artscapeレビュー
2011年01月15日号のレビュー/プレビュー
写真分離派宣言
会期:2010/12/11~2011/01/30
ナディッフギャラリー[東京都]
鈴木理策、鷹野隆大、松江泰治、倉石信乃、清水穣という同じ1963年生まれの写真家・写真評論家が結成したグループの旗揚げ展。「写真とは何か、写真の可能性はどこにあるのか。/我々は今、改めて問いたいと思う。」という宣言は威勢がいいのだが、肝腎の写真は小品で数も少なく、いささか拍子抜けの感はぬぐえない。まあ会場が小さいからね。宣言文にメンバーが赤入れしたゲラも出ていて、やはり複数の意見をまとめるのはタイヘンだなと。
2010/12/12(日)(村田真)
モネとジヴェルニーの画家たち
会期:2010/12/07~2011/02/17
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
タイトルからモネの展覧会と勘違いしそうだが、実際はモネを追従するアメリカ人画家の作品が大半を占める。ジヴェルニーはモネが後半生をすごしたセーヌ川沿いの小村で、モネを慕って世界中の画家たちが訪れた場所。とくに多かったのが印象派を早くから受け入れたアメリカの画家たちで、訪問者の70パーセントを占めたばかりか、ここに住んで制作した画家も50人を超えるほどだったという。日本人もミーハーだが、アメリカ人はもっとミーハーだったのね。しかし、というか、やはりというか、そんなにたくさん訪れたアメリカ人なのに、美術史に名を残すほど有名になった画家はひとりもいないのだ。セオドア・ロビンソンとかジョン・レスリー・ブレックとか言われてもだれも知らないし。追従するのはいいけれど、それで終わっちゃ意味ないよね。目を引いたのは、モネの義理の娘ブランシュ・オシュデ=モネの絵。ほとんどまったくといっていいほどパパの絵と同じなんだもの。
2010/12/12(日)(村田真)
岸田良子 展─TARTANS─
会期:2010/12/14~2010/12/25
galerie 16[京都府]
長年白地図をモチーフにした作品シリーズを展開してきた岸田だが、本展では一休みして新たな作品を発表した。そのモチーフは布地のタータンチェック。シンプルな柄を選んで、P80号包み張りのキャンバスに描いた作品7点を展示した。本人の解説によると、油絵具をアルバース塗り(油絵具をペインティングナイフでパンにバターを塗るように塗った後、別のペインティングナイフで盛り上がった部分を削ぐ技法。画家のジョセフ・アルバースが用いた。油は一滴も使用しない)しているとのこと。布地の柄を写しただけなのに、作品に確かな存在感が漂っているのは、この技法によるところが大だと思われる。
2010/12/14(火)(小吹隆文)
山荘美学「日高理恵子とさわひらき」
会期:2010/12/15~2011/03/13
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
自宅アパートのバスルームや階段、キッチンの隅を舞台に、ラクダやヤギ、足の生えたスプーンやはさみなどが動き回り、飛行機が飛ぶ。日常のものごとからインスパイアされた見立ての世界を映像作品として繰り広げるさわひらきと、身近な樹を見上げたときの光景を大画面に描いたモノクロームの絵画を発表している日高理恵子の二人による展覧会。 同館で撮影、制作された最新作も含めたさわの作品8点は、本館の展示室や2階喫茶室のガラスケース、引き出し、窓際など、館のあちこちにそっと隠されるように設置されていた。その作品世界の密やかな楽しさをいっそう魅力的に見せる遊び心にも満ちた空間で素敵だ。百日紅が描かれた日高の5点の絵画が展示されているのは、安藤忠雄建築の新館。天窓の下の円形の空間で、一連の作品の画面に近づいたり離れたり、距離や角度を変えながら見ていると、立体的な奥行きと迫力を感じる。できれば天窓から差し込む外の光とともにあじわいたい空間なのだが、残念ながら訪れたときはすでに空は暗く叶わなかった。 日常を見つめることから表現を展開するふたりの作家の作品と空間それぞれの魅力が発揮された展覧会だと思う。できればもう一度行きたい。
2010/12/15(水)(酒井千穂)
山荘美学 日高理恵子とさわひらき
会期:2010/12/15~2011/03/13
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
自宅庭の百日紅(さるすべり)を、見上げる角度で描く日高理恵子は、安藤忠雄設計の新館で5点を出品。館蔵品のモネと同室で展示され、同じ絵画というジャンルながら、色遣い、構図、表現法など、さまざまな意味で対比的な展示を行なった。空間に対して大きめの作品を持ち込んで、観客が作品を凝視するよう誘導したり、作品を高い位置に設置することで、空間の垂直性を意識させる手法も見事だった。一方、さわが8作品の展示を行なったのは、古い洋館の本館。自室を舞台にした映像作品は、本館のアンティークなインテリアと相性抜群で、くつろいだ気分で作品世界に没入することができた。また、本館に展示されている民芸の器とも違和感なく馴染んでいた。規模的には小さくとも、考え抜いた展示により濃密な体験を提供した本展。キュレーションの妙を味わいたい人におすすめだ。
2010/12/15(水)(小吹隆文)