2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2015年02月15日号のレビュー/プレビュー

島尾伸三『じくじく』

発行所:USIOMADA

発行日:2015年2月1日

2014年9月に開催された個展「Lesions/じくじく」の時に予告されていた同名の写真集がようやく刊行された。展覧会では『野生時代』に2007年から連載していたシリーズの、ごく一部が展示されていたのだが、今回の写真集で、一筋縄では捉えきれないその全体がはじめて見えてきた。
今さらながら、強く興味を喚起されるのは、島尾の写真とそこに付された言葉(テキスト)との関係である。島尾の父が、作家の島尾敏雄であることはよく知られているが、軟体動物のように伸び縮みする「です・ます」調で綴られる彼の文体は、父のそれとも明らかに違っている。そこで語られるのは身辺雑事としかいいようがない出来事の集積であり、しかも常に彼自身の感情や生理が、まさに「じくじく」と絡みついている。たとえば、身近にある時計を撮影した「時計」のパートのテキストには「頭を左右に振ると首がミシミシいいます」「耳元で血管が収縮しているらしいジンジンという音」「聞こえるはずのない手足の血管が、プクプクという音を立てながらピクピク動いていたり」といった表現が頻出する。
だが、そのような低く、薄く伸び広がっていくような文章を読み、その横のほんのりと微光に照らし出されているような写真(テキストと写真にはあまり直接的な関係はない)を眺めていると、次第次第に島尾の描写に引き込まれ、包み込まれていくように感じてくる。その、半透明の糸にぐるぐる巻きにされて、繭か蛹に化してしまうような感触には、どこかうっとりとさせられる気持ちのよさがあるのだ。「雲」「審判の日」「墓参」「駅舎」「死者への旅」「声」「時計」「街気」「ネコの死」「温泉」「線路の輝き」「敵意」「顔」「悪魔の家」「祈り」「空虚の街」「電灯」。全17章を辿り終えたとき、上質の短編集を読み終えたような気がしてきた。

2015/01/12(月)(飯沢耕太郎)

奇跡の年 ANNUS MIRABILIS

会期:2015/01/10~2015/01/12

KATT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

オノマリコ/扇田拓也の『奇跡の年』を観劇する。全体として独特の世界観があり、未来からの狂言回しを皮切りに、作家と編集者の会話を軸としながら、メタ的な構えで複数の物語が同じ舞台で同時進行する実験的な形式も面白い。だけど、あまりにバラバラに展開する個別のエピソードについていけず、パズルの精緻さが少し足りない気がした。

2015/01/12(月)(五十嵐太郎)

96時間 レクイエム

『96時間/レクイエム』(監督:オリヴィエ・メガトン、製作・脚本:リュック・ベッソン)を見る。シリーズものらしく、ある意味ではキャラが安定しており、リーアム・ニーソンは最強だが、想像以上でも、期待以下でもない。ただ、新機軸となった誰が妻を殺したかも、謎解きというほどのものでもない。今回は家族を守る、あるいは復讐のために、敵を殺しまくる数が前より減り、元妻の喪失を少し重いトーンにしており、盛り上がりにやや欠ける。

2015/01/12(月)(五十嵐太郎)

キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展

会期:2014/12/23~2015/03/01

Bunkamura ザ・ミュージアム[東京都]

博物学がもっとも盛んだった18世紀、キャプテン・クックの太平洋横断に同行した博物学者ジョゼフ・バンクスが、オーストラリアや太平洋の島々で採集した植物を克明に描いた銅版画を公開。精緻な線描に多色刷りのこの植物図譜は、新発見のものをひとつ残らず記録しなければ気が済まないという、写真発明以前の西洋人による強迫観念にも似た情熱の賜物といえる。しかしバンクスが私財を投じ、何年もかけて制作させた銅版画なのに、生前には出版にいたらず中断、再び動き出したのは1980年代のことだというから驚きだ。なんと200年後のデジタル時代にようやく日の目を見たのだ。どうりで美しいはず。でも植物って動物とは違って特徴がつかみにくいうえ、いまではみんな知ってる種ばかりだから(逆に絶滅種もあるかも)、どれ見ても似たり寄ったりで希少性も貴重さも感じられないのが玉にキズだったりして。

2015/01/12(月)(村田真)

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守田衣利写真展「Close your eyes, make a wish.」

会期:2015/01/14~2015/01/27

銀座ニコンサロン[東京都]

守田衣利はフェリス女学院大学卒業後、アメリカ・ニューヨークのICP(International Center of Photography)で写真を学んだ。1998年に第7回キヤノン写真新世紀で優秀賞(ホンマタカシ選)を受賞し、2005年には写真集『ホームドラマ』(新風舎)を刊行している。現在はカリフォルニア州サンディエゴに在住しており、渡米して19年になるそうだが、今回銀座ニコンサロンで展示された「Close your eyes, make a wish.」には、その経験の蓄積がしっかりと形をとっているように感じた。
守田は2000年にアメリカ人と結婚し、2005年に娘が生まれる。その間に一家はハワイ・マウイ島、東京、熊本、上海、サンタモニカと移動し、守田自身は流産や死産を経験した。今回のシリーズはその間に家族、友人、親戚らにカメラを向けたもので、基本的には前作『ホームドラマ』の延長上にある。中判デジタルカメラの緻密な描写力と画像の情報量の多さを活かした40点の作品を眺めていると、何気なく過ぎ去っていく日々の営みに、小さな、だが取り返しのつかない無数の「ドラマ」が埋め込まれていることに気がつく。しかもそれらは、みるみるうちに色褪せ、消え失せてしまうので、写真で記録しておく以外には保ち続けるのがむずかしいものだ。守田の写真撮影の行為が、そんな記憶を大切にキープしておくために、あたかも毎日の祈りのように続けられていることがよく伝わってきた。
これらの写真をベースにしながら、守田はサンディエゴ周辺の中流家庭の子供たちを、夢と現実の間に宙づりになっているような感触で捉えた『In This Beautiful Bubble』シリーズの撮影も続けている。会場に置いてあったポートフォリオ・ブックを見ると、こちらもほぼ完成しつつあるようだ。写真家として、充実した仕事を次々に発表していく時期にさしかかっているということだろう。

2015/01/14(水)(飯沢耕太郎)

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