artscapeレビュー

2013年04月15日号のレビュー/プレビュー

川島崇志「新しい岸、女を巡る断片」

会期:2013/03/08~2013/04/07

G/P GALLERY[東京都]

川島崇志は1985年宮城県白石市生まれ。2011年に東京工芸大学大学院芸術学研究科を修了し、12年にTOKYO FRONTLINE PHOTO AWARDでグランプリを受賞するなど将来を嘱望されている若手写真家だ。今回G/P GALLERYで開催された初個展「新しい岸、女を巡る断片」でも、その才能のひらめきのよさと作品構築の能力の高さを充分に感じとることができた。
出身地を見てもわかるように、東日本大震災とその余波は彼にも大きく作用したようだ。今回展示されたシリーズは、震災直後に被災地の海岸でたまたま見つけて撮影したという、2人の女性が写っている写真が基点となっている。彼女たちとのその後の交友を縦軸にして、川島自身の震災へのメッセージを絡ませながら、巧みに作品群をインスタレーションしていく。その手際は高度に洗練されており、彼がこの若さで現代美術と現代写真の文法をきちんと身につけていることに、正直驚かされた。欧米のスタイリッシュなギャラリーの空間に作品が配置されていたとしても、まったく違和感なく馴染んでしまうのではないだろうか。
だが、この洗練は諸刃の剣でもある。作品を見ていて、手法の多様性にもかかわらず、どことなく均質な印象を受けることが気になった。彼が震災の衝撃を受けとめ、咀嚼して作品化する過程で、行きつ戻りつしたはずの思考や行動の軌跡が、もう少し作品にストレートに表われていてもいいのではないのではないかとも思った。混沌を鷲掴みにするような野蛮さ、野放図さがほしい。それが持ち前の高度な作品構築力と結びつくことを期待したいものだ。

2013/03/15(金)(飯沢耕太郎)

竹内麻 展「大体、アラスカマニラ」

会期:2013/03/012~2013/03/017

ギャラリーすずき[京都府]

名古屋芸術大学で版画を学ぶ竹内麻の個展。繊細な線と、企みを隠しているような人物や動物のモチーフ、毒のあるユーモアが興味をそそるものばかりで、一点一点がとにかく気になる。作家自身は見る人がそれぞれに想像と解釈を楽しんでもらえたらと話していたが、引っかかる謎の要素が多く、つい、これは?あれは?と根掘り葉掘り尋ねてしまった。作品のすべてに呆れるほど詳細なストーリーがあるのが面白い。竹内は、日頃、何気なく頭に浮かんだ言葉や耳にした音の響きからイメージを広げ、物語を想像し描いているのだというが、想像というよりも、それはもはや妄想にも達しているイメージの飛躍とリアルな感覚。なんて豊かな感受性と自由な想像力なのだろうと感動するほどだった。夢と現実が入り混じるような荒唐無稽な場面にも、それぞれに悲しみ、喜び、美しさと醜さなど玉石混淆の人間ドラマがあり、それらが交錯するリズミカルな構図にも惹きつけられる。今後の作品発表も楽しみだ。

2013/03/16(土)(酒井千穂)

建築卒業設計展 dipcolle 2013「ディプコレ座談会」

会期:2013/03/17

名古屋市立大学 千種キャンパス[愛知県]

名古屋の卒計イベント、dipcolle2013に藤村龍至、家成俊勝、遠藤幹子、米澤隆らとともにゲストとして参加した。新発見という案がなかったので、一番議論が展開できそうな金城拓也の大阪・空堀プロジェクトを推すことにしたが、個人賞は家成さんとかぶったので、現地リサーチが分厚い杉本卓哉のまちを紡ぐかべを選んだ。また鳥取砂丘を敷地に選んだことで、鈴木理咲子の案もよいと思った。さて、今回はイベントのデザインについて、いろいろと考えさせられた。50人程度の出展者なので、3時間半ぶっ通しだったが、その場にいた全員の学生の話を聞くことができた。これは巨大化したSDLには不可能なこと。参加者の満足度は高いはずだ。また一位を決めないシステムになっていることから、プレゼに進んだ8人の案をだんだん絞らないため、どの案にも時間をかけられる。またプレゼにもれた案も、最後にだいぶコメントの時間をとることができた。これもおそらく、参加者の満足度は高いと思われる。一方で審査員が衝突するバトルを見たい人には物足りないだろう。無理にでも、一位を決める形式をとることで、審査員を追い込み、価値観を競わせる場に誘導しないからだ。もちろん、一位を決めず、多くの案が語られるのと、一位を決めるのと、どちらの方法もありだろう。一方で、疑問に感じたこともある。例えば、8人のプレゼの前に各ゲスト賞を発表すること。通常はプレゼを聞いて、さらに理解が深まり、しばしば評価が変わるからだ。また聴衆にとっても、どれがゲスト賞になるかという楽しみがなくなるし、ゲスト賞からもれた学生にもかわいそう。そしてよくないと思ったのは、審査員と学生の投票を混ぜて、「大賞」を決めること。3年前に目撃したのと同様、明らかに地元の大学が有利になり、遠くからアウェイで参加した学生は疎外感を味わう(審査員も)。実際、5人中2人の審査員が投票した案ではなく、結局審査員が投票しない案が大賞に選ばれた。かといって、dipcolleの学生投票をやめるべきと言っているわけではない。審査員の票が影響をもたないなら、混ぜるなというのが主張である。なぜならば、審査員が投票したことで結果の権威づけをして、利用された感じがするからだ。またあえて一位を決めないイベントだから、「大賞」と呼ばない方がよいのではないだろうか。地元が簡単に有利になるシステムは、イベントが全国区に広がりにくい。SDLは最初の9年間で東北大学のファイナリストは確か計2名のみ、10年目に初めて日本一が出た。これが1年目から地元大の優勝が続いたら、今のようにはならなかっただろう。むろん、意識的にそういうイベントをデザインしているのであれば、地域限定でもよい。

2013/03/17(日)(五十嵐太郎)

東川哲也「New Moon」

会期:2013/03/01~2013/03/26

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

東川哲也は1982年愛知県瀬戸市生まれ。2005年に日本大学芸術学部写真学科を卒業し、現在朝日新聞出版写真部に所属しながら作品を発表している。昨年開催された「EMON AWARD 2012」でグランプリを受賞した本作は、東日本大震災直後の2011年4月から、新月の夜に被災地に残された家屋を撮影し続けたシリーズだ。闇の中にヘッドライトで照らし出された建物が浮かび上がる様子をやや距離を置いて撮影し、728×485ミリの大判プリントに引き伸ばして展示している。プリントをおさめたフレームの内側にLEDのライトを仕込み、画像を透過光で浮かび上がらせるという仕掛けがとても効果的で、建物に残る震災の傷跡が、静かな、だが説得力のある眺めとして定着されている。
だが、これはほぼ同世代の川島崇志の作品とまったく同じ感想なのだが、その巧みなインスタレーションによって、展示全体が均質に見えてくることは否定できない。東川が報道写真的なアプローチを避け、スタイリッシュで美学的なフレーミングや展示方法に固執した気持ちもわからないではない。だが、このところ発表が続いている写真家たちによる、「震災後の写真」への取組みには、志賀理江子のような例外を除けば、どこか共通した弱点があるように思えてならない。ノイズを削ぎ落とし、一定の枠組みの中に作品を落とし込んでしまうことで、彼らが現場で受けとめていたはずのリアリティが、どんどん希薄になってしまっているのだ。もう少し皮膚感覚を鋭敏に研ぎ澄ませ、全身で抗い続けないと、震災後2年を経て風化していく状況に押し流されるままになるのではないだろうか。

2013/03/18(月)(飯沢耕太郎)

瀬戸内国際芸術祭2013 春(直島)

会期:2013/03/020~2013/04/021

瀬戸内海の12の島+高松・宇野[香川県]

多くの人が訪れて大盛況を博した2010年の1回目の開催からはや3年。瀬戸内海の島々を舞台にした現代美術の祭典「瀬戸内国際芸術祭」の2回目が開幕した。23の国と地域、約210組のアーティストが参加し、12の島々と高松、宇野を舞台に開催される今回は、会期も春、夏、秋の3シーズンに分かれていて前回を上回るスケール。高松港で開会式が行なわれた初日は、あいにくの雨でとても寒かったのだが、式終了後に直島に渡り、ベネッセハウス ミュージアムの国吉康雄展と、家プロジェクト「南寺」の近くにオープンした「ANDO MUSEUM」を訪れることができた。築100年以上の木造民家を改築した「ANDO MUSEUM」は、外観は古民家の趣きを残したまま、内部をコンクリートの空間で仕上げたいかにも“安藤建築”らしい建物。館内では、これまで直島でいくつもの美術館施設に携わってきた安藤忠雄の一連のプロジェクトがスケッチや模型によって紹介されている。この日はずっと天気が悪かったので、館内はだいぶ薄暗かったのだが、もっと明るい日差しのあるときに訪れたなら中庭から射し込む光が届く地下空間の趣きもより美しく感じられそうだ。この日は、同じ本村地区の東部公民館とその前の広場では地元の人々による春祭りも開催されており、広場では飲食物の露店も並び、雨のなか訪れる人々で賑わっていた。夕方には公民館で直島の芸能を披露する催しもあったのだが、残念ながらそれは見ることができなかった1日目。

2013/03/20(水・祝)(酒井千穂)

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