artscapeレビュー

2009年12月15日号のレビュー/プレビュー

柴田敏雄「a View」/「For Grey」

a View
会期:2009年10月30日~11月29日
BLD GALLERY[東京都]
For Grey
会期:10月30日~11月25日
ツァイト・フォト・サロン[東京都]

同時期に開催された柴田敏雄の二つの個展。BLD GALLERYの「a View」は1993~2007年に撮影されたモノクロームの未発表風景作品を、ツァイト・フォト・サロンの「For Grey」では、近作のカラー作品を展示している。「a View」は日本各地のインフラストラクチャー建造物をきっちりと細部までシャープに押さえた手慣れた(見慣れた)作画であり、正直それほど新味はない。ただ、全体に水の流れの質感をとらえた作品が多く、抽象化となまなましい物質感が共存して、ダイナミックな効果をあげている。
「For Grey」はかなり面白かった。カラー写真への「転向」は、柴田の写真に新たな視覚言語を付け加えたのではないだろうか。モノクロームの冷ややかな物質性は、より官能的な色相のパッチワークに置き換えられ、見る者を柔らかに包み込むのびやかな雰囲気が生じている。普通なら、年齢を重ねていくごとに研ぎ澄まされ、洗練された枯淡の境地に向かうはずなのに、柴田がまったく逆の方向に進みつつあるのが興味深い。そのみずみずしい表現力によって、日本の風景をまったく思いがけない角度から見直すことができるようになったのが、実に目出たい。カラーなのに「For Grey」(灰色のために)というタイトルにも、余裕のあるユーモアを感じる。なおAkio Nagasawa Publishingから同名の2冊の写真集も刊行されている。

2009/11/14(土)(飯沢耕太郎)

吉岡宣孝 展「全景」

会期:2009/11/09~2009/11/15

トキ・アートスペース[東京都]

街なかに立ち、足下から頭上まで少しずつ風景を写していく。少し角度を変えてまた足下から頭上まで……を繰り返し撮った写真をつなげて円形または螺旋形に構成した作品。ホックニーの写真作品に近いが、吉岡のは全方位が収められ、しかも昼─夜─朝と時間の推移も写し出されている。もっと精度を上げればかなりおもしろいものになりそう。しかし1日中街なかに立って足下から頭上まで写真を撮るわけだから、ハタから見れば変なおっさんだろうなあ。

2009/11/14(土)(村田真)

ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト

渡邉英徳は、東京理科大学の小嶋一浩研究室で建築を学んだ後、リアルな世界の建築からヴァーチュアルな世界の建築へとフィールドを移した人物である。自らを仮想空間クリエイター/アーキテクトと呼ぶ。ゲーム制作会社フォトンを立ち上げ、現在は首都大学東京で教鞭もとる。彼のもっとも新しいプロジェクトが、《ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト》である。人口1万人のミニ国家、海抜が最高で5mであるためつねに国家存続の危機に立たされているツバルの住民の存在を、世界に伝えることが目的であり、主に、Google Earth上に展開されている1万人の国民への取材とGPS情報付きの写真情報、そしてPhotosynthを用いたインタラクティブコンテンツという三つのコンテンツで構成されている。ここでは現実空間の仮想空間上での視覚化が試みられているが、彼の活動領域は、Second Life上で空間を構築する、ネット技術を駆使した映像プロジェクトなど多彩である。直接話を聞いたところ、どこまでが活動領域であるのか明確に決められないということであったが、仮想世界での建築家を志した数少ない人物のひとりとして、今後の活動に注目したい。なお、ツバルのプロジェクトは文化庁メディア芸術祭「アート部門/Web」にて、審査委員会推薦作品に選出された。

作品設置URL:http://tv.mapping.jp/

2009/11/15(日)(松田達)

Graffiti Research Lab Kyotoレクチャー GRL x contact Gonzo x 遠藤水城

会期:2009/11/15

喫茶はなれ[京都府]

レーザーポインタを用い、建物に光のグラフィティを描く活動で知られるアートユニット、The Graffiti Research Labが京都に滞在。12日間の滞在期間中、活動「基地」を設置し、この機に結成された京都のチームとともに、ワークショップを開催したり、夜の街中でパブリックパフォーマンスを行なっていた。実際にその活動を見ることが叶わなかったのでこちらのレクチャーへ。都市をハッキングするというGRLの活動の紹介とともに、実践されたさまざまなパフォーマンスの様子はインターネットでも公開されていた。たしかに面白いものもあるのだが、京都での活動のなかには、踏切をコートに見立ててバトミントンをしたり駆けっこをする「元田中五輪」など、これってクリエイティブな行為なの?と疑問に思うものも。それよりも、このレクチャーで同時に紹介されたcontact Gonzoの“殴り合い”や“飛び降り”のアートワークのほうが個人的には興味深い。彼らの活動の共通点と違いについて考える機会になったのがただ収穫だった。

2009/11/15(日)(酒井千穂)

古代ローマ帝国の遺産

会期:2009/09/19~2009/12/13

国立西洋美術館[東京都]

これまで西洋美術館で古代美術をやったことあったっけ。コレクションはルネサンス以降だし、と思って調べてみたら、そうそう1964年の「ミロのヴィーナス特別公開」を忘れていた。以来10年に1度の割合で開いてる。今回は館長の青柳正規が古代ローマの研究者だから納得の企画。出品はおもにポンペイとその周辺で発掘された絵画、彫刻、日用品などだが、なんといっても注目したいのはフレスコ画の美しさだ。巧みな筆づかいでサラサラッと描いている。でもこれらのフレスコ画で古代ローマの「絵画力」を推し量ってはいけない。だってこれらの壁画はいまでいえば壁紙みたいなもの。アペレスのようなもっと巧みな画家はタブローを描いたのかもしれないけど、ひとつも残っていないからね。

2009/11/17(火)(村田真)

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