artscapeレビュー
森山大道「HOKKAIDO」
2009年01月15日号
会期:12月19日~2月8日
RAT HOLE GALLERY[東京都]
森山大道は1978年5月から約2ケ月間北海道に滞在し、道内をあてもなくさまよいながら撮影を続けた。当時「名状しがたい不安」「欠落感」を抱え込んでいた彼は、「よし、もう一度日本中を見てやろう」という決意を固め、その最初の場所として北海道を選んだのだった。以前から明治時代に北海道開拓使の依頼で田本研三らが撮影した「北海道開拓写真」に惹かれるものがあり、彼らの記録写真と「もしかしたらある一点で、時間を超えてクロスすることができるかもしれない」(「写真記『北海道』」『新アサヒカメラ教室2』朝日新聞社、1979)というのが動機だったという。
結果的には「撮れば撮るほど、北海道の地が際限なく広がっていくような」無力感に捉えられるばかりで、思うような成果は得られなかったようだ。日本全国をもう一度しらみつぶしに撮り直してみるという計画も、結局北海道だけで挫折してしまう。だが今回RAT HOLE GALLERYで、初めて展示されたこの時の写真を見ると、森山が既にスナップシューターとしての揺るぎない眼差しを備えており、自分の体質に即した写真のスタイルを確立していることがよくわかる。特に大地に根ざした女性たちの姿を捉えた写真群には、森山の初期写真を特徴づけていた荒々しい苛立ちの身振りに代わって、「演歌的」とでも言いたくなるような安らぎを含み込んだ叙情性がはっきりとあらわれてきている。一般的には「大スランプ」の状態にあったとされるこの時期の森山の、写真家としての底力をあらためて感じさせてくれる充実した展示だった。
2008/12/25(木)(飯沢耕太郎)