artscapeレビュー
2013年08月15日号のレビュー/プレビュー
守山市子ども文化芸術体験学習:井上信太による「海に浮かぶ滋賀県の巨大な未来地図をつくろう」ワークショップ
会期:2013/07/12
守山市立守山小学校[滋賀県]
滋賀県守山市立守山小学校の体育館で約170名の同校5年生児童を対象に、美術家の井上信太さんによるワークショップ授業が行なわれた。これは造形芸術や音楽、ダンスなど各分野のアーティストによるワークショップや体験学習をとおして、子ども達の想像力や芸術への関心、理解などを高めようと守山市の教育委員会が今年度より実施している「小学生文化芸術体験学習」のプログラムの一環。今回は私はスタッフとして同行した。ワークショップは体育館の床に広げた10メートル四方の青いビニールシートを海に見立て、そこに浮かぶ滋賀県(という島)の未来を想像しようというもので、色紙やカラーテープ、カラーペンなどの画材を使って思い思いに花畑などの風景を描いたり、滋賀県の特産物、名所などをテープで貼付け配置。最後には巨大な未来地図が仕上がった。子ども達の作業への熱中ぶりや興奮にこちらも気持ちが盛り上がったひととき。こんな授業が学校で行なわれること自体が羨ましいが、さらにこのプログラム、アーティストが自分のすぐそばに居るということを知ることができるのも素晴らしい。アートへの関心だけでなくアーティストももっと身近な存在になればいいなと思った。
2013/07/12(金)(酒井千穂)
透明な奥のほう
会期:2013/06/23~2013/07/13
CAP STUDIO Y3[兵庫県]
大阪のgallery wks.で同時開催された淺野夕紀、上村亮太、桜井類、田岡和也の四名の作家による展覧会「透明な奥のほう」の神戸展。こちらは出展作家たちの制作現場でもあり、ホームとも言える会場。大阪では、各作家の作品展示数も少しずつだったが、CAP STUDIO Y3は、各展示をそれぞれの個展のように鑑賞できるボリューム感で、ゆっくりと満喫した。上村亮太は1階のカフェスペースでテキスタイル作品などの展示・販売。4階のギャラリースペースで、桜井と田岡の展示が行なわれていた。淺野は自らの制作室での展示。壁面をぎっしりと埋め尽くすように展示された田岡のドローイングは日々の通勤電車のなかで毎日描いていたと聞いたのだが、作家の視界に飛び込む車窓の光景や、電車の中の状況が目に浮かぶ臨場感もあって面白い。色鉛筆や水彩でたいへん繊細な表現を行なっている浅野の展示空間は、その密やかで小さな作品世界の魅力が凝縮していた。そして桜井の作品も良かった。「透明な奥のほう」という言葉をもとに構成したというその絵画の展示は、空間全体がインスタレーションの作品になっており「見る」という感覚にもアプローチするトリッキーな展示だった。大阪会場にあった桜井の絵画作品の意図やコンセプトをここで理解できたのも嬉しい。最終日に駆け込んでしまったが足を運んでこちらも見ることができて良かった。
2013/07/13(土)(酒井千穂)
稲垣元則「427Drawings」
会期:2013/06/15~2013/07/13
ギャラリーノマル[大阪府]
B4サイズに描かれた427点のドローイング作品がギャラリーの壁面を埋め尽くしている展示に、思わず「わあ」と声もあげてしまった稲垣元則の個展。展示されていたのは21年前から日々描き続けているというドローイングで、膨大な量から今展のために選び出したもの。これまでの個展で私が見た作品の数々へとつながる、作家のイマジネーションという意味でも、稲垣がこつこつと続けてきた制作活動の道のりを示すものという意味でも、見応えのある展示だった。写真や映像などの作品も手がけ発表している稲垣。もちろんこれまでの表現の変遷もうかがえる展示だったのだが、作家の制作のあり方という芯の部分はずっと貫かれていることも感じた今展。とても良いものを見せてもらった気分だった。
2013/07/13(土)(酒井千穂)
3人のクライアントと3人の建築家─暮らしの時間、家の時間─
会期:2013/07/01~2013/07/13
SHIBAURA HOUSE 2F[東京都]
シバウラハウスにて、オランダの建築ライターのカテライネ・ノイシンクが彼女の新刊『HOW TO MAKE A JAPANESE HOUSE』と連動して企画した展覧会「3人のクライアントと3人の建築家ー暮らしの時間、家の時間」を見る。模型、図面、映像などを使い、中山英之、長谷川豪、TNAが手がけた住宅と施主の関係が紹介されていた。中山の展示手法は相変わらずキレがある。TNAによるキリの家の施主が制作した映像もなかなかだった。
上:SHIBAURA HOUSE
中上:中山英之
中下:長谷川豪
下:TNA
2013/07/13(土)(五十嵐太郎)
海老優子「鳥が鳴いたら2」
会期:2013/07/02~2013/07/14
ギャラリーモーニング[京都府]
昨年、同ギャラリーで同じ時期に作品を発表していた海老優子が、今回も同じ展覧会タイトルで個展を開催していた。鈍い空の色と自然の風景、そこにぽつりと描かれた無機質なコンクリートの建物や構造物の存在。海老が描く寂寥の景色には、ついつい物語の脈絡を探りたくなるような不安定な魅力がある。つかみどころのない頼りない雰囲気と、融和しないイメージのモチーフという違和感がこちらの心をとらえてやまない。それぞれのタイトルも物語性が強いのだが、大きなサイズの絵画の両脇に小さなドローイングを合わせた連作など、今展で発表された新作はいっそうストーリーへの想像を巡らせるものになっていた。もう少し高いところに上ったら、塔の先にどんな風景があるのか確認できるかも知れない。もう少し先まで進めば、塀の向こうに何かが見えるかもしれない。いま見ているものの先に何かがあるという期待感や兆しも感じ、作品世界に引き込まれていくから見ていて楽しい。次回の個展も待ち遠しい。
2013/07/14(日)(酒井千穂)