2020年11月15日号
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artscapeレビュー

ダヤニータ・シン「ある写真家の冒険」

2011年12月15日号

会期:2011/10/22~2011/12/18

資生堂ギャラリー[東京都]

インドの写真家といっても、なかなかくっきりとしたイメージは結ばない。情報の偏りというのは必ずあるもので、同じアジア地域でも中国、韓国など東アジアの写真家たちの展覧会はかなり開催されるようになったが、インド以西の国々となると、なかなか作品を見る機会がないのだ。その意味で、今回資生堂ギャラリーで開催されたダヤニータ・シンの個展は嬉しい驚きだった。
驚きというのは、このような写真家がインドにいるということ自体が、やや意外だったからだ。女性の写真家であり、しかもフォト・ジャーナリストとして出発していながら、近作になるにつれてむしろ主観的な作品世界を構築し始めている。むろん、1987~88年にアメリカ・ニューヨークのICP(国際写真センター)で写真を学んだという経歴と、その作風は無縁ではないだろう。彼女の出現が契機となって、インドの写真家たちが大きな刺激を受け、より多様な表現のあり方が生まれてくることが期待できそうだ。
今回の展示作品は「愛の家」と「ある写真家の冒険」。どちらも複数の写真を組み合わせて「物語」を浮かび上がらせようという試みだ。もっとも、単線的なストーリーではなく、写真同士の関係はかなり飛躍があって錯綜しており、簡単にその流れを読み解けるようなものではない。むしろ、あえて謎を謎のまま宙吊りにしていく構成にしているようだ。「ある写真家の冒険」は、写真家としての転機となった作品に註のようなテキストをつけて、「自伝」を編み上げていくシリーズだが、さらにふくらみを増して続いていく可能性を感じた。Steidel社から刊行されている何冊かの写真集、特にこれまた自伝的な内容の『SENT A LETTER』も面白かった。小さな屏風のように折りたたまれた紙に写真が印刷されていて、親密な私信の雰囲気が心地よく伝わってくる。

2011/11/09(水)(飯沢耕太郎)

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