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artscapeレビュー

吉村和敏『雪の色』

2015年10月15日号

発行所:フォトセレクトブックス

発行日:2015年9月25日

吉村和敏は日本を代表する風景写真家の一人。デビュー作の『プリンス・エドワード島』(講談社、2000年)以来、内外の風景を、光と色の効果を駆使して、ロマンチックに描き出す作品を次々に発表して人気を博してきた。だが一方で、彼は何気ない日常の風景に潜む「繊細な日本の美」をシャープな画像で定着する作品も制作している。今回刊行された『雪の色』は『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ、2009)、『CEMENT』(同、2010)、『SEKISETZ』(丸善出版、2013)といった写真集の系譜に連なるものであり、吉村の写真家としての志の高さがよくあらわれていた。
本書のテーマになっているのは、タイトルから想像できるような雪そのものの色ではなく「雪の中の色」である。降り積もる雪の中を車で走っていると、道路標識、漁船、鳥居、自動販売機、郵便ポスト、バス停、自動車など「カラフルな色」が目の前にあらわれてくる。吉村はそれらを撮影することで、そこに「雪国で、雪や曇りのときだけ現れる不思議な色彩世界」を見出そうとしている。これは、なかなか興味深い視点だと思う。普段は逆に違和感を覚えるような派手な原色の道路標識や郵便ポストが、白い雪の風景に配置されると、いかにも日本的な渋い色味に見えてくるのだ。セメント工場の緻密かつデリケートな美しさを捉えた『CEMENT』もそうだったが、逆転の視点で見直すことで、日本の風景写真に新たな可能性が拓けてくるかもしれない。

2015/09/27(日)(飯沢耕太郎)

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