artscapeレビュー

2009年11月15日号のレビュー/プレビュー

MEGAHOUSE 都市を使い切るために by ABE hitoshi+MOTOE masashige/motion graphics by wowlab

会期:2009/09/30~2009/10/11

京都造形芸術大学 GALLERY RAKU[京都府]

“「MEGAHOUSE(メガハウス)」は、新たな都市生活のあり方を提案するプロジェクト”と書かれた本展フライヤーのテキストも、「都市を使い切るために」というそのタイトルも、まるで新聞に挟まっている広告チラシ。見事なまでに空々しい響きだ。それだけにどんな展覧会なのか気になり、足を運んだ。本展は、すでに実用化されているテクノロジーを発展させた、MEGAHOUSEというシステムモデルのプレゼンテーションという内容で、会場はプロジェクターを用いたアニメーションのパノラマ展示で構成されていた。来場者がスクリーンに映るカタログから好きな商品(空間)サービスを選択し、MEGAHOUSEユーザーとしてその消費システムを実際にシュミレーション体験することで、このプロジェクトの詳細を把握できるようになっている。都市に散在する空室を「MEGAHOUSE社」が借り上げて集中管理。登録したユーザーは、好みの空間をネットワーク上の選択肢から選び予約し、自由に使用する。MEGAHOUSE社にはユーザーのデータが蓄積される、という流れ。都市自体をプライベートな住居空間の拡張としてとらえたものだが、仕組みはつまり「アマゾン」と同じなので、特に新鮮な感覚はない。ただ、会場には実際に来場者がシュミレーションしたデータが残されていて、これまでに選ばれた人気ナンバーワンの空間や、多くの人にチェックされた空間サンプルなどもすぐに見ることができる。自分の好みを用意された選択肢から探すわれわれの生活とその管理消費システムを、いかにもお洒落な雰囲気で見せていたこの展覧会はすべてが皮肉の再現だった。最初のイメージは見事に裏切られ愉快だった。

2009/10/08(木)(酒井千穂)

日下部一司「箱写真」

会期:2009/10/08~2009/11/15

京都造形芸術大学芸術館[京都府]

通常のはがきよりも少し小さなDMのイメージが美しくて印象的だったのだが、実際の展示も心躍った。普段は、中央アジアやシルクロードに由来する工芸、縄文時代の土器や装身具などを展示している京都造形芸術大学の芸術館。そのガラスケースのひとつで、「One Piece Gallery」と題した現代美術の作品展が開催されている。今回は3回シリーズの第1回目。蓋つきの小さな桐の箱に入っていたのは、名刺サイズのモノクロ写真。植物や風景がぼんやりと写っている。ほとんどが何気ない日常的な場面のようだが、どれもまるで宝物のように輝いて見えるから不思議だ。当然だが、その貴いほどのイメージは、もはや履いて捨てるほど溜め込んで保存しているデジカメ写真とは月とスッポンくらい違う。小さな箱の中の虚ろな風景世界に引込まれていく心地良いひととき。

2009/10/08(木)(酒井千穂)

ZAIMフェスタ・フィナーレ

会期:2009/10/02~2009/10/12

ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター(YCC)+創造空間9001+黄金町バザールコミュニティ[神奈川県]

ZAIM別館が使えなくなったかわりに、ZAIM以外の近隣の文化施設にも作品を展示できることになったので見に行く。YCCでは地下の空間にシムラブロスをはじめとする映像インスタレーションを、9001では今井紀彰が母とのコラボレーションを、黄金町ではフランシス真悟が壁画を見せている。感心したのは黄金町で、フランシス真悟の壁画にばかり気をとられ、真ん中に柱が立ってることに気がつかなかった。そういえばここへは何度か来てるけど、こんなとこに柱なんかなかったなあ。これがスクエアミーターの作品で、ZAIMの柱のコピーだそうだ。座布団1枚。

2009/10/09(金)(村田真)

The Horizon

会期:2009/10/10~2009/10/18

ASPHODEL 1F-3F(京都市東山区八坂新地末吉町99-10)[京都府]

京都大学高松伸研究室による展覧会で、2002年から開かれ今回で6回目。場所は梅林克氏設計のASPHODELというギャラリー内。卒業設計日本一展に出展された作品を中心に、学部生の作品が並ぶ。鉛筆による精密なドローイングにはじまり、一回生から四回生までの建築を学ぶ軌跡も見えてくる。ジャン・ヌーヴェル張りの濃密な黒の図面空間は、日本の建築メディアで一種の主流とされているだろう「白い建築」とは一線を画する。学生がつけたという「The Horizon」という今年のタイトルが気になった。梅林氏、研究室の学生らとの対話の場で(今回、「建築の地平」というテーマで、展覧会をめぐり建築系ラジオの公開収録討議が開かれた)、学生側からは「根源」を目指すのだというコンセプトが聞けたし、それは何か論理の不可能性を示す地点=「神」なるものを建築に降臨させることのようにも解釈できた。あるいは、梅林氏の言うように「密教の行」的な方法論ではじめてたどり着く地点なのかもしれない。いずれにせよ、それらは建築をつくるための「論理を超えた」方法論を示唆しているように思われ、興味深かった。

展覧会URL:http://www.archi.kyoto-u.ac.jp/~takamatsu-lab/exhibition/horizon/index.html

2009/10/11(日)(松田達)

写真と民俗学 内藤正敏の「めくるめく東北」

会期:2009/10/03~2009/11/08

武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]

写真家という人種には変人が多いが、内藤正敏はその中でも極めつけの一人。何しろ羽黒山で修験道の修業をして山伏の資格を持っているのだ。写真家としてもユニークな仕事ぶりが知られているが、むしろ民俗学の世界でその業績が高く評価されている。『遠野物語』の「山人」の描写を、山中を漂泊する金堀り師やタタラ師の活動と重ねあわせた「金属民俗学」、江戸や日光の寺院の配置を呪術的な都市計画として読み解く「徳川マンダラ」など、そのスケールの大きさとイマジネーションの広がりには驚くべきものがある。
今回の武蔵野市立吉祥寺美術館の展示は、その内藤の写真と民俗学の交叉のあり方を探ろうとするもの。薬品の化学反応を造形写真に応用した「コアセルベーション」「白色矮星」といった初期作品から、1960~70年代の「婆バクハツ!」「遠野物語」などを経て、80年代の「出羽三山の宇宙」に拡大し、近作の山岳信仰の世界を写真によって定着しようとする「神々の異界」に至る作品の流れを辿ることができた。全27点と数は少ないが、大きく引き伸ばされた写真から、あの話し出したら止まらない内藤のマシンガン・トークが聞こえてきそうな、活気あふれる展示だ。「私にとって、写真がモノの本質を幻視できる呪具であるとすれば、民俗学は見えない世界を視るための“もう一つのカメラ”だ」。彼の写真と民俗学に対する姿勢は、この言葉に尽きるだろう。「シャーマンとしての写真家」の原点というべきその存在感は、ますます大きなものになってきている。

2009/10/12(月)(飯沢耕太郎)

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