artscapeレビュー

2012年03月15日号のレビュー/プレビュー

バリー・コロンブル「Barry Kornbluh」

会期:2012/02/10~2012/03/04

リムアート[東京都]

これも恵比寿映像祭の連携展示だが、動画ではなく純粋な静止画像の写真展である。昨年個展が開催されたサンネ・サンネスもそうだったのだが、リムアートでは時々思いがけない(まったく名前もきいたこともない)写真家が紹介されることがある。今回のバリー・コロンブルもサンネスと同じくオランダ在住の写真家。ざらついた、印画紙の粒子を強調した、黒白のコントラストの強いプリントに共通性がある。だが、コロンブルはオランダ人ではなく、1952年生まれのアメリカ人で、90年代にオランダの女性と結婚したのをきっかけにアムステルダムに移住したのだという。
被写体になっているのは身の回りの人物たち(ヌードが多い)や日常の光景であり、その大胆な切り取り方に、ジャズのインプロヴィゼーションのようなセンスのよさを感じる。ただ、サンネ・サンネスのようなエロティシズムの深みへの偏執狂的な固執はなく、ずっと穏やかな作風だ。経歴的にはエド・ファン・デル・エルスケンのようなオランダ、あるいはフランスの写真家たちではなく、「キアロスクーロ」を意識したモノクロームの美学を追求するアメリカのラルフ・ギブソンの系譜と言えるかもしれない。おそらくオランダには、日本ではまだあまり知られていないサンネスやコロンブルのような魅力的な写真家たちが、もっとたくさんいるのではないだろうか。さらなる発掘、紹介を期待したい。

2012/02/17(金)(飯沢耕太郎)

原芳市「光あるうちに」

会期:2012/02/15~2012/02/28

銀座ニコンサロン[東京都]

原芳市から送られてきた写真集『光あるうちに』(蒼穹舍)に添えられていた手紙に「写真は60過ぎた頃から面白くなるような気がします」とあった。これは実感としてよくわかる気がする。原のように生と写真とが不即不離のものとして一体化している写真家にとっては、人生経験の深まりが写真を熟成させていくのだろう。彼は1948年の生まれだから、今まさに写真家としての実りの時期を迎えているということだ。それが今回の展覧会にもよく表われていた。
「光あるうちに」というタイトルによる展示は、2010年のサードディストリクトギャラリーでの個展以来3回目になる。そのたびに、6×6判の写真に写し出された光景が、いきいきと精彩を放ち、輝きを増しているように感じる。展覧会場の最初のパートにヨハネ黙示録の「暗闇に追いつかれないように、光のあるうちに歩きなさい」という言葉が、最後に古今和歌集の「世の中は夢かうつヽか うつヽとも夢とも知らず ありてなければ」という歌が掲げられていた。この二つのメッセージは、原の写真の世界を言い尽くしている。つまり光と闇、生と死、夢と現の間を、できる限り大きく深く、幅をとって見つめ続けようという覚悟が、そこからくっきりと浮かび上がってくるのだ。
展示作品に、裸の女性の写真がかなり多く含まれていることに、大方の観客の方々は戸惑うのではないだろうか。原は若いころから、仕事としてストリッパー、ヌードモデル、SMモデルなどを撮影し続けてきた。『僕のジプシー・ローズ』、『ストリッパー図鑑』などの著書もある。彼にとって、体を張って仕事をしている女性たちを撮ることは特別な意味を持っているように思える。同情とも優越感とも違う、独特の角度から撮られた彼女たちの姿から、哀感と慈しみが混じりあった、なんとも言いようのないオーラが滲み出してきている。

2012/02/17(金)(飯沢耕太郎)

第6回展覧会企画公募

会期:2012/01/14~2012/02/26

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

展覧会の企画の公募なのに、いわゆる展覧会らしい展覧会はひとつもなかった。そういう企画はむしろ拒否しているようにも感じられた。パンフレットによると、2011年度は「いま、本当に必要とされている『場』や『実験』とは何か?」「公共の場で行う『展覧会』とはどうあるべきなのか?」が問われたそうで、審査員の顔ぶれ(毛利嘉孝、神谷幸恵、黒瀬陽平ら)を見ても、まともな(つまりブツが整然と並ぶような)展覧会は期待できそうにない。じゃあどんな企画が選ばれたかといえば、展覧会の枠を踏み外したような、または展覧会とはなにかを問うような、いわばメタ展覧会ともいうべきものだった。たとえば1階(廣田大樹「HARU by Hija Bastarda」)は展覧会開催中というより設営中といった雰囲気で、2~3人の人たちがなにやらつくって展示に加えている。彼らが企画者なのか、アーティストなのか、それとも飛び入り参加の観客なのかわからないが、とにかく雑然として落ち着かない。そもそも企画者─出品者─観客といった役割分担もなさそうだ。パンフレットには「人と人との関係性を創造し、出会いと共同生活を可能にし、時間と場所の感覚を探求すること。これこそが、今回の展覧会での我々の意図する目標です」などと書いてあって、どうやら作品の発表の場というより、出会いのための場づくりをめざしているようだ。2階では音楽が流れ、3階では映像が映されていて、絵画や彫刻などの美術展を期待してきた人はあっけにとられるかもしれない。このように展覧会解体に向かう方向性は高く評価したいが、それが「展覧会」としておもしろいかというと残念ながらそうではない。それが問題だ。

2012/02/17(金)(村田真)

ヤノベケンジ講演会「サン・チャイルドができるまで──人とアートのふれあい、これからの街とアートのありかた」

会期:2012/02/17

茨木市福祉文化会館 5F文化ホール[大阪府]

3月11日、ヤノベケンジによる高さ6.2メートルの巨大なモニュメント《サン・チャイルド》が茨木市の阪急南茨木駅前に設置されるのを前に講演会が行なわれた。347人が定員とされていたのだが、当日はすでに予約でいっぱい、会場も満員だった。《サンチャイルド》は巨大な子どもの像なのだが、ここには「防護服を脱いでも生きてゆける世界を希求し、たとえ傷だらけになっても敢然と脚を踏ん張り、たくましく前を見据えて立ち向かう」という再生・復興してゆく人々へのメッセージと希望が込められている。この日は、哲学者であり総合地球環境学研究所特任准教授の鞍田崇氏が進行役となり、ヤノベ氏がアーティストとして活動するまでのプロセスや、《サン・チャイルド》の制作に至るまでの経緯などが盛りだくさんに語られた。独特の話術で会場に笑いを巻き起こしながら進むトーク。《サン・チャイルド》については、説明よりもなによりも「恥ずかしいくらい前向きなものをつくりたいと思った」という言葉が一番印象的で説得力を感じたのだが、この関連イベントなど、たくさんの催しを企画運営している「茨木芸術中心」の活動にも注目したい。茨木市(の人たち)はなかなかアツいと感じたのが収穫だった講演会。

2012/02/17(金)(酒井千穂)

京都工芸繊維大学工芸科学部 造形工学課程 卒業制作展 ゲストによる学生作品講評・ゲストトーク

会期:2012/02/18

京都府京都文化博物館[京都府]

中村竜治らと、京都工芸繊維大学の卒計展の講評とレクチャーを行なった。建築の卒業設計のほかに、卒論やプロダクト・デザイン系なども混ざっているのが、興味深い。そうなると、見慣れた建築よりも、もの珍しさも手伝い、実物が展示できるプロダクト系にどうしても目が向く。講評では、3点選ぶということで、卒計、卒論、デザインからひとつずつ選ぶ。震災絡みの提案はひとつもなく、被災地との距離も改めて感じさせられた。

2012/02/18(土)(五十嵐太郎)

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