artscapeレビュー

2014年12月15日号のレビュー/プレビュー

京都アートホステル クマグスク OPENING WEEK「光の洞窟」

会期:2014/11/28~2014/12/07

KYOTO ART HOSTEL kumagusuku[京都府]

展覧会空間に宿泊しながら、滞在によって美術作品をより深く味わってもらうというコンセプトのもと、美術作家の矢津吉隆がまもなく京都にアートスペース「アートホステル クマグスク」をオープンする。12月下旬予定の本オープンに先駆け、プレオープンイベントとしてこのスペースが期間限定で一般公開された。本展はアートコーディネーターの奥脇嵩大氏を招きここで開催されている記念すべき第一回目の展覧会。アートユニットのexonemoのインスタレーション、天野祐子の写真、Sarah Vanagtの映像作品が2階の共有スペースなどに展示されている。来年の9月下旬までと会期自体は長いが、ホステルという性質上、基本的には宿泊者のみが見ることのできる宿泊型展覧会であるため、特別に公開されたこの機会は貴重だった。作品展示もさることながら、漆の作品を発表している作家の石塚源太が手がけた漆の階段や、工芸の家(安藤隆一郎、石塚源太、染谷聡、中村裕太)によって施された各所の建築意匠も見どころ。今後、展覧会は年一回のペースで開催され、その都度、異なる宿泊空間へと変わっていくという。四条大宮に近く、交通の便も良い。ずっと先まで予約でいっぱいということになる前に私もぜひ泊まってみたい。


2014/11/28(酒井千穂)

韓国漫画博物館

[韓国、京畿道富川市]

韓国漫画博物館(2000年開館)は、東大門のデザインプラザとは対照的に、しっかりとした常設展示で、韓国の漫画史を紹介し、展示の工夫もさまざまで楽しい。開架のライブラリーもそれなりの量を自由に手にとれる。改めて、多くの日本漫画が韓国に入っていることがよくわかる。日本でも、国立の漫画博物館をつくるべきではないか。学芸員と面会し、日本の漫画と比較しつつ、韓国の漫画における窓表現についてヒアリングを行う。80年代前の検閲によってリアリズム表現を避け、建築などの背景を記号化したこと。日本と韓国の住宅事情、長期連載や日常生活表現の違いなど、興味深い話をうかがう。

展示風景

2014/11/28(金)(五十嵐太郎)

《univ.church》、《Chungha BUILDING》

[韓国、ソウル市]

Lee EunseokのChongsin の《univ.church》と、MVRDVの《Chungha BUILDING》(2013)を見学した。いずれもリノベーションであり、古い躯体に新しいマスク=仮面をかぶせて外観を一新している。ただし、内部空間の介入が少ないのが物足りない。後者は周辺にブランド建築が多く、街並みが刺激的だった。



univ.church


記事左上:Chungha BUILDING

2014/11/28(金)(五十嵐太郎)

フェルディナント・ホドラー展

会期:2014/10/07~2015/01/12

国立西洋美術館[東京都]

これだけまとまってホドラーを見るのは初めてのこと。自然の景色なのにまるで「左右対称」の号令をかけられたような奇妙な風景画や、独自のリズムでモチーフを繰り返す「パラレリズム」の集団人物像など約100点の展示。初めは土産物用の風景画家から出発し、真逆ともいえる象徴主義に行きついたという画業も、ヨーロッパの屋根裏ともいうべき(いわないか)スイスに生涯とどまって制作したという経歴も、ローカルな場所にこだわることでグローバルな世界に突き抜ける例として興味深い。世代的にはクリムトあたりに近いが、そういえばクリムトも装飾職人から出発し、ヨーロッパの辺境(ウィーン)で生涯をすごした点で似ていなくもない。美術史はたまにスイスとかオーストリアとかベルギーといった小国から、瞠目すべき画家を生み出す。なによりうれしいのは、油絵の醍醐味である豊かな筆触を堪能できたこと。

2014/11/28(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00027841.json s 10105750

祭り、炎上、沈黙、そして… POST 3.11

会期:2014/11/26~2014/12/07

東京都美術館ギャラリーA[東京都]

3.11後、美術家はなにをなすべきか。おそらく美術家ならだれもが考えたはずの美術家の社会的役割というものを、みずからに問い続ける5人の展示。石塚雅子の絵画はとりたてて3.11を思い出させるものではないし、新しさも感じられないが、にもかかわらず鮮烈な印象を与える。横湯久美の写真も3.11とは無関係に、祖母の死に際してみずから演じた極私的奇態を撮ったもの。だから見てしまう。見る側は別に3.11を意識しないから。

2014/11/28(金)(村田真)

2014年12月15日号の
artscapeレビュー