artscapeレビュー

津田直「SMOKE LINE──風の河を辿って」

2009年01月15日号

会期:10月28日~12月21日

資生堂ギャラリー[東京都]

津田直の仕事に注目したのは、彼の2冊目の作品集『漕』(主水書房、2007)を見てからである。「丸子船」と呼ばれる琵琶湖を行き来していた幻の舟を、言葉と映像によってさまざまな角度から追い求めていくこの作品集は、思考を形にしていく彼の能力の高さと、写真を使いながら写真を超えていこうとする意欲を見事に表現し切っていた。そして今回、彼の新しいシリーズ「SMOKE LINE──風の河を辿って」の展示と作品集の刊行(赤々舎)によって、津田はわれわれの前に無限の可能性を秘めた新しい才能の出現をはっきりと示してくれたと思う。
資生堂ギャラリーに展示された写真群は、中国の黄山、モロッコの山間の村シケール、そしてモンゴル北部のツァーガン・ノールの3カ所で撮影されている。この地理的にも文化的にもかけ離れた3つの場所を繋いでいるものこそ「風の河」。大気の流れが澱みや結節点を作り出す、そのようなキーポイントを津田は五感を最大限に開放して選びとり、撮影した。とはいえ、彼は単純に風に揺れている草を写しとるようなことはしていない。「風の河」の行方は、そののびやかに広がる風景のイメージそのものから、われわれも心を大きく開いて察知していかなければならない。2枚の写真をセットにして横に繋いでいく、その流れを辿っていくうちに、まさに風にさらわれて空をゆくような、風景の中に体の細胞が解きほぐされて溶け込んでいくような、とても気持ちのいいトリップ状態が訪れてくる。
写真を魔術的な道具として鍛え直し、再構築していこうとする21世紀のシャーマニズム。だが宗教的な堅苦しさや強制力は微塵もなく、そこにはポジティブな自発性と、内から湧き出てくるような創造の歓びが息づいている。

2008/11/07(金)(飯沢耕太郎)

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