artscapeレビュー
2014年12月15日号のレビュー/プレビュー
記憶のイメージ/イメージの記憶
会期:2014/11/15~2014/11/30
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
吉野石膏美術振興財団が助成してきたアーティストたちの選抜展。石膏を原料とする住宅建材で知られる吉野石膏が財団を設立したのは2008年のこと。以来、おもに若手アーティストの海外研修への助成をしてきた。出品は秋吉風人、岩田草平、竹村京、橋爪彩、水越香重子ら17人で、絵画あり彫刻ありインスタレーションあり映像ありと多彩だ。石膏会社だから石膏を使うアーティストしか支援しないといった狭量さがないのはありがたいことだが、反面これだけ守備範囲が広いと財団のイメージがボケてしまいかねない。もう少し対象を絞ったほうが財団の性格がより明確化するんじゃないかと思ったりもする。
2014/11/17(月)(村田真)
光の都市|光州
会期:2014/11/16~2014/12/04
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
今年、東アジア文化都市に横浜、泉州(中国)とともに選ばれた韓国・光州の市立美術館が主催する展覧会。同館学芸員のビョン・ギリョン氏によれば、光州市はビエンナーレに代表されるように、文化が都市を再生させ、市民生活を豊かにできるという信念を持ってる街だという。日本に本気でこんな信念を持ってる自治体があるだろうか。たとえあっても首長が変われば続かないし。出品は5人でいずれもレベルが高いが、とりわけ目を引いたのは李二南の映像インスタレーション。フェルメールの《牛乳を注ぐ女性》の牛乳の白い筋が下に置いたモニターに続いていたり、画面に映る《モナ・リザ》が小さな戦闘機に爆撃されて次第に花に変わっていったり、日本好きだったゴッホの自画像が広重の《東海道五十三次》のなかをさまよったり。だれもが知ってる名画を用いて美術史の森に分け入っている。アイディアは珍しいものではないけれど、技術的にもよくできた作品だ。
2014/11/17(月)(村田真)
小島一郎「北へ、北から」
会期:2014/08/03~2014/12/25
IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]
青森市に生まれ、「津軽」を題材として写真を撮り続けた小島一郎(1924~64)は、いわゆる「地方作家」であるように見える。その土地に特有の地域性(ローカリティ)にこだわり、独自の作風を確立した写真家ということだ。だが、今回のIZU PHOTO MUSEUMの展覧会で、あらためて小島の作品をまとめて見ていくと、彼の活動作家が「地方作家」の枠組みにおさまるものではなかったことがよくわかる。
小島は名取洋之助に見出されて1958年に初個展「津軽」(東京、小西六ギャラリー)を開催し、それを一つのきっかけとして61年に家族とともに上京してくる。周囲の反対を押し切り、プロ写真家として自立することをめざしたのだ。翌年、2回目の個展「凍(し)ばれる」(同、富士フォトサロン)を開催、「東京の夕日」(『カメラ毎日』1963年3月号)などをカメラ雑誌に発表するが、慣れない都会暮らしで体調を崩し、青森に帰郷して64年に亡くなった。むろん北の厳しい風土を粘り強く撮影し続けた、詩情と造形意識をあわせ備えた写真群は、小島の代表作というべきだが、彼はそこに留まることなくよりスケールの大きな「写真作家」であろうとしたのではないだろうか。個展「凍ばれる」では、コントラストの強いミニコピーフィルムで作品を複写して再プリントするという手法を用いており、よりグラフィックな画面処理でドキュメンタリーの枠組みを乗り超えていこうとしていた。また、晩年にはカラー写真にも意欲的に取り組んでいた。
今回の展覧会では、小島がネガを名刺サイズに引伸した「トランプ」と称されるプリントが大量に展示され、「津軽」と「凍ばれる」の個展会場の一部が再現されるなど、従来の「津軽」の写真家という小島一郎のイメージを再構築しようという試みが見られた。この視点は、他の「地方作家」たち、たとえば千葉禎介(秋田)や熊谷元一(長野)や平敷兼七(沖縄)などの作品にも適用できるのではないだろうか。
2014/11/18(火)(飯沢耕太郎)
ドラキュラZERO
映画『ドラキュラZERO』(ゲイリー・ショア監督)を見る。タイトル通り、ドラキュラの始まりの物語だ。想像以上に面白かった。オスマン帝国から攻撃される15世紀のトランシルバニアを舞台とし、ドラキュラのパワーを超人的なものと位置づけ、神に許されない、自らも滅ぼしかねない破壊的な人間最終兵器として活用したこと。人間からドラキュラになるまでの3日という猶予/移行期間を設けたこと。この2点の設定が、巧みに英雄/悲劇譚に導く。
2014/11/19(水)(五十嵐太郎)
上村亮太展 続・SF
会期:2014/11/15~2014/11/26
ギャラリー島田[兵庫県]
昨年開催された「SF」展に続く上村亮太の「続・SF」という個展。「物語」という時間を「瞬間の因果」として表現した多数のドローイングや版画作品のほか、ペインティングや 陶のオブジェも展示されていた。たくさんのスイカや人物などがコマ割りマンガのように描かれたドローイングは、それぞれの場面にストーリーがあるようなのだが、それらがどのようにつながるのか脈絡はわからない。荒唐無稽な作品世界はもどかしくもあるのだが、見ていると愉快な気持ちにもなってくるのが不思議。一点一点の絵に何度も振り返ってみたくなってしまう魅力があり長居してしまった。
2014/11/20(酒井千穂)