artscapeレビュー

甦る中山岩太──モダニズムの光と影

2009年01月15日号

会期:12月13日~2月8日

東京都写真美術館3F展示室[東京都]

柴田敏雄展と同じ日にオープンした中山岩太展。こちらは1910~20年代にニューヨークとパリに居を定めて活動し、帰国後は兵庫県芦屋にスタジオを開設して、日本の戦前のモダニズム写真の中心人物となった中山岩太(1895~1949)の回顧展である。まったく対照的な企画だが、両方見ると写真表現の位相の広がりを感じることができる。目と頭を切り替えるのが大変そうではあるが、逆にちょっと得をしたような気分になるかもしれない。
ポスターやカタログの表紙にも使われている煙草をくゆらす女性のポートレート「上海から来た女」(1936年頃)は、一度見たら忘れられないような強い印象を残す作品である。物憂げな表情、光と闇の強烈なコントラスト、外人のダンサーをモデルにしているので、時代や撮影場所を特定できない不思議な時空間に落ち込んでいくように感じる。この作品も含めて、中山は常に美意識をぎりぎりまで研ぎ澄まし、外遊中に身につけたデカダンスの感覚を写真に刻みつけようとした。「私は美しいものが好きだ。運悪るく、美しいものに出逢わなかつた時には、デッチあげてでも、美しいものを作りあげたい」。彼は1938年にこんな言葉を書き残している。このような強烈な耽美主義は、戦争の泥沼に沈み込んでいこうとしていた時代においてはきわめて稀なものといえるだろう。
今回の展示は代表作55点によるものだが、そのなかには1995年の阪神・淡路大震災で、芦屋のスタジオが倒壊した時に救い出されたネガから、新たにプリントされた作品も含まれている。プリンターはラボテイクの比田井良一。劣化したネガからいかに情報を最大限に引き出して、オリジナルに近づけるか、その技術力の粋が凝らされている。あらためてモノクロームの銀塩プリントにおける、プリンターの役割の大きさを感じさせてくれた展示だった。

2008/12/12(金)(飯沢耕太郎)

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