artscapeレビュー

2013年08月15日号のレビュー/プレビュー

ART OSAKA 2013

会期:2013/07/20~2013/07/21

ホテルグランヴィア大阪 26階[大阪府]

毎年開催されているホテルでのアートフェア、今年も26階という客室階全フロアが会場。今回は52のギャラリーが出展していた。さまざまな作品の表現や知らないアーティストを知るチャンスでもあるのだが、数が多いため客室という狭い空間で譲り合いながら、くまなく見て回るのにも体力が要ると毎回感じる。今回もいろいろなアーティストの作品を楽しめたが、個人的に特に印象に残ったのは大阪のFUKUGAN GALLERY(大阪)から紹介されていた上田よう。ドローイング作品が多く展示されていたのだが一連の作品の奇妙な場面やモチーフ、模様のような色彩パターンにインパクトがある。またGallery OUT of PLACE(奈良)から出品していた中島麦が新しい表現の試みとして発表していたペインティングも気になった。これまでの作風ともずいぶん異なるイメージで今後の展開も楽しみ。ほかに、テヅカヤマギャラリーから紹介されていた築山有城のインスタレーションは面白かった。もともと客室にかかっていたミラーやベッド、椅子など、室内のあらゆるものをすべて15℃の角度で傾けてあったのだが、この会場であるホテルの従業員のマニュアルに記載されている“お辞儀”の角度からインスパイアされたのだという。アートフェアでそんなことをやるなんて!と作家とギャラリーのユーモアのセンスにも感心した。

2013/07/19(金)、7/20(土)(酒井千穂)

《横浜美術館》《カップヌードル・ミュージアム》《MARK IS みなとみらい》

[神奈川県]

横浜美術館のプーシキン美術館展とカップヌードル・ミュージアムをはしごする。続けて訪れると、前者の美術館よりも、後者のエントラスの巨大吹抜け空間の方が、テートモダンなどのスケール感を思いだし、皮肉なことに現代アート向けの場所のように見えてくる。ここに大型のインスタレーションが入ると、かなり見応えがありそうだ。また横浜美術館の向かいに完成したマークイズみなとみらい。雑踏のなかで、豊田啓介が率いるnoiz architectsによる紙のボロノイオブジェのインスタレーションを二カ所で発見した。台湾では高級ホテルなどの静かな環境で設置されていたが、ここだと柵が必要になる。

上:《カップヌードル・ミュージアム》
中:《MARK IS みなとみらい》
下:noiz architectsによる紙のボロノイオブジェ

2013/07/20(土)(五十嵐太郎)

「キングの塔」誕生!─神奈川県庁本庁舎とかながわの近代化遺産─/関東大震災と横浜─廃墟から復興まで─

[神奈川県]

「キングの塔」誕生!:神奈川県立歴史博物館(2013/7/20~9/16)/関東大震災と横浜:横浜都市発展記念館(2013/7/13~10/14)

神奈川県立歴史博物館の「『キングの塔』誕生!」展は、最初に来場者を出迎える修復された省庁の大きなシャンデリアが迫力。コンペ時の各案、図面、当時の内観写真、関連する同時代の建築など、見所が多い。愛知県庁舎と名古屋市庁舎の図面も紹介され、細かく意匠やプランを比較すると興味深い。続いて、横浜都市発展記念館の開館10周年特別展「関東大震災と横浜 廃墟から復興まで」へ。震災後のバラック、各地方の支援でつくられた居住施設も紹介されている。最も衝撃的だったのが、旧横浜正金銀行本店のまわりなど、黒こげになった屍体の山をたんたんと見せる、当時の廃墟の「映像」だった。

2013/07/20(土)(五十嵐太郎)

yang02「untitled2」

会期:2013/07/20~2013/10/20

中村キース・ヘリング美術館[東京都]

家族で小淵沢へ一泊旅行。ついでにキース・ヘリング美術館に寄ってみる。ここは2年前にも来たが、小規模とはいえ観光客相手のチャラい美術館とは違って、何人かいる学芸員がちゃんと企画を立てて展示活動を行っている希有な美術館だ。今回は「キュレーターズ・セレクション」の第6回としてyang02をピックアップ。長い通路の壁に張られたキャンバス布にエアゾルによるグラフィティが書かれている。ビデオを見ると、スプレー缶を左右からワイヤーで吊り、モーターで上下左右に動かしながらペイントしていく様子が映し出されている。“自動グラフィティ装置”を使って書いているのだ。たしかにグラフィティの線というのは人間離れしたストロークを理想とするので、機械にやらせたほうがいいという考え方もある。でもグラフィティライターは「人間離れしたストローク」を実現させたいから自分でやってるのであって、それを機械にやられちゃあ筋違いと考える人もいる。そのことを確認するためにも、言い換えれば「人はなぜグラフィティするのか」を再認識するためにも、この装置は有用なのかもしれない。

2013/07/21(日)(村田真)

福田美蘭 展

会期:2013/07/23~2013/09/29

東京都美術館[東京都]

以前、作者の口から「プランが決まれば9割は完成」という言葉を聞いたことがある。描くべき内容が最重要で、あとはそのプランに従って描いていくだけだと。これはある意味、古典絵画の考え方に近い。油彩画以前のフレスコ画では、下絵(プラン)さえ完璧ならあとは色を塗る作業だけだからだ(油彩以後になると、描きながら考え、考えながら描いていくことが可能になる)。しかも彼女はアイディアが明快なうえ描写力が抜群なので、なおさら「描くこと」が手段に堕している印象を与える。キャンバスに油彩ではなくパネルにアクリルで描いてることも、また名画の模写が多いことも、彼女の「描くこと」に対する頓着のなさを物語っていないか。久しぶりに、しかも大量に福田美蘭の作品を見てそう思った。ところが2011年の《磔刑図》以降の新作を見ると、表現主義的な筆触が目立ち始め、「描くこと」がたんなる作業ではなく「喜び」でもあるように感じた。東日本大震災を報じる新聞を描いた《春─翌日の朝刊一面》、宗達を換骨奪胎した《風神雷神図》、ゴッホの《薔薇》を大画面に展開した《冬─供花》などにそれを感じる。もっとも彼女の場合、表現主義的といっても無意識や偶然性の入り込む余地は少なく、滴り落ちる絵具まで描き込む程度には自覚的だが。

2013/07/24(水)(村田真)

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