artscapeレビュー
2011年12月15日号のレビュー/プレビュー
山本顕史「ユ キ オ ト」
会期:2011/11/30~2011/12/11
2011年7月に、北海道東川町の東川町国際写真フェスティバルの行事の一環として開催された第1回リコーポートフォリオオーディション(審査/飯沢耕太郎、鷹野隆大)で、グランプリに選出された山本顕史の個展である。最近ポートフォリオレビューにレビュアーとして参加する機会が多いが、このオーディションはそのなかでもかなりレベルが高いものだった。59名という応募者数はとりたてて多くないのだが、力作が多く、第一次審査の段階から絞り込むのに苦労した。そのなかでグランプリに選ばれた作品なので、それだけ期待も大きかったのだ。
山本は札幌在住の写真家だが、ロンドンの写真学校で学んだという経歴もあり、シリーズとしてのまとめ方がとてもうまい。「都市と雪」をテーマにしたこの「ユキオト」のシリーズでも、写真を選択し、組み合わせていくセンスが抜群で、ポートフォリオとしての完成度も高かった。それをRING CUBEの丸い回廊上の会場にどのように落とし込むのかと思っていたのだが、写真の数を少し増やし、天井から布プリントを吊るし、本物と見紛うような樹脂製の雪とスコップをインスタレーションするなど、巧みな会場構成だった。写真家としての潜在能力の高さを充分に感じとることができた展示だったと思う。
次は「雪の断面図」のような新鮮なアイディアをさらに発展させていくとともに、冬の北海道以外の新たなテーマも探していかなければならないだろう。上々の滑り出しを見せた新人写真家の正念場は、むしろ2回目の作品発表になることが多い。山本にもそこをなんとかクリアーしていってほしいものだ。
2011/11/30(水)(飯沢耕太郎)
第43回日展
会期:2011/10/28~2011/12/04
国立新美術館[東京都]
霜月の末日を飾るは晩秋恒例「日展」探検。といっても数が多いので日本画と洋画だけよ。それでも合わせて1,091点ある。日本画を漫然と見ていると1点に目が止まった。岩田壮平《白─03・11》。タイトルからも察せられるとおり東日本大震災をモチーフにしたもので、どういう技法か知らないけれど被災地の写真を画面に転写している。画像はモノクロームでしかもネガなので一見なんだろうと思ってしまうが、まぎれもない被災地の風景だ。そう、今年は大変な年だったんだ、と、この作品であらためて気づかされた。そう思ってもういちど見直してみたが、やはりというか残念ながらというか、日本画で直接震災に触れた作品はこれしかなかった。洋画はもう少しあった。ガレキの山を黒いペンで描いた西川誠一《溜まり》と、被災地の風景をバックにカボチャなどの静物を手前に描いた伊勢崎勝人《それでも大地は甦る》。また、渡辺雄彦《取り残された海》は震災とは関係なさそうな室内静物画だが、そこに描かれた舵輪やランプなどは津波に飲み込まれた作者の故郷に残された遺品だという。別に震災や原発事故をテーマにしなければならない義務はないが、しかしまるでそんな出来事などなかったかのようにエキゾチックな異国の情景を描いたり、ロココな衣装を着けた時代錯誤の女性像を描いたり、ましてや東北では壊滅状態に陥った漁村や漁港をのどかに描いた風景画(なぜか日展には多い)を見ていると、怒りを通り越して絶望的な無力感に襲われる。そう、日展とは時代や社会から目をそらせる美の王国であり、そこだけ時間の止まった竜宮城なのだ。
2011/11/30(水)(村田真)
カタログ&ブックス│2011年12月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
ミルフイユ03
落ち葉を幾重にも重ねたような、直訳すれば「千の葉」という意味のお菓子「ミルフイユ」。さまざまなイメージやメッセージや人々が層をなして重なり合う活動をその名前に託した機関誌『ミルフイユ』の第3号を刊行します。第3号となる今号では、「土着」をテーマに、谷川俊太郎ほか、多彩な顔ぶれによる寄稿、仙台出身の写真家、故・中村ハルコの特集、開館10周年事業トークセッション「コミュニケーションの未来へ」の採録とモデレーターによる論考などを収録しています。[せんだいメディアテークサイトより]
いま、バリアとはなにか
開館10周年事業として2010年に行われた同名企画の記録集。情報技術の拡大とともに幕を開けた21世紀が10年を経たいま、私たちの社会はどのようにあるのか。「バリア」をキーワードに、メディアテークから見えてくるこれからの社会の可能性を表現。会期中に行われた作品展示やレクチャーの記録を中心に、参加作家による書き下ろし原稿を採録。執筆:桂英史、小山田徹、藤井光、港千尋、北川貴好、三輪眞弘、佐近田展康、光島貴之ほか。[せんだいメディアテークサイトより]
袴田京太朗作品集
1980年代後半から、一貫して「彫刻とは何か」を自身に問いながら、さまざまなカタチを制作し続けている彫刻家・袴田京太朗。私たちが思い描く彫刻のイメージを揺さぶる作品群を制作年代順に掲載。その潔い変化は、進化し続ける作家のこれからを期待させる作品集。[求龍堂ホームページより]
アーティストのためのハンドブック──制作につきまとう不安との付き合い方
本書は、アーティストが、自分の制作をしていく際の心がまえをコンパクトに説くやさしい哲学であり、迷った時、行き詰まって辞めたくなったときの心の助けになるような指南書です。「この作品をつくるのは何のため?」 「これは行なう価値がある?」「これを続けて食べていける?」「多くの人が辞めてしまうのはなぜ?」……誰もが覚えのある、アーティストでありつづけるかぎり襲われる、このような答えの出ない不安と共存し、飼い馴らしながら、自分の制作をやめずに続けていくための、「すべてのジャンルの〈制作者たち〉に効く常備薬」、“心の”サバイバル・ガイドなのです。[フィルムアート社ホームぺージより]
超域文化科学紀要 第16号 2011
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻の発行する、毎年1回刊行の査読付研究雑誌。
Wolfgang Tillmans Abstract Pictures
ヴォルフガング・ティルマンスの最新写真集。初期のものから最新作まで、抽象的な作品を収録。
2011/12/15(木)(artscape編集部)