げられた、厚みのある内容の写真集である。

2009/11/21(土)(飯沢耕太郎)

わくわくJOBAN-KASHIWAプロジェクト

会期:2009/11/01~2009/11/29

TSCA、旧シネマサンシャイン[千葉県]

11月4日に急逝した渡辺好明さんのお別れ会が東京藝大取手校地であり、常磐線で帰りに柏に寄る。これは「アートラインかしわ2009」のメインプログラムで、アンテナ、岩井優、遠藤一郎、下西進、のびアニキ、水川千春ら約50組のアーティストが、映画館跡と倉庫を改装したギャラリーの2カ所を中心に作品を繰り広げている。映画館のガラス窓に外の風景をトレースした海野貴彦、壁に小さな山の彫刻を置き、数メートル向こうから望遠鏡でのぞく山下耕平らの作品に注目。せっかく柏まで来たんだからどこでも見られる作品ではなく、その場所ならではの空間特性を生かした作品に高得点をあげたい。取手アートプロジェクトをはじめ守谷、北千住などのアートプロジェクトにも関わり、秘かに「常磐オヤジ」と自嘲していた渡辺さん、見てますか。

2009/11/22(日)(村田真)

東京コンテンポラリーアートフェア2009

会期:2009/11/21~2009/11/23

東京美術倶楽部[東京都]

現代美術系の画廊もそうでない老舗画廊も、商業画廊も貸し画廊も呉越同舟のアートフェア。といっても、いま述べた違いが出品作品からは判断しづらくなり、みんな似たり寄ったりになってきたような気がする。だから同舟できたんだろうが。こうしてなんでもかんでも現代美術化していくのか、むしろなしくずし的に現代美術が消滅しつつあるというべきかもしれない。

2009/11/23(月)(村田真)

藤井保「BIRD SONG」

会期:2009/11/06~2009/12/05

MA2 GALLERY[東京都]

藤井保は広告写真の仕事でも知られているが、シリアスな写真の分野でも意欲的な作品を発表してきている。今回の展示は北海道や東北地方で渡り鳥の群れを追って撮影した連作。「その飛翔の姿・形を鳥の生態や風景としてではなく幾何学的な模様として白い空の中に淡々と描いてみたいと思った」という意図が明確に貫かれていて、気持のよい作品群に仕上がっている。
「BIRDS SONG」というタイトルにふさわしく、群れの形がまさに音符のように見えるものもあり、一羽の鳥の姿をクローズアップし、ブレの効果を活かした作品もある。モノクロームが中心だが、カラー写真はなんと「写ルンです」で撮影したのだそうだ。余分な要素を切り捨て、「鳥を見る」という行為に徹底していることが清々しい印象を与える。純粋に好奇心を働かせて見続けていることの歓びが、ストレートに伝わってくるのだ。藤井の作品は、これまでどちらかといえば重々しい印象を抱かせがちだったが、このような「軽み」を感じさせる写真にむしろ新たな方向性を感じる。

2009/11/26(木)(飯沢耕太郎)

孫遜 Sun Xun展

会期:2009/11/27~2009/12/09

ZAIMギャラリー[神奈川県]

横浜市・北京市アーティスト・イン・レジデンス交流事業で来日し、ヨコハマ国際映像祭にも参加した孫遜の個展。本のページに墨でドローイングを描き、それをつなげてアニメにしている。なにか政治的メッセージがこめられているのだろうか、人物は透明人間のように頭と手がなく(服だけ)、中国の地図が変形しつつ登場する。意味はわからなくてもなにか伝わってくる作品。

2009/11/27(金)(村田真)

2009年12月15日号の
artscapeレビュー