artscapeレビュー
2013年04月15日号のレビュー/プレビュー
フランシス・ベーコン展
会期:2013/03/09~2013/04/06
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
東京国立近代美術館で没後初の本格的な回顧展が開催されていることもあって、フランシス・ベーコンの仕事についての関心が高まっている。ベーコンは実際に生身のモデルを描くより、むしろ写真を元にして絵画作品を制作することが多かった。六本木のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムでは、そのベーコンのスタジオで電気工として働いていたマック・ロバートソンが、ベーコン本人から譲り受けて保管していたというモノクローム写真のコンタクトシート、11点が展示された。
この「ロバートソン・コレクション」はとても興味深い資料である。6×6~6×9判の写真に写っているのは、ベーコンがニューヨークで雇った男女のモデルたちだ。レスリングをする二人の男性、ヌードの女性、扉の前で出会って別れていく男女、スタジオ内でジャンプする男性など、さまざまなポーズをとらせて撮影している。おそらくベーコン自身が、彼らのポーズを細かく指示したのだろう。いかにも彼好みの、身体の捩じれや絡み合い、痙攣するような動きが実際に演じられているのだ。残念ながら撮影者の名前はわかっていないが、ライティングもフレーミングもかなり雑な印象なので、それほど高名な写真家ではないだろう。もしかするとベーコン自身がシャッターを切ったのではないかとさえ思える。この一連の写真群には記号のようなものが描き込まれているものもあるようだ。彼が写真をどんなふうに制作に利用していったのか、もう少し具体的にわかると、さらに大きく興味がふくらんでくるのではないだろうか。
写真=Contact sheet of two men wrestling in a studio from the floor of Bacon's Studio
ca. 1975
Prov. The Robertson Collection
Vintage gelatin silver print
Paper size: 41.9 x 50.8 cm
Courtesy of Taka Ishii Gallery, Tokyo and Michael Hoppen Gallery, London
2013/03/21(木)(飯沢耕太郎)
U30 Young Architect Japan 多様な光のあるガラス建築展
会期:2013/03/08~2013/05/31
京橋のAGCスタジオにて、「U30 YOUNG ARCHITECT JAPAN」展を見る。指名7組によるガラス建築の設計競技を経て、名古屋の若手建築家、米澤隆の最優秀案を原寸スケールで置く。透明ガラスの鱗の集合体のような小さなパヴィリオンは、パネルだと森の中のイメージだった。こうしたロマンティックな感覚は、彼の世代に共有されているように思う。
2013/03/21(木)(五十嵐太郎)
超・大河原邦男 展──レジェンド・オブ・メカデザイン
会期:2013/03/023~2013/05/019
兵庫県立美術館[兵庫県]
いまも幅広い年齢層に人気のあるアニメ、「科学忍者隊ガッチャマン」(1972)、「タイムボカンシリーズ ヤッターマン」(1977)、「機動戦士ガンダム」(1979)などのメカデザインを手がけた大河原邦男の40年の業績を紹介する大規模な展覧会。見どころは、これまで「門外不出」とされてきた大河原直筆の設定資料。400点以上というそのボリュームも凄いのだが、ただこれまでに生み出された数々のメカデザインを中心に紹介するというものではなく、作品ごとの時代背景やその世界観にも触れながらデザイナーとしての大河原の仕事、その魅力に多角的にアプローチする構成でとても見応えがあった。私自身は特にガンダムをはじめとするそれらアニメのファンというわけではなかったのだが、できればもう一度見に行きたいと思ったほど。第三章の展示コーナーに設置された、鉄鋼アーティストの倉田光吾郎による《1/1スコープドッグ ブルーティッシュカスタム》も唸るほど完成度が高くファンには特にウケそう。
2013/03/22(金)(酒井千穂)
Under35
会期:2013/03/22~2013/04/14
BankART Studio NYK[神奈川県]
35歳以下の若手アーティストを紹介する「U35」シリーズ、今回はアーティストとギャラリー(またはマネジャー)のセットで公募し、選ばれた6組がBankART全館に展示している。アーティスト+マネジャーは、木村宗平+藤川悠、幸田千依+橋本誠、古久保憲満・松本寛庸+小林瑞恵、柵瀬茉莉子+森田彩子、高山陽介+橋本かがり、丸山純子+大友恵理。今回マネジャー込みで選んだのは、作品の展示・管理を任せてしまおうということと、作品を売ってもらって少しでも回収しようという思惑があるからだ。それによってまた、マネジャーの育成にもつながるし。ちなみにマネジャーはオーバー35が多いようだ。ジャンルは絵画、彫刻、インスタレーション、アウトサイダーアートとうまいぐあいにバラけた。U35とはいえそれなりにキャリアのあるアーティストたちなので、広々としたハードな空間に負けない作品を出している。注目株は、絵画の幸田と彫刻の高山。幸田は泳ぐ人ばかり描いていて、あらためて並べると壮観。会期中も会場で描き続ける。高山はチェーンソーで彫り刻んだ彫刻に絵具をかぶせた作品だが、おもしろいのは、あたかも制作中みたいに台座や木クズまで作品としていること。しかし彼らの作品も、古久保・松本の一途さ、ゆるぎのなさにはかなわない。
2013/03/22(金)(村田真)
喜多村みか「Einmal ist Keinmal|my small fib」
会期:2013/03/20~2013/03/31
THERME GALLERY[東京都]
喜多村みかは渡邊有紀と互いにポートレートを撮影し合った「TWO SIGHT PAST」で2006年に写真新世紀優秀賞を受賞した。その後、自分の写真の世界を構築する作業を、じわじわと水が地表に沁み出してくるように続けて、今回写真集『Einmal ist Keinmal』(THERME Books)の刊行につなげた。本展はそれを契機として開催されたもので、1階スペースに大小のカラー・プリントをちりばめた「Einmal ist Keinmal」が、2階スペースにモノクロームの「my small fib」のシリーズが展示されていた。
写真集の表題となっている「Einmal ist Keinmal」というのはドイツのことわざで「一度は数のうちに入らない。ただ一度なら全然ないのと同じこと」という意味だ。つまり「些細なもの、取るに足らない事柄」ということなのだが、たしかに彼女の写真の中に写っているものには、壁の傷とか、光のプールとか、ぼんやりした影とか、鉢植えの植物とか、たまたま出会った人物とか、日常のなかで見出される「取るに足らない事柄」が多い。だがそれらの小さな「しるし」が、不思議な輝きを帯びて目に飛び込んでくる所に、彼女の写真術の秘密があるのではないかと思う。「数のうちに入らない」ことが、「たった一度しか起らなかった」稀有な出来事に転化していく。それを見届けたということの歓びが、どちらかと言えば地味な写真が並ぶ展示からも確実に伝わってきた。
写真集も写真の構成、レイアウト、デザインのレベルが高く、素晴らしい出来栄えだ(装丁は熊谷篤史)。カラー作品→モノクローム作品→カラー作品という転調がうまく効いていて、読者の気持ちをそらすことなく、最後まで運んでいってくれる。
2013/03/22(金)(飯沢耕太郎)