artscapeレビュー

2011年01月15日号のレビュー/プレビュー

下平千夏─implosion point─

会期:2010/12/04~2010/12/25

INAXギャラリー[東京都]

緊張と弛緩。人間の身体がこの相反する二つの運動によって駆動しているように、下平の作品には運動の基本的な原型が垣間見える。大量の輪ゴムを連結した線を一本により集め、一方をきつく縛り上げる反面、もう一方を放射状に拡散させて空間の隅々で固定する。すると、線であることを失念するほど硬化したゴムの塊がおそるべき内向的な求心力を連想させるのたいし、四方八方に飛び散る無数の線が爆発的な外向性を体感させるのである。空間を両極に引き裂く力の狭間に私たちを追い込むところに、下平の作品の魅力がある。

2010/12/09(木)(福住廉)

小勝負恵 展 [Blind house]

会期:2010/12/07~2010/12/26

Yoshimi Arts[大阪府]

古から絵画は窓の比喩として認識されてきたが、こんな絵画を見たのは初めてだ。小勝負の作品は、ご覧のとおり窓の形をしている。しかもその窓は開閉可能で、キャンバスと窓の両方にイメージが描かれているため、閉じた時と開いた時で絵の意味合いがガラリと変わる。例えば、窓を閉じている時は父と娘の食事風景だったのが、窓を開けると娘一人の寂しい食卓になるという具合だ。また、リストカットなど青少年の悩みを主題にした作品があるのは、教職に就く彼女の実体験に由来する。まだ展覧会経験はわずかだが、誰もが共感できる“物語性”という武器を持つだけに、今後、脚光を浴びる可能性が高いと見た。

2010/12/09(木)(小吹隆文)

生誕百年記念展──写真家・名取洋之助

会期:2010/11/30~2011/12/26

JCIIフォトサロン・クラブ25[東京都]

名取洋之助は1910年に生まれ、62年に亡くなっている。ということは、享年52歳ということで、あらためてそのことに気づいて愕然とさせられた。彼が生涯に成し遂げたさまざまな仕事、日本工房(1933~39年)、国際報道工芸(1939年~45年)、『週刊サンニュース』(1947~49年)、『岩波写真文庫』(1950~59年)などと比較して、その没年齢が余りにも若すぎるように思えるからだ。20歳代前半から、写真と編集の世界を息せき切って走り続けたということのあらわれだろう。
今回のJCIIフォトサロン・クラブ25での「生誕百年記念展」には、戦前のドイツ、アメリカ、朝鮮、満州などの写真から、戦後の中国・麦積山、最晩年のヨーロッパ・ロマネスク彫刻の写真まで、代表作150点余りが展示されていた。その中には年上の妻、エルナ・メクレンブルクを撮影した初々しいポートレートも含まれている。名取はいわゆる「うまい」写真家ではない。中国の仏教遺跡、麦積山石窟の写真を、3日間で3000カット撮影したというエピソードが示すように、とにかく大量に集中して撮影し、そこから雑誌記事や写真集にふさわしいカットを選び出していく。その基準は、明解でわかりやすい「模様的な」構図、感情移入をしやすい人物の表情、動きのあるいきいきとした雰囲気などである。写真を視覚的なコミュニケーションの手段として、いかに効果的に使いこなしていくのかという姿勢が、徹頭徹尾貫かれているのだ。
このような効率一点張りの姿勢には、むろん彼の生前から批判があった。だがいま見直してみると、当時のフォト・ジャーナリズムを支えていたポジティブな楽観主義が、むしろ好ましいものに思えてくる。名取も若かったが、日本の写真表現それ自体が「青春時代」のまっただ中だったということだろう。

2010/12/09(木)(飯沢耕太郎)

絵の彼方「川北ゆう/山本彩香」

会期:2010/12/01~2010/12/11

京都精華大学 ギャラリーフロール[京都府]

油絵の具や水性のインクと水を用い、揺れ動いた線の痕跡による作品を展開している川北ゆうと、意図とは無関係に現実を曝しだす写真の特性(とその違和感)に惹かれて制作を行なっているという山本彩香の二人展。川北の平面作品と山本のエストニアで撮影された写真、まったく表現方法は異なるふたりだが、どちらにも透き通った空気感や湧き水のような清涼感が感じられる。といっても、移りゆく時間や、生々しい身体と皮膚の感触を連想させるそれらの画面の緊張感は、感情の動きをも示すような色のリズムをともなっているためか、冷たく固い印象はあまりない。感覚や自然現象のなりゆきにまかせる無作為と作為の間を漂うような制作法で、不安定な要素を多く持つ川北の作品と、不自然という違和感で被写体の美しさをあぶり出すように表現する山本の写真のマッチングは実に繊細な織物の模様のように深遠な味わいがあるものだった。今後の活動がまた楽しみだ。

2010/12/10(金)(酒井千穂)

フジタマ×山西愛 展「みんなひっかかる」

会期:2010/12/10~2010/12/26

アトリエとも[京都府]

知的障害や精神的障害をもつ若者の自立支援施設である「アトリエとも」のギャラリーで、人々がつながるためのきっかけづくりをテーマに開催してきた「スコップ・プロジェクト」第5回目の展覧会。これまでの開催のなかでも今展は娯楽的な要素が大きく、多くの人が関わりやすく親しみやすい雰囲気に仕上がった。展示はすごろくをモチーフにしてフジタマ、山西愛の二人がそれぞれに制作した作品がメインだったが、フジタマは他にも、本物のイカやシジミ、スポンジの人形、神社をモチーフにした作品もインスタレーション。〈タタリちゃん〉など、へんてこなキャラクターの数々と極彩色で彩られた会場がいっそう怪しげで楽しい(?)雰囲気をつくっていた。年末にはふたりの作家によるワークショップ「すごろくチャンピオンシップ」も開催されたが、なかには、以前の展覧会を見てこの企画を知り、はるばる三重県から足を運んだという参加者もいた。黒板の壁面でコマを動かす山西愛のマグネットのすごろくは特に、歓声が起こったり興奮の声があがって良い雰囲気の盛り上がりを見せた。さまざまな課題や問題も見えてきたが、このプロジェクトの成果が目に見える機会となった愉快な展覧会だった。

2010/12/10(金)(酒井千穂)

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