artscapeレビュー
2015年02月15日号のレビュー/プレビュー
渡辺兼人写真展「半島/孤島/水無月の雫」
会期:2015/01/16~2015/02/14
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
ツァイト・フォト・サロンは2014年9月に東京・日本橋から京橋に移転してリニューアル・オープンしたのだが、その第1回目と2回目の展示は、それぞれ写真作家と美術作家のグループ展だった。個展のスタートが誰なのかということに興味があったのだが、展示を見て、それが渡辺兼人だったことに納得した。渡辺は1982年以来、ツァイト・フォト・サロンで8回にわたって個展を開催しているという。ただし、最後の個展である2004年2月~3月の「陰は溶解する蜜蝋の」から11年ほど間を置いているので、ひさびさの展示ということになる。その間に写真を巡る状況は大きく変化したが、そんな中で彼の作品の見え方も違ってきているように思えた。
渡辺は基本的に、純粋に「写真そのもの」を志向する作家といえるだろう。その「写真至上主義」というべき作風が、デジタル全盛の現時点で逆に燻し銀の輝きを発しているように見えるのだ。今回の出品作は「半島」(16点、1997年)、「孤島」(6点、1999年)、「水無月の雫」(9点、1995年)の3シリーズ。それぞれ、樹木や草(「半島」)、建物(「孤島」)、海と空(「水無月の雫」)を写しているのだが、渡辺が被写体に強い関心を持っているわけではなさそうだ。むしろ、6
x 6、6 x 7、6 x 9のフォーマットの画面(印画紙は四切あるいは大全紙)に、モノクロームのフォルム、明暗、質感を、どのようにコントロールしておさめていくのかに全精力が傾けられている。そして、それは視覚的な画像情報としてほぼ完璧なレベルにまで達しており、多少なりとも写真作品を見続けてきた者なら、誰もが感嘆の声を上げてしまうだろう。
渡辺は長く東京綜合写真学校で講師を勤めているのだが、同校の学生には彼の影響を強く受けて「写真至上主義」の作品作りに向かう者もかなりいる。だがそれは諸刃の剣で、生半可な技術力ではその高みに追いつくのがむずかしいだけでなく、マンネリズムの袋小路に陥ってしまいがちだ。実は渡辺自身は、そのような隘路に入り込むのを、巧みに回避する術を心得ているのではないかと思う。たとえば、とても的確な、だが時には過度に文学的に思えるタイトルの付け方も、その一つだろう。彼が今後、作風を変えていくとはとても思えないが、新作をぜひ見てみたい。極上の眼の歓びを味わわせてくれるはずだ。
2015/01/24(土)(飯沢耕太郎)
鉄腕アトム「地上最大のロボット」より 「プルートゥ PLUTO」
会期:2015/01/09~2015/02/01
Bunkamuraシアターコクーン[東京都]
シアターコクーンにて、「プルートゥ」を観劇する。漫画のコマ型に着想を得た額縁型のフレームや、7つの台形ピースを組み合わせるトランスフォーマー的な装置が、十数以上のバリエーションで変化しつつ、そこにプロジェクションマッピングが絡む舞台美術が面白い。が、俳優としては、これだけ装置がきわだつと、やりにくいかもしれない。もっとも、「プルートゥ」はロボット役なので、あまり露骨に感情の描写をする必要がない設定なので、よいかもしれないが。脚本は、原作の流れを圧縮処理するのが大変そうだった。
2015/01/24(土)(五十嵐太郎)
ASU~不可視への献身
会期:2015/01/24~2015/01/25
KATT 神奈川芸術劇場ホール[新潟県、神奈川県]
KAATにて、金森穣/Noism1の公演を見る。第一部は白い空間で、スティーブ・ライヒと池田亮司の現代音楽にあわせてメカニカルに踊る。一方、第二部の『ASU』は黒い空間で、ちょっと聴いたことがないような音楽で、インパクトのある喉歌が流れる。原始的な世界を思わせる舞踏だが、バレエ・メソッドをベースにしており、変にどろどろした感じはない。素早く、細かい動きや編成は日本人の身体向きと思う。
2015/01/24(土)(五十嵐太郎)
ホビット 決戦のゆくえ
映画『ホビット 決戦のゆくえ』(監督:ピーター・ジャクソン、原作:J・R・R・トールキン「ホビットの冒険」)を見る。140分のほとんどが戦闘シーンで、息もつかせないのだが、CGならなんでもできるよな、と思いながらの鑑賞だと、この手のジャンルに必要なセンス・オブ・ワンダーがかなり削がれてしまう。冒頭のドラゴンが湖の町を焼きつくすシーンは、爆撃機の空襲を想起させる。
2015/01/24(土)(五十嵐太郎)
福島の復興に向けた勉強会「福島・原発避難・復興・モラルを考える」、木造 復興住宅 小規模コミュニティ 郡山プロジェクト
会期:2015/01/25
郡山プロジェクト[福島県]
芳賀沼さんの案内で、福島の被災地をまわる。以前、南からは富岡、北からは小高まで訪れたが、今回は許可が必要な双葉や浪江のエリアに入ることができた。人がいなくなった街は、前回も見たが、ここでは震災による被害がもう少し大きい。やはり、風景が激変した宮城県や岩手県の被災地とは違い、手つかずで、そのまま時間が止まったままである。3.11の記憶が残る場所としてだけでなく、古い建築ゆえに、昭和の香りが感じられる場所としての意味も獲得している。遠くからだが、初めて肉眼でフクイチを見ることもできた。その後、南相馬の塔と壁画のある仮設住宅地の自治会長だった方の家に訪問する。来年の完全帰宅可能をにらんでの自宅の改築計画は、次の建築の一手として重要なものになりそう。最後は、はりゅうウッドスタジオが、難波和彦やスタジオナスカ他の建築家とコラボレーションした郡山プロジェクトの現場に移動し、一緒に見学した青井さん、浅子さん、中川さんらと、福島をめぐるトークを行なう。
2015/01/25(日)(五十嵐太郎)