2021年09月15日号
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artscapeレビュー

被爆70周年 ヒロシマを見つめる三部作 第1部「ライフ=ワーク」

2015年10月15日号

会期:2015/07/18~2015/09/27

広島市現代美術館[広島県]

展示構成のストーリーは大変分かりやすい。
被爆者が描いた「原爆の絵」50点で始まり、シベリア抑留という過酷な経験を芸術的に昇華させた香月泰男と宮崎進の絵画作品が続く序盤は、「当事者の証言」から「体験の内在化、芸術的昇華」へと展開する。この流れは、肉親の被爆死が創作活動と深い関わりを持つ四国五郎と殿敷侃において、残された日記や遺品となった衣服の絵画化として提示され、残された者の行なう喪の作業、ある種の供養としての「記憶の伝承」という面が加えられる。
この、被爆に関連した資料の絵画化・複写、すなわち「アーカイブの表象化」という作業は、中盤の石内都の写真作品においても共通する。ただし、序盤と中盤を決定的に分かつのは、「当事者/非当事者」という分断線である。中盤では、「非当事者による、物語の回復」が展開される。石内は、日常的で、身体性や触覚性を喚起し、持ち主のパーソナルな記憶を宿し、傷ついた身体のメタファーともなり得る衣服(その多くは若い女性が身に付けていたと思われる鮮やかな柄物やワンピースなど)をカラーで自然体に撮ることで、「被爆」という大きな物語から解放し、かつての持ち主が衣服に抱いていたであろう愛着や記憶に眼差しを向けようとする。また、後藤靖香は、劇画調のマンガの表現スタイルを用いて、第二次世界大戦に従軍した若き日の祖父や大叔父、藤田嗣治や宮本三郎といった従軍画家たちの物語を、デフォルメや力強い描線を駆使して大画面に展開する。
終盤では一転して、被爆樹木や路傍の草花の写生を行なった画家たちが召喚され、植物に仮託した「鎮魂と再生」の空間が立ち上げられる。そして、マチエールの追究と膨大な時間をかけた塗り重ねによって、黒一色のミニマルだが豊穣な絵画を制作した村上友晴。
このように本展は、「当事者による生々しい証言」→「体験の内在化、芸術的昇華」→「記憶の伝承」「アーカイブの表象化」→「物語の回復」→「鎮魂と再生」へと至る流れで構成されている。そこに、タイトルが示すように、日課のように「ライフワーク」として生涯取り組んだ仕事や、正規の美術教育を受けていない人による、みずからの生と直結した創作活動の双方が組み込まれているわけだ。個々の作品は、描き込みの密度や、継続性がもたらす圧倒的な物量感と相まって見応えがある。だが、分かりやすく消費可能な「物語」の着地点へと回収してしまうことで、見えなくなっているのは、広島、ひいては日本を取り巻く「現在地点」ではないだろうか。

2015/09/27(日)(高嶋慈)

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