artscapeレビュー

2011年12月15日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:FANATIC MONOCHROME

会期:2011/10/17~2011/11/05

大阪成蹊大学芸術学部ギャラリー spaceB[京都府]

ペン画、水彩画、墨画、写真、版画、書・墨象、グラフィックという七つの表現領域に分けた7名のアーティストの作品を「モノクローム」というテーマで大きく括り、各作家や全体の展示をとおして、美術表現としての「白」と「黒」の可能性、時代性の考察にアプローチする展覧会。今展は、自らも一貫してモノクロームの作品を制作、発表している吉田翔が企画したもの。出品作家はほかに、川上俊、廣川恵乙、野嶋革、宮本佳美、宮村弦、横山隆平という70年代後半~80年代生まれのアーティストばかりだった。会場の展示のなかでは、少女が森の中に迷い込んだシーンを描いた廣川恵乙の巨大なペン画《迷いの森》が特に気になった。人物と背景のイメージがマンガと写実描写をないまぜにしたようにまったく印象の異なるタッチで描かれており、ところどころに色も混じっている。一見、アンバランスという違和感も感じるが、出展者のなかでもっとも若いこの作家がリアルに感受している情報や刺激、そして表現としてそれがさまざまなイメージへと変換されていくプロセスにも想像がめぐり興味深い。全体に作品のバラエティ、クオリティなど、7名という人数ではあるが、企画した吉田のモノクロームという表現への探究心を裏打ちするような指標にブレのない内容。良い展覧会だった。

2011/11/05(土)(酒井千穂)

やなぎみわ演劇プロジェクト第二部「1924 海戦」

会期:2011/11/03~2011/11/06

神奈川芸術劇場大スタジオ[神奈川県]

アートかと思ったらちゃんとした演劇だった。いや、そのうえアートにもなっていたから恐れ入る。いうまでもなく最初の「アート」はワケのわからないパフォーマンスを意味し、後の「アート」は感動を呼ぶ芸術を指す。つまり、とてもおもしろかったのだ。話は、関東大震災後に設立された築地小劇場をめぐるもの。大きな災害を前にして前衛芸術など必要とされるのか? この問いがテーマだとすれば、もちろんそれは3.11後の現代アートにもはね返ってくる。というより、3.11後のアーティストの苦悩が築地小劇場を召還したというべきか。やなぎは原案・演出・舞台美術を担ったというが、彼女の初期作品に登場する赤い制服のエレベーターガールを除けば、劇中やなぎらしい要素がほとんど登場しなかったのは意外。それより、演劇と美術、大正と現代、前衛と大衆の接点が提案され、まことに刺激的な舞台になっていた。

2011/11/06(日)(村田真)

阿部道子 展

会期:2011/10/07~2011/10/09

吉田町画廊[神奈川県]

4、5年前の学生時代の作品から最新作まで、日本画を大小10点ほど展示。なんの変哲もない身近な風景をていねいに描いていて、とくに最近は肌触りにこだわっているように見える。たとえば100号大の最新作には木と人(作者自身)が描かれているのだが、これが単なる木と人ではなく、地面に映った木と人の影。いいかえれば、そこには木も人も描かれておらず、ただ土と小石と雑草が描かれているだけなのだ。じつは阿部さんはぼくも間借りしている共同スタジオの隣人なので、この絵は描き初めから見ていた。最初は木に寄り添う自画像なんて陳腐な絵だなあと思っていたが、ずいぶん描き進んだとき、それが影だとわかって目からウロコが落ちた。なんか視線をひっくり返された感じ。ほかにも最近は水の波紋や壁の凸凹した感触など、描きにくいテクスチャーばかり描いている。

2011/11/06(日)(村田真)

ライアン・ガンダー展「墜ちるイカロス──失われた展覧会」

会期:2011/11/03~2012/01/29

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

会場に入ってすぐ目につくのは床に散らばった数十枚の紙。そこには1枚にひとりずつ似顔絵が描かれており、杉本博司、須田悦弘、西野達らが識別できた。いずれもメゾンエルメスで展覧会を開いたアーティストだが、なぜか実際よりも老けて描かれている。法廷画家に頼んで約30年後の肖像を描いてもらったそうだ。その向こうには、セーヌ河畔でよく見かける古本屋の屋台のような深緑色のボックスがひっくり返り、壁には書籍リストが掲げられている。リストはやはりここで展覧会を開いたアーティストたちが選んだ本の題名で、ボックスのなかにはそれらの本が入っているという。解説を読むと、このフォーラムの開設10周年を記念して、ここで開かれた展覧会を主題にした作品を出しているらしい。いわば「メタ展覧会」。ここに足しげく通った人なら楽しめるかもしれないが、この展示だけ見ても「なんだこりゃあ」だろう。もうひとつの部屋には、ドガ風の踊り子が絵を見てる彫刻とか、イケアの家具を縦に並べたジャッド風ミニマルアートなどもあって、展覧会や美術史そのものにも言及している。ペダンチックな臭みがあるけど、けっこうこういうの好き。

2011/11/07(月)(村田真)

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「マウリッツハイス美術館展」記者発表会

会期:2011/11/07

時事通信ホール[東京都]

現在改修工事中の上野の東京都美術館が、来年6月にリニューアルオープンする。その特別展第一弾が「マウリッツハイス美術館展」だ。マウリッツハイスといえば「絵画の黄金時代」と呼ばれる17世紀オランダ美術の宝庫。なかでも人気が高いのがフェルメール作品で、3点所蔵するうち《真珠の耳飾りの少女》と《ディアナとニンフたち》の2点がやって来る。とくに《真珠の耳飾り…》が貸し出されるのは「きわめてまれなこと」、とマウリッツハイス館長がネット中継で強調していたけど、数えてみたら日本に来るのは3度目で、どこが「まれ」なんだ? もうひとつの《ディアナ…》にいたっては来日4度目、もう常連ではないか。それにひきかえ、残る1点の《デルフト眺望》はまだ一度も来ていない。《真珠の耳飾り…》の人気が高いのはわかるけど、専門家筋では《デルフト…》のほうが評価は高い。そろそろ《デルフト…》を連れてきてはどうなんだ? あるいは《デルフト…》のほうが価値が高いから貸せないとか? ともあれ、いまさら《真珠の耳飾り…》じゃねーだろ感は否めない。そんなビミョーな空気を察知したのか、フィリップ・ドゥ・ヘーア駐日オランダ全権大使はあいさつのなかで、「もし1点もらえるなら、《真珠の耳飾り…》もいいが、私はフランス・ハルスの《笑う少年》を選ぶ」と述べた。さすが「閣下」、目玉のフェルメールでもナンバー2のレンブラントでもなくハルスを選ぶとは! いったいこの反骨と諧謔の精神を、会場にいた何人が理解しただろう。

2011/11/07(月)(村田真)

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