artscapeレビュー
春画展
2015年10月15日号
会期:2015/09/19~2015/12/23
永青文庫[東京都]
2年前に大英博物館で開かれて話題を呼んだ「春画展」。日本での開催を求める声も高かったが、リスクを恐れてか、それなりの動員が見込めそうなのに引き受ける美術館が見つからなかった。出版界ではもう20年も前から“解禁”されているのに、美術界(美術館界?)の保守性を示す結果になった。そこに名乗りを上げたのが、細川護煕元首相が理事長を務める永青文庫だ。ここは細川家伝来の美術品や歴史的資料を保存・公開する施設。しかし今回初めて訪れたが、昭和初期に細川家の事務所として建てられた建物を美術館に転用したもので、天井も低く、部屋がいくつにも分かれているため、展示スペースとして十分とはいいがたい。でもその密室感が春画の鑑賞に合ってるかもしれない、と好意的に受け止めよう。展示は鎌倉時代の肉筆春画絵巻《小柴垣草紙絵巻》にはじまり(早くもクンニの図が)、室町時代の陽物比べと放屁合戦を描いた《勝絵絵巻》、狩野派による武家階級の交合を描いた《欠題春画絵巻》(局部がリアル)、蔡國強も火薬絵画で引用した月岡雪鼎《四季画巻》などと続く。いわゆる浮世絵(木版画)になると、シンプルな線描の菱川師宣や可憐な表情の鈴木春信らを経て、最盛期の歌麿、北斎になると相手が毛むくじゃらの異国人、河童、タコになったり、交合部分をドアップしたり、発想、構図、技法ともに極致を迎える。正体不明の写楽を除いて、ほとんどの浮世絵師は春画に手を染めたといわれるが、それはなにより需要が高かったからだろう。親が娘の嫁入り道具として持たせたということもあるが、それより独身者のオカズとしての需要が大きかったに違いない。驚くのは渓斎英泉で、膣に2本の指を差し入れたところを膣内から描写しているのだ。こうなると需要に応えてというより、絵師の冒険精神が先走ってる気がする。それだけ江戸時代は文化的に成熟していたということだ。カタログは600ページを超える分厚さで、もちろん修正なしの図版多数。
2015/09/18(金)(村田真)