artscapeレビュー

2015年02月15日号のレビュー/プレビュー

野口明美 銅版画展「メトロに見るパリのエスプリ」

会期:2014/12/23~2015/01/03

ギャルリーパリ[神奈川県]

正月を挟んだ年末年始だけの開催。パリのメトロにインスピレーションを得た銅版画で、案内状を見て興味を惹かれた。そこには広告のある地下鉄ホームを描いた作品が印刷されているのだが、全体は簡略な直線で表わされているのに、女性をモデルにした広告の部分だけ丹念に描き込まれていたからだ。この広告もひとつの絵と見れば、画中画を強調した作品といえる。フランス在住40年近い野口さんは、最初は壁画を志していたらしいが、パリで銅版画を学び、メトロの駅を描くようになったという。地下鉄、壁画と聞いてラスコーの洞窟壁画を思い出したが、野口さんもフランスに来たころ興味があって見に行ったらしい。70年代にはまだ公開されていたのだ。先史時代の洞窟壁画と現代のメトロの広告をつなぐ見えない糸があるのかもしれない。それはともかく、この「メトロシリーズ」、街の広告を描くという意味では、かつて佐伯祐三が捉えたパリの街角のイメージとも通じるところがある。ほかに、彼がコレクションしたスプーンを正面から緻密に描いた版画も展示。正面性も大きな特徴だ。

2015/01/03(土)(村田真)

建築家 星裕之氏 レクチャー

会期:2015/01/06

東北大学青葉山キャンパス[宮城県]

東北大学にて、宇都宮の建築家、星裕之さんに自作についてしゃべってもらう。バブル崩壊後、ポストモダンを嫌い、ルイス・カーンのように光を扱う近藤春司の事務所でつとめた後、構造設計の仕事を経て、独立した経緯が語られる。得意とするローコスト住宅の設計では、廊下をなくしながら、床の段差をコントロールするコンパクトな計画、建築部位の分離表現、視線の回避と眺めの導入などが、共通した特徴になっている。

2015/01/06(火)(五十嵐太郎)

川島小鳥『明星』

発行所:ナナロク社

発行日:2014年12月24日

『未来ちゃん』(ナナロク社、2011)で大ヒットを飛ばした川島小鳥の3年ぶりの本格的な写真集は、まずそのデザインワークの新鮮さで目を引きつける(デザインは佐々木暁)。川島本人のアイディアだったようだが、ページを開くと横長のパートと縦長のパートが交互にあらわれる造りになっているのだ。縦位置の写真と横位置の写真をどう組み合わせてレイアウトするかというのは、実は常に写真家やデザイナーの頭を悩ませるとてもむずかしい問題だ。つまり縦が長い用紙の本だと横位置の写真が小さくなり、横が長いと今度は縦位置の写真が小さくなってしまうのだ。その難問を、今回は端を斜めに切った厚紙の表紙に縦長、横長のレイアウトのページを挟み込むことで見事に解決した。おそらく世界初の試みではないだろうか。
この縦横自在のレイアウトは実に効果的で、ページを開くたびに、それぞれ違う眺めを楽しむことができる。しかも、単にトリッキーな視覚的効果だけではなく、それが写真集の内容にもぴったり合っている。台湾で撮影されたという、みずみずしい生命力を発散する少年や少女たち、奇蹟のように降り注ぐ光、雨、カラフルな極彩色に彩られた世界の輝きが、ページを開くたびに、弾むように目に飛び込んでくるのだ。『未来ちゃん』の力強い、ストレートな眼差しをそのまま受け継ぎつつ、より幅広い被写体を、柔らかに捕獲していく能力を、1980年生まれの川島はしっかりと身につけつつある。さらにエネルギーを全開にして走り続けていってほしいものだ。

2015/01/07(水)(飯沢耕太郎)

森山大道写真展「遠野2014」

会期:2014/12/18~2015/02/09

キヤノンギャラリーS[東京都]

2015年のギャラリー回りは、東京・品川のキヤノンギャラリーSの「100回記念写真展」として開催された、森山大道の「遠野2014」からスタートすることにした。
森山は1974年に岩手県遠野とその周辺を撮影し、写真集『遠野物語』(朝日ソノラマ、1976年)を刊行している。隣り合う2カットを並置してプリントするという特異な手法によって制作された写真群は、現実と幻想世界とが入れ子状に混在する、異様にテンションの高い磁場を形成していた。だが、その40年後に遠野を再訪して撮影した写真によって構成された今回の展示には、当時の切迫した感情の震えを見ることはできない。カラー写真6点(使用カメラはキヤノンEOS 6D)、モノクローム47点(同PowerShot G7 X)の展示作品を見て感じるのは、森山が遠野の風景やそこで出会った人物たちを、しっかりと受けとめ、投げ返す手つきの揺るぎのなさだった。牛や馬、神社や祭礼、河童の人形など、『遠野物語』を彷彿とさせるイメージもある。だが、どちらかといえば「遠野2014」は、地に足をつけた日常性に傾いているといえそうだ。遠野郷はちょうど稲の刈り入れが始まったばかりで、「町場に人影は薄かったが、野も山も河もたおやかで、しかししたたかな時間と風景の広がりの中に在った」と森山はコメントしている。たしかにくっきりと奥行きのある「したたかな時間と風景の広がり」が、やや横長に引き伸ばされたモノクロームプリントに封じ込められており、会場の外壁部分に展示されたカラープリントも含めて、森山が既にデジタルカメラとプリンターの表現力を、自在に使いこなすことができる段階に達していることがよくわかった。
遠野の「現在(いま)」と40年前の過去とが交錯するような展示も充分考えられるし、森山がさらに遠野を撮り継いでいけば、さらに厚みのあるイメージの集積ができ上がってくるだろう。そんな可能性を夢見させてくれる、充実した内容の写真展だった。なお、展覧会にあわせてAkio Nagasawa Publishingから同名の写真集が刊行されている。

2015/01/07(水)(飯沢耕太郎)

タカザワケンジ「CARDBOARD CITY」

会期:2015/01/06~2015/01/17

The White[東京都]

タカザワケンジは2014年の晩夏に、とある街を訪れた。そこは「決められた場所を歩くことしか」できないので、いきおい撮影した写真は「バスの窓越しに見たもの」がほとんどになってしまった。それらを見直しているうちに、ある「発見」があったのだという。そのことを元にして「写真展として構成」したのが、今回の東京・神保町のギャラリーThe Whiteでの展示である。
タカザワが撮影したのは、街の様子から見て明らかに北朝鮮(おそらく平壌)である。北朝鮮を撮影した写真のほとんどは、かの国の特異な政治体制や社会状況にスポットを当てているのだが、ここではまったく異なるアプローチがとられている。タカザワが注目したのは「窓越し」に撮られた写真に特有の「書き割り効果 cardboard effect」である。「書き割り効果」というのは、「写真になったときに立体感が失われた状態」のことで、たしかに会場に展示された写真群には、それがくっきりとあらわれていた。つまり、画面の手前から奥まで全部ピントを合わせたパンフォーカスと、窓枠があることによる切り取りの効果によって、画面全体が平板な、舞台の「書き割り」のように見えてくるのだ。さらにいえば、そのことは北朝鮮の街並自体が、どこか人工的で薄っぺらな「書き割りの街」であることも浮かび上がらせているといえるだろう。
タカザワは普段は写真関係の記事を執筆するライターとして活動している。写真を撮るだけではなく、それについて分析し、思考する態度が身についているということで、今回の展示にもその彼の独特のポジションがよくあらわれていた。さらなる探求と実践を期待したいものだ。

2015/01/08(木)(飯沢耕太郎)

2015年02月15日号の
artscapeレビュー