artscapeレビュー
2009年11月15日号のレビュー/プレビュー
ヴェルナー・パントン展
会期:2009/10/17~2009/12/27
東京オペラシティアートギャラリー[東京都]
文句なしに楽しめる。そしてパントンのことをいかに自分が知らなかったのか、ちょっと反省。アルネ・ヤコブセンの事務所から独立して以後、《パントン・チェア》を経て、家具と建築の境界を越えていくような多様な展開をするヴェルナー・パントンの軌跡を知ることができる。途中、靴を脱いで通り抜けるスペースもあり、すっかりパントンの世界に浸ってしまった。《ファンタジー・ランドスケープ》という伝説のインテリアは、パントンのデザインで埋め尽くされた洞窟のような空間。色の効果も幻想的。さらに立体的な椅子である《リビング・タワー》、カーペットが一部立体化して椅子となっている《3-Dカーペット(ウェーブ)》など、こんなことまでやっていたのかという驚きを楽しめる。
展覧会URL:http://www.operacity.jp/ag/exh111/
2009/10/18(日)(松田達)
コープ・ヒンメルブラウ 回帰する未来
会期:2009/09/19~2009/12/23
NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)[東京都]
コープ・ヒンメルブラウは、ヴォルフ・プリックスを中心人物として1968年に設立されたオーストリアの建築設計事務所。《アストロバルーン 1969 リヴィジテッド──フィードバック・スペース》と《ブレイン・シティ・ラボ》という二つの作品を展示。前者は、皮膜を装着することで心拍を光や音に変換する1969年の《ハート・スペース──アストロバルーン》の発展形で、2008年のヴェネツィア・ビエンナーレに出展されたもの。装着することで身体が拡張するという意味では、同じオーストリアの建築家・彫刻家であるワルター・ピッヒラーの透視ヘルメット(《TV-Helmet (Portable living room)》、1967年)のコンセプトと似ているし、彼らが知らなかったはずがない。しかしピッヒラーが彫刻的に拡張現実を表現したことに対し、コープ・ヒンメルブラウは、光や音といった形なき形態として表現する。バルーンも、形はあるが、透明である。後者は、パリ郊外の都市計画プロジェクトから発展し、神経科学と都市計画の接点を見つけようとするもの。観客の位置に従って、都市模型に光の道が生まれては消えていく。コープ・ヒンメルブラウの建築が、形態的な特徴をもつことと対照的に、本展示では形にならない、光や音や軌跡といったものが表現されている。しかし、むしろこの展示から彼らの建築形態の目指す本質が見えてきたような気がした。ヒンメルブラウはドイツ語で「青い空」を意味し、彼らは雲のような変幻自在な建築を目指すのだという。過去にザハ・ハディドらとともにデコンの建築家として扱われたことから、形態へのこだわりを感じていたのであるが、むしろ形態なき形態こそが彼らの建築の本質にあるのだろう。
展覧会URL:http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2009/CoopHimmelblau/index_j.html
2009/10/18(日)(松田達)
河崎ひろみ「あらゆるものと小さなひとつのために」
会期:2009/10/13~2009/11/01
ギャラリーモーニング[京都府]
黄色みがかった柔らかい色調が快い感覚をもたらしてくれた。目では見ることができないもの、時の経過や自然現象などを楽譜に示したようにも感じられるリズミカルな画面が螺旋状に葉をつける植物のように次々と連想がめぐるのが素敵だ。
2009/10/18(日)(酒井千穂)
杉本博司「光の自然(じねん)」
会期:2009/10/26~2010/03/16
IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]
新しく静岡県東郡長泉町のクレマチスの丘に開館したIZU PHOTO MUSEUMのプレス・ツアーに出かけてきた。隣接するヴァンジ彫刻庭園美術館では、2006年以来松江泰治、古屋誠一、川内倫子らの写真展が開催されてきたが、その実績を踏まえて、写真専門の美術館としてオープンしたのがIZU PHOTO MUSEUMである。建物と中庭の設計は、オープニング展の招待作家である杉本博司自身であり、展示室が二部屋しかない小ぶりな美術館だが、すっきりとまとまっていて使い心地はよさそうだ。細部まで杉本の「モンドリアン風の数寄屋造り」というコンセプトが貫かれている。
オープニング展の「光の自然」は、静電気を放電させて山水画を思わせるイメージを印画紙にフォトグラムで定着した「放電日月山水画」(長さ、15メートル)と、写真術の発明者であるW・H・F・タルボットが1830~40年代に撮影したカロタイプのネガをポジ画像として拡大した「光子的素描(フォトジェニック・ドローイング)」シリーズの二部構成。写真のオリジンというべき光そのものの生成と物質化の過程を追体験するという展示は、新しい写真美術館のスタートにふさわしいものといえるだろう。新幹線・三島駅からシャトルバスで20分ほどかかるという立地条件は、たしかにあまりいいとはいえないが、周囲の環境はとてもよく、一日をつぶしても充分お釣りが来る。これから年3回程度の企画展を開催していく予定。次回は2010年4月から、アメリカの写真史家、ジェフリー・バッチェンが企画する「時の宙吊りー生と死のあわいで」展が開催される。
2009/10/23(金)(飯沢耕太郎)
アトリエの末裔 あるいは未来
会期:2009/10/14~2009/10/25
旧平櫛田中邸+台東区立書道博物館[東京都]
これまで平櫛田中邸を舞台にしてきた藝大の彫刻展だが、今年は山手線をはさんで反対側に位置する台東区立書道博物館も会場に加わった。初めに鴬谷から書道博物館に向かうが、途中ラブホテル群が林立していて面喰らう。書道博物館としては落ちつかない環境だ。それを意識したのだろう、竹元彰吾の《ホテルニュータイシャ》は、白砂利の上に超高床式の大社建築の模型を置き、手前に鳥居を、その手前に古色ゆかしい男女のカップルを配したバチ当たりな絶品。村田真賞だ。館内にある渥美雅史の作品もいい。巨大なクモの彫刻を標本箱に入れて壁に展示してあるので、書を見に来た人が見たら驚くに違いない。平櫛邸のほうは例年のごとしで割愛。
2009/10/23(金)(村田真)