artscapeレビュー

すごいぞ、これは!

2015年10月15日号

会期:2015/09/19~2015/11/03

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

「おかしいだろ、これ。」は安保法に対する明快きわまりないコメントだが、「すごいぞ、これは!」は展覧会名としてはどうなんだろ。斬新ともいえるが、投げやりにも聞こえる。ポスターやチラシのデザインも、書体をさまざまに変えた「すごいぞ、これは!」の文字と作品図版で画面を埋め尽くして、まるで落書きみたい。実際、すごい作品もある。紙でデコトラやクレーン車をつくる伊藤輝政は、小さいころ見た映画『トラック野郎』に刺激されてつくり始めたというが、それだけで30年にもわたって800台もつくり続けるか? しろ(30代女性)の描く絵もインパクト大。彼女は他人とコミュニケーションができず、数年前から少年を主人公とする絵を描き始めたというが、その絵は仲間はずれにされたり身体の一部が切られたり仏に包まれたりと、まるで絵に描いたような(事実絵に描いてるが)自閉的なものばかり。いわゆる「ヘタ」ではないが、紙にペンと色鉛筆で描かれた絵は弱々しく、見る者を不安に陥れる。喜舎場盛也はある意味きわめて正統なアウトサイダー・アートで、カラーのドットで紙をびっしり埋めていったり、図鑑の余白に漢字を書き込んでいったり、意味の無意味の意味を追求するかのような「作品」はスゴイとしかいいようがない。とはいえ、それを額装し、整然と壁や陳列台に並べ、同じ大きさのブースで区切って見せるのはいかがなものか。とくに紙片に等間隔にハサミを入れて櫛のようにする藤岡祐機や、スナップ写真を触りまくってボロボロしてしまった杉浦篤の「作品」などは、それ自体とてつもなくインパクトがあるのに、残念ながらそれを生かした展示がなされていない。とりわけ杉浦の作品なんか貧相な現代美術にしか見えない。同展は「平成27年度戦略的芸術文化創造推進事業」として、文化庁の委託を受けた「心揺さぶるアート事業実行委員会」が実施するもの。「戦略的」に「芸術文化」で「心揺さぶ」ろうって魂胆が寒い。

2015/09/30(水)(村田真)

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