2021年09月15日号
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artscapeレビュー

伊賀美和子「THAT'S NOT ENOUGH.」

2015年10月15日号

会期:2015/09/01~2015/10/03

BASE GALLERY[東京都]

伊賀美和子の人形を使ったホームドラマのシリーズは、ひそかに変容と脱皮を繰り返しているようだ。前回のBASE GALLERYでの個展「悲しき玩具--Open Secret」(2010年)から5年を経た今回の「THAT'S NOT ENOUGH.」では、お馴染みの人形たちのたたずまいが、少し変わってきているように感じた。
以前は、家庭の日常に形をとってくるさまざまなドラマを、人形たちが不器用に演じ直しているような印象があったのだが、そのような物語性が希薄になり、「生きることの小さな欠落」が露になる瞬間に、彼らが素っ気なく投げ出されているように見えてくる。首だけ、手だけ、脚の裏からといった場面は、それぞれ孤立していて、あまり相互のつながりを感じさせない。人形たちが不在の「Swan Lake」や、家具だけの写真もあって、そこでは旧作の「Madame Cucumber」の1シーンが、ひっそりと引用されていたりもする。
考えてみれば、伊賀が1999年に写真新世紀優秀賞を受賞してデビューしてからもう15年以上も経つわけで、彼女の分身ともいうべき人形たちも、それぞれの生の厚みを積み重ねてきているということなのだろう。奇妙なことに、人形たちの単純な、固定した顔つきに「深み」が生じてきているように見える。「THAT'S NOT ENOUGH.」というタイトルは、その変容のプロセスがこれから先もさらに続いていくことを示唆しているのではないだろうか。青っぽい色調の画面の中に佇み、漂っていく、人形たちの行方を見守っていく楽しみがより増してきた。

2015/09/05(土)(飯沢耕太郎)

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