artscapeレビュー

2011年01月15日号のレビュー/プレビュー

ホリー・ファレル「タミー」

会期:2010/11/25~2010/12/18

メグミオギタギャラリー・ショウケース[東京都]

ドアなどに使われるツルツルの合成建材マソナイトの上に、「タミー」と呼ばれる人形を描いた小品が4点。これはいいなあ。まず、人形が肖像画のようにていねいに描かれているのだが、これがもう少し大ざっぱに描かれていたら生身の少女像と見分けがつかなくなり、逆にもっと細密に描かれていたらよくある写真的リアリズムに陥ってしまうところだ。また、背景はどれも花模様の壁紙を配しているが、これも同様にもっと大ざっぱだったら本物の花が空を舞っているように見え、もっと写実的だったらフラットな装飾にしか見えないというぎりぎりの線上に成り立っているのだ。そして、人形も肖像も英語で「フィギュア」であり、背景(地=グラウンド)に対する図も「フィギュア」と呼ぶから、これはフィギュア中のフィギュア、つまりもっとも正統的な肖像画ということができるだろう。だからいい、というのではなく、直感的にいいのだ。

2010/12/17(金)(村田真)

曽根裕「雪」

会期:2010/12/10~2011/02/28

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

雪の結晶を彫刻した透明な作品が10数点。大きさは縦横高さともに20~30センチほどあるが、これが水晶だというから驚く。雪も結晶だからクリスタルでないといけないのかも。でもこの彫刻の見どころは六角形の結晶のデザインではなく、その下の饅頭みたいにどっしりとした半球状の部分にある。これが透明なので陸に打ち上げられたクラゲを思わせ、その上につながる鋭角的な結晶と好対照をなす。見ているうちに、今度はこの結晶がクラゲの足のように見えてくる。無機質な雪の結晶がいつのまにかひっくり返ったクラゲ(逆さクラゲ)に化けるのだ。もうひとつの展示室にはスキーリフトを彫った彫刻と、スキー場のある山を描いた絵画が展示されている。彫刻はおよそ1メートル立方の大理石からリフトやそれに乗るスキー客、樹木などを彫り起こしたもの。さすがにロープまでは彫れなかったのか細部は大ざっぱだが、中国の翡翠彫刻を思わせるダイナミックさがある。絵のほうはグランマ・モーゼスを彷彿とさせる素朴さ。

2010/12/17(金)(村田真)

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オノ・ヨーコ「スマイル」

会期:2010/12/06~2010/12/23

ギャラリー360°[東京都]

ギャラリーへの階段を上っているとき、ふとイヤな予感がして足を止めた。これはぼくの苦手な観客参加型の展覧会ではないか。「観客」としてはやはり「客観」的に作品を見ていたいわけで、心構えもないまま作品に巻き込まれるのはゴメンだと。でもここまで来て見ないで帰るのはもったいないので、そのままドアを開ける。と、予感的中(つーか彼女の場合、作品の半分は観客参加だけどね)。会場の中央に椅子とパソコンとプロジェクターが用意され、観客は自分でマウスを動かして自分の「スマイル」を撮影せよとの指示がある。DIYだ。壁にはこれまで撮影した人たちの笑顔が映し出されている。お、篠山紀信がいる、中世古くんやヒコくんもいる。だれそれ? これで撮らずに帰ってしまうと嫌な客だと思われるので、新たにささやかな笑顔をつけくわえさせていただきました。ニコ、パチ。

2010/12/17(金)(村田真)

『ANPO』上映/シンポジウム:アートの社会的有用性──アーティストにとって「芸術が何か」

会期:2010/12/17

京都精華大学明窓館201[京都府]

60年安保当時を知るアーティストたちの証言やその表現、当時のマスメディアの報道などから、日本で生まれ育ったアメリカ人のリンダ・ホーグランド監督が 、日米関係を独自の視点で問い直す 映画『ANPO』。 この映画上映の後、やなぎみわ氏の司会進行で、ホーグランド監督と出演者でもある写真家の石内都氏によるシンポジウムが開催された。映画はナレーションも字幕もないかわりに、美術作品のディティールが映し出される時間が長い。アートを通じて画面に登場する人々の主観的記憶を蘇らせ、鑑賞者にそれらからなにを感じるのか問いたいという監督は、10歳の頃に通っていた小学校で原爆教育を受けて以来、アメリカ人としてつねにある「加害者」意識を抱えてきたという。両国で伝えられる戦争体験やその歴史教育の大きなギャップをリアルに体験してきた監督のまなざしが、急ぎ足ながらもやなぎと石内の二人のゲストアーティストを通じて丁寧に検証され、紹介された。普天間基地の問題で翻弄され続ける沖縄の現状ともリンクしていくホーグランド監督自身の言葉は、メディアによって隠蔽され人々に見過ごされがちになっていくものや歴史として伝えられるものへの注視をうながす誠実な姿勢がうかがえるもので、会場を出た後もずっしりと重く感じられた。実際に安保当時を知る人は、会場にはほとんどいなかっただろうが、憲法九条の意味を、若者たちや戦争体験者が命がけで問うたこの時代の延長上に、自分が自由を得ているということをリアルに感じられたこのイベント。いま、この映画が、とくに芸術大学で上映され、アーティストを交えたシンポジウムが開催されるということはとても意味が大きいと思う。他大学でもぜひ開催してほしい。

2010/12/17(金)(酒井千穂)

シンポジウム「次世代の表現と可能性 4/新しい時代の感性はどのような空間をもたらすのか」

会期:2010/12/17

建築会館ホール[東京都]

これは日本建築学会の関東支部が開催する連続シリーズのシンポジウムであり、筆者が企画と司会をつとめるようになってからは三度目となる。今回は、中村竜治、山崎泰寛、大西麻貴らがプレゼンテーションを行なう。20代後半の大西が参加し、これまでで最年少の布陣となった。中村も、単体としての建築作品はいまだ実現していない。中村と大西は、ともに繊細な感受性をもちながら、同時に強いかたちと形式への意志を貫く。もうすぐ東京で完成するという大西の初の住宅、二重螺旋の家が楽しみである。

2010/12/17(金)(五十嵐太郎)

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