artscapeレビュー

2015年08月15日号のレビュー/プレビュー

きかんしゃトーマスとなかまたち展

会期:2015/07/18~2015/10/12

東京都現代美術館[東京都]

1945年に発表され、今年70周年を迎える絵本『きかんしゃトーマス』。といってもぼくが知ったのは十数年前に子どもができてからで、自分の子ども時代にはなかったなあ。まだ翻訳されてなかったのか、うちだけ買ってもらえなかったのか。作者はウィルバート・オードリーという牧師で、最初は息子のために蒸気機関車の話を創作して聞かせてたという。4人の画家による絵本の原画に加え、映像、ミニチュアモデル、架空の地図、顔のある車体正面の立体モデル、実際に子どもを乗せてレール上を走るミニ機関車など。蒸気機関車が主人公だからか、遠近法やメカニックな描写は正確で、ここらへんに叙情的な日本の絵本との差を感じてしまう。

2015/07/17(金)(村田真)

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オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男

会期:2015/07/18~2015/10/12

東京都現代美術館[東京都]

空飛ぶ円盤が海岸の崖の上に不時着し、そこからニーマイヤー本人が颯爽と降り立ってくる……というあきれたイントロ映像から展覧会は始まる。オスカー・ニーマイヤーといえば、祖国ブラジルの首都ブラジリアの都市計画にたずさわった建築家として知られるが、なぜか丹下健三やフィリップ・ジョンソンとダブってしまうのは、モダニズム建築の巨匠でありながら尻軽で新しもの好きだったこともあるが、たぶんみなさん長命だったからでしょうね(丹下91歳、ジョンソン98歳、ニーマイヤー104歳)。なにごとにも好奇心を持つことが長寿の秘訣かもしれない。それはともかく、冒頭の崖の上の円盤ことニテロイ現代美術館や、ミルククラウンのようなブラジリア大聖堂などの模型や写真のほか、サンパウロ・ビエンナーレの会場もあるイビラプエラ公園の30分の1模型もアトリウム空間に再現している。

2015/07/17(金)(村田真)

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MOTコレクション 戦後美術クローズアップ

会期:2015/07/18~2015/10/12

東京都現代美術館[東京都]

1階では戦後70年の美術の流れを通史的に外観しているが、定番ものではないレアな作家・作品が目立つ。まず最初の部屋で、いきなり中原實の見たことのない戦前戦後の作品に出会う。とくに海辺にたむろう水着の男女を描いた《海水浴》は、関東大震災の翌年の制作と知れば白昼夢のようにも思えてしまう。また、池田龍雄かと思った素描と版画は石井茂雄だし、井上長三郎も鶴岡政男もあえて有名な代表作を外してる、といったように。最後の部屋には大岩オスカールの《戦争と平和》(2001)と題された2点組の大作があり、モノクロが「戦争」、明るい色彩が「平和」を表わしているのだが、驚くことに「戦争」のほうは3.11の10年前、つまり9.11の年の制作なのに、津波に襲われたような風景にしか見えないのだ。

2015/07/17(金)(村田真)

新国立競技場白紙撤回

安保が強行採決された直後、ザハ・ハディドによる新国立競技場のデザインの白紙撤回が発表された。コンペをしたプロジェクトのキャンセルはめずらしくないが、建設自体の中止でないにもかかわらず、ここまで図面を描き、着工直前まできて、つぶれた事例はまれだろう。その際、一方的に建築家とデザインが悪者にされたのは、きわめて残念である。本当は過剰なスペックとプログラムを押し込んだ発注者側の考え方を改めないと、根本的な問題解決にならない。ともあれ、数十年経って、後から日本の歴史を振り返ったとき、2015年はどう記述されるだろうか。近代的な法の概念が壊れ、「我が軍」の経費は増強する一方、大学の人文系は役立たないと切り捨てられる。建築も、90年代以降、バブル崩壊、2つの震災など、大きな事件はあったけれど、今回の決定はその後の展開によってはかなり大きなダメージを受けるかもしれない。愛知万博でも、当初、隈研吾・竹山聖・團紀彦らが共同で会場計画に関わっていたが、分断された挙句、最後は全員が外された。大阪万博と比べて、建築とアートの後退ぶりは凄まじかったが、2020年の東京オリンピックでも国家プロジェクトにおける「建築」の困難さが繰り返されている。もっとも、どれくらいのレベルで白紙撤回をするのかが実ははっきりしていない。

2015/07/17(金)(五十嵐太郎)

蔡國強 展:帰去来

会期:2015/07/11~2015/10/18

横浜美術館[神奈川県]

横浜美術館の蔡國強展へ。彼の持ち前の手法も再確認できる。が、それよりも今回は一発のコンセプトで、大空間を埋めるインスタレーションが大胆であり、過去に同じ場所を使った現代美術の試みを思い出すと、なかなか日本のアーティストにはできないスケール感だと思う。また常設は、戦後70周年で戦争との関係がテーマであり、じっくり見るべき内容だった。

2015/07/18(土)(五十嵐太郎)

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2015年08月15日号の
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