artscapeレビュー
関口正夫「こと」
2015年10月15日号
会期:2015/09/04~2015/09/27
関口正夫は1946年生まれ。1965~68年に桑沢デザイン研究所で牛腸茂雄、三浦和人とともに大辻清司に写真を学び、卒業後の1971年に牛腸と共著の写真集『日々』を刊行した。その後も、気負いなく淡々と路上スナップを撮り続け、2003年に写真集『こと 1969-2003』を刊行、2008年には三鷹市美術ギャラリーで三浦和人との二人展「スナップショットの時間」を開催している。
今回の東京・四谷、Gallery Photo/synthesisでの個展でも、まったく変わりなく近作のスナップショット18点を披露していた。とはいえ、かつての動体視力のよさを感じさせる切れ味鋭い画面構成というわけにはいかない。70歳近い彼の街歩きのリズムは、より「ゆるい」ものになってきている。とはいえ、その精度の甘さは、逆に「瞬間」に凝固することなく、柔らかに前後の時間に広がっていく「こと」のありようを捉えることにつながっている気がする。会場に展示されていた中に、上野の不忍池の周辺で撮影されたと思しき写真があった。男女のカップルと中年の男が後ろ姿で写っていて、池から飛び立とうとしている水鳥の群れを見つめている。その中の女性の右脚が、足裏を見せて花壇の囲み石の上に振り上げられた瞬間に、シャッターが切られているのがわかる。別にどうということのない光景なのだが、微かなズレをともなって定着されたその場面は、なぜか胸を騒がせる。
このような現実世界の些細な揺らぎ、身じろぎをキャッチすることこそ、スナップショットを撮り、見ることの歓びにつながるのではないだろうか。関口の写真はそのことを証明し続ける営みの蓄積といえる。
(金、土、日曜のみ開廊)
2015/09/06(日)(飯沢耕太郎)