artscapeレビュー
石川直樹『VERNACULAR』/『Mt. Fuji』
2009年01月15日号
- VERNACULAR
- 発行所:赤々舎
発行日:2008.12.24 - Mt. Fuji
- 発行所:リトルモア
発行日:2008.12.24
石川直樹も期待の若手写真家。「五大陸最高峰最年少登頂」という「冒険家」としての実績に加えて、昨年来写真集を立て続けに上梓し、『最後の冒険家』(集英社)で第6回開高健ノンフィクション賞を受賞して話題を集めるなど、各方面での活躍が目立つ。
『VERNACULAR』はその彼の新作写真集。フランス、エチオピア、ベニン、カナダ、ペルー、ボリビア、さらに沖縄の波照間島、岐阜県の白川郷などを巡り、その土地に固有の住居の姿を、ほぼ正面から記念写真を撮影するように捉えている。たしかに人がどのように家を建てて住みつくかを比較することで、「VERNACULAR」すなわち風土性、地域性、土着性のあり方を探るという石川の狙いは的確であり、スケールの大きな構想力とプロジェクトをきちんと実行していく優れた能力を感じさせる。ただし肝心の写真そのものに、弱々しく、緊張感を欠いているものが多いように思えてならない。旅の途上で撮られたプライヴェートなスナップを、主題となる写真のあいだに散りばめていく構成は、前作の『NEW DIMENSION』(赤々舎、2007)以来のものだが、その腰の据わらなさが逆効果になっている気がするのだ。
その点では同時発売された『Mt. Fuji』の方が、写真集としての構成はすっきりしている。19歳での初登頂以来、20回以上登っているという経験の積み重ねが、地を這うような登山者の視点へのこだわりにうまく結びついている。だがこの写真集でも、後半部分に祭りや寝袋などの写真が出てくるとイメージが拡散してしまう。石川にいま必要なのは、言いたいことを全部詰め込むのではなく、むしろ抑制し、集中力を高めていくことなのではないだろうか。
2008/12/31(水)(飯沢耕太郎)