2020年04月01日号
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artscapeレビュー

2013年08月15日号のレビュー/プレビュー

平間至「last movement─最終の身振りへ向けて」

会期:2013/07/06~2013/08/31

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

平間至は2008年にも、同じフォト・ギャラリー・インターナショナルで舞踊家・田中泯の「場踊り」を撮影した写真展を開催している。それから5年を経て姿をあらわした「last movement─最終の身振りへ向けて」は、以前とはまるでレベルが違って見えた。単純なパフォーマンスの記録ということに留まらない、身体と場所とが溶け合い、一体化して渦巻くエネルギーが、モノクロームの写真群から強い力で放射している様が、はっきりと感じられたのだ。今回の展示作品には、シリーズの主体であるはずの田中泯の姿がまったく写り込んでいないものも含まれている。だが、それらの水や樹木や岩のある風景を捉えた写真もまた、そのあふれ出し、盛り上がり、流れ去っていくエネルギーの”場”であることに変わりはなく、むしろその風景の至る所に「見えない」舞踊家が遍在しているようにすら見えた。明らかに、存在の震えや揺らぎを鋭敏にキャッチする平間のセンサーが、研ぎ澄まされてきているのだ。
平間の意識の変容をもたらしたのが、2011年の東日本大震災であったことは間違いないだろう。彼の実家がある宮城県塩竈市とその周辺は、震災とその後の津波に寄って大きな被害を受けた。彼はむろん写真家としての活動を通じて、地域の復興に寄与しようとした。だがその後、被災の状況を直接的に記録するよりは、この「last movement」のシリーズを撮り進めることで、むしろ震災によって引き起こされたネガティブな感情の高まりを鎮めようとしているように見える。
実は一枚だけ、写真展に併せて刊行された同名の2冊組の写真集のなかに、震災直後の「宮城県七ヶ浜」の風景を写した写真がおさめられている。だが、この写真にもまた、田中泯の存在の気配が色濃く感じられる気がする。

2013/07/17(水)(飯沢耕太郎)

元田敬三「Sunday Harajuku」

会期:2013/07/12~2013/07/25

エプソンイメージングギャラリーエプサイト[東京都]

元田敬三は、2005年頃から毎日曜日に、パノラマサイズのワイドラックスカメラを手に、東京・原宿の代々木公園前の路上に出かけるようになった。そこには20~40歳代の、リーゼント・スタイルの「ローラー」たちが集まり、大音響のロックンロールに合わせて日がくれるまで踊り狂っていた。それから6年あまり、顔なじみも増えて、コンサートに連れて行ってもらったり、沖縄に一緒に旅行したりするようにもなった。撮影された写真を見ていると、被写体との長期にわたる細やかな交流が、この種のドキュメントには必須のものであることがよくわかる。
だが写真集(SUPER LABO刊)をまとめ、展覧会を開催するために写真を選び、プリントしているうちに、元田のなかには実際に撮影していた時期とはまた違った感情が湧いてきたようだ。「大きなプリントとして立ち現れた場面の中で、写された光景のすべてはモノクロームの粒子として等価になる」。そこに写り込んでいる「ローラー」たちとその家族や恋人とおぼしき女性たち、彼らを取り巻く観客やカメラを向ける外人観光客、そして路肩に駐車しているアメ車やオートバイなども、すべて画面の構成要素として「等価」に見えてくるということだ。このような醒めた認識を持ち得るかどうかが、ドキュメントとしての写真の成否を判断する基準となるのではないかと思う。
この写真展を見てあらためて感じたことがもうひとつ。デジタルプリンターによるモノクロームプリントのクオリティは、もはや手焼きの銀塩プリントをはるかに凌いでいるのではないか。大容量のスキャナー、顔料10色インクジェットプリンター、プロフェッショナル仕様のフォトペーパーの組み合わせの精度は、唖然としてしまうような高さに達しつつある。

2013/07/18(木)(飯沢耕太郎)

堂島リバービエンナーレ2013「Little Water」

会期:2013/07/20~2013/08/18

堂島リバーフォーラム[大阪府]

大阪の堂島リバーフォーラムで開催される国際展、堂島リバービエンナーレの3回目。台湾出身のキュレーターで、テート・ギャラリーのアジア購入委員会の委員でもあるルディ・ツェン氏をアーティスティック・ディレクターに迎えて開催された今回は、テーマを「Little Water」として、水の複雑性や多様性、詩的な美しさを表現するアーティスト、28組の作品が紹介された。展示作品は、日常の身近な感覚に基づいてさまざまなイメージを喚起するものから、雄大な自然やその時間の流れ、宇宙に想像をめぐらすものまでさまざまだが、いまもふとしたときに思い出すのが、エントランスホールに展示されていた台湾生まれニューヨーク在住のアーティスト、リー・ミンウェイの《動く花園》。約15メートルの花崗岩のテーブルと、その中央にある溝から生えたたくさんのバラで構成された作品なのだが、こちらは来場者が会場を去るときに花を1本持ち帰り、見ず知らずの人にプレゼントするということで成立する。持ち帰った人の行動と花の行方に想像を巡らすのも楽しくドラマチック。全体に、静けさを保った会場の展示構成も、詩的な趣きをたたえた内容もじつに美しく、アーティスティック・ディレクター、ルディ・ツェン氏の各作品への眼差しや価値観も伝わってくるようだったのが素晴らしい。多くの人に見てほしいと感じた展覧会だった。

堂島リバービエンナーレ Facebook=https://www.facebook.com/pages/DOJIMA-RIVER-BIENNALE堂島リバービエンナーレ/322211084571096?fref=ts

2013/07/19(金)(酒井千穂)

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ルーヴル美術館展──地中海 四千年のものがたり

会期:2013/07/20~2013/09/23

東京都美術館[東京都]

ルーヴル美術館の厖大なコレクションのなかから「地中海」をテーマに作品を選び、展覧会を組み立てたもの。地中海といえば古代エジプトやギリシャ・ローマ文明を育んだ地であり、また、ユダヤ教やキリスト教の発祥の地でもあり、ついでにいえば、ヨーロッパの語源であるエウロペ神話が生まれた地でもあり、つまりはヨーロッパの母体となった海なのだ。だが、地図を見れば明らかなように、地中海の文明・文化の中心となった地域は、現在の西洋文明の中心地より南東に位置している。このさらに東からイスラム勢力が押し寄せて北西部に追いやられたのが現在の「ヨーロッパ」というわけだ。そうして見ると、ここに展示されている古代の文物から近世のオリエンタリズム絵画まで、すべてが地中海への憧憬の念に貫かれているように感じられるのだ。ミロのヴィーナスもサモトラケのニケもないけど、西洋人の地中海に寄せる思いが伝わってくる展覧会。

2013/07/19(金)(村田真)

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選挙2

想田和弘の観察映画『選挙2』を見る。2011年4月、東日本大震災直後の川崎市議選において、誰も原発を争点にしないことに怒りを覚え、かつて自民党から出馬した山内和彦が再び立ち上がるというものだ。とりわけ、最終日に初めて行なった街頭演説で、「山さん」が、僕に票を入れなくてもいいから、みなさん選挙に行ってくださいと訴えるシーンが印象的だった。基本的にはコミカルな映画でもあるが、監督の想田和弘の論考「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」(『世界』2013年6月号)を読んだ後だと、公であるはずの選挙なのに、自民党候補者の撮影拒否、そして市議選の状況や結果も、恐ろしいものに思えてくる。2年前の出来事なのに、まさにいまの日本を予言的に描いた映画のようだ。

2013/07/19(金)(五十嵐太郎)

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