2020年07月01日号
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artscapeレビュー

2013年08月15日号のレビュー/プレビュー

高見晴惠「月の下で」

会期:2013/07/09~2013/07/21

ギャラリーすずき[京都府]

銀紙で折った小さな箱状の立体が石畳の道のように並べられたインスタレーション。《月の下で》という展覧会と同タイトルのこの作品は、自然光のもとで見るというもの。素材は、一見軽やかな印象もあるのに、鉛かなにか金属のようにも見えて、私は尋ねてみるまで紙だということがわからなかった。じっくりと眺めていると、ギャラリーに射し込む自然光の具合によって、それらの箱の表面に反射する光の色の表情もさまざまに変化していくのが確認できる。作家は京都出身で、スウェーデン在住という高見晴惠。寒く、暗くどんよりとした天気も多い現地の暮らしのなかで、月明かりや昼間の日射しなど、わずかな光がもたらす喜びやその尊さをあらためて感じるようになったのだという。私が訪れたのは雨上がりの夕方だった。ギャラリーの奥の窓からうっすらと射し込むやわらかな光が美しく見入ってしまった。


展示風景

2013/07/14(日)(酒井千穂)

ゼロ・アワー──東京ローズ最後のテープ

会期:2013/07/12~2013/07/15

KATT 神奈川芸術劇場 大スタジオ[神奈川県]

KAATにて、やなぎみわの「ゼロ・アワー」を観劇した。彼女の研究熱心を反映したプロットは、音をめぐる批評的作品になっている。メディア・オリエンタリズムのポストモダン的な展開は、同じく日本/女性とアメリカ/男性をめぐって、アイデンティティが揺らぐテーマをもつ「蝶々夫人」が「M. バタフライ」に変容したことと似ていよう。それを可能にしたフォルマント兄弟の音声デザインがすごい。また場面の展開とともに、リング状だった机がどんどん変形する、トラフ建築設計事務所の装置デザインも鮮やかだった。

2013/07/14(日)(五十嵐太郎)

藤田美智「ここではない どこかへ」

会期:2013/07/10~2013/07/15

Gallery Ort Project[京都府]

京都を拠点に活動している陶芸作家、藤田美智の個展。私が藤田の作品に初めて出会ったのは、2012年春の京都府庁旧本館(重要文化財)一般公開に際して開催された「ECHO TOUR 2012」という展覧会。その若い作家達による手工芸品の展示販売コーナーで、女性の頭部と身体をモチーフにした徳利状の花器《頭から花》という藤田の小さな作品を見つけた。ふくよかな顔と黒目のない表情、デザインのユニークなインパクトに惹かれてひとつ購入。以来、個展が開催されるのを楽しみにしていたのだが、これまではグループ展などで小品を出品しているのしか見たことがなかった。今展でも小さな作品が並んでいるのかと思ったら、意外にもメインだったのは両手でやっと抱えられるというくらいの大きめの陶芸作品。寝転がったり逆立ちしていたり、いろいろなポーズをとる水着姿のぽっちゃりした人形が、茶の間の雰囲気に設えられた空間にインスタレーションされていた。《妄想浮遊》《死んだように…》《見方を変えてみる》など、作家の心のつぶやきのようなタイトルと照らし合わせながらそれぞれのポーズや表情を見るのが面白い。疲労感や倦怠感もたびたび抱える生活のなかで、夏休みの過ごし方を一人ぼんやり考えて楽しむような日常感に溢れた空間が心地よかった。


展示風景

2013/07/15(月)(酒井千穂)

オープン・スタジオ2013

会期:2013/07/12~2013/07/21

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

5月20日からBankARTのスタジオを借りた37組のアーティストたちが、約2カ月間の成果を発表。1室を半透明のスクリーンで二分し、片方に竹を使ったサウンドオブジェを仕掛け、もう一方でその影絵を見ながら音を楽しむというインスタレーションを制作した松本秋則をはじめ、グーグルマップを使いながら「いま私はどこにいるのか」を問う谷山恭子、きゃりーぱみゅぱみゅなカワイイ風景を極彩色の半立体で表現した増田セバスチャン+m.a.m.a.、バリ島の仮面をモチーフに大型絵画に挑んだ宮間夕子、写真を撮るために人形を塑像し背景をセットして被写体をつくる関本幸治、「青」の時代から水平線の絵画へと試行しているフランシス真悟など、挙げていくとキリがないが、とにかく今年はレベルが高い。毎週末は4、5人ずつアーティストトークを行ない、今日は松本、谷山、増田、南條敏之、パク・ミスンの5人に話を聞いた。

2013/07/15(月)(村田真)

ウルの牡山羊 シガリット・ランダウ展

会期:2013/05/17~2013/08/18

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

メインの部屋では、4面の縦長スクリーンにそれぞれ樹木が映されている。その幹を大きな機械の腕が挟んで轟音とともに激しく揺さぶると、土煙とともになにかがバラバラと落ちてくるのがわかる。これはなんだ? 見たことない光景に心がざわめく。落ちてきたのはオリーブの実。実際こんな手荒な方法で収穫するんだろうか。これはイスラエル南部のネゲブ砂漠にあるオリーブ園で撮影されたもの。もう一方の部屋では、キッチンやリビングに時代遅れの家具が並ぶ50年代のイスラエルの居住空間が再現され、ランダウの親族との関係が示唆されている。タイトルの「ウルの牡山羊」とはメソポタミアで発掘された古代彫刻のことで、神の命でアブラハムが息子のイサクを生贄に捧げようとした旧約聖書(ユダヤ教の聖典でもある)の創世記に由来するもの。ランダウはイスラエルとユダヤ人の記憶を呼び起こすような作品を制作しているが、歴史も文化も異なる日本人には遠すぎて届きにくい。とくに後者のように私的な関係性から紡ぎ出された作品は、たとえそれが民族全体の問題に敷衍できるにしても共感するのは難しい。直接的な言及より、前者のような得体の知れない映像のほうが心に響くものだ。

2013/07/16(火)(村田真)

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