artscapeレビュー
そこにある、時間──ドイツ銀行コレクションの現代写真
2015年10月15日号
会期:2015/09/12~2016/01/11
原美術館[東京都]
有数の現代美術コレクションで知られるドイツ銀行から、「時間」をテーマに約40組60点の写真作品を選んで展示。写真とは流れゆく時間を輪切りにした断面と考えれば、その表面には一瞬の姿が映し出されているはずだし、また、シャッタースピード分を時間の厚みと捉えれば、それは断面ではなく時間軸を含む立体ともいえる。どっちにしろ写真は時間を採り込み、時間を写し(映し)出すメディアであり、その意味では時間芸術と呼んでもいい。時間を断面と捉えた写真としては、各地の類型的なガスタンクを撮って標本のように並べたベルント&ヒラ・ベッヒャー、その教え子で美術館や劇場を撮るトーマス・シュトルートとカンディダ・ヘファー、また、木目の壁面に円や矩形を描いたような(じつは家族の写真を外した跡)イト・バラーダの抽象的な写真も、ここに含まれるだろう。一方、時間の厚みを見せるのは、1本の映画が終わるまでスクリーンを写した杉本博司、ペンライトを持って歩き回った軌跡を長時間露光で撮影した佐藤時啓のほか、コンサートホールを埋める全員が同一人物というマルティン・リープシャーのパノラマ写真も、デジタル処理を施しているとはいえ時間が積層されている。懐かしいのはクラウス・リンケ。少しずつカメラから離れていく作者自身の姿を映して1枚のプリントに収めた《瞬時の移動》は、ドクメンタ5で発表された作品で、たしか70年代の『美術手帖』の表紙を飾ったんじゃなかったっけ。この写真などは時間の断面と厚みを同時に表現したものだといえる。こうした写真を集めることは、とりもなおさず時間をコレクションすることではないか。
2015/09/11(金)(村田真)