2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2014年12月15日号のレビュー/プレビュー

永瀬沙世「FOLLOW UP 追跡」

会期:2014/11/01~2014/11/12

AL[東京都]

永瀬沙世は1978年、兵庫県生まれの写真家。主にファッション雑誌を活動の場にしているが、時折、何とも不思議なテイストの写真展を開催して楽しませてくれる。
今回の「FOLLOW UP 追跡」展には「J002E3」という副題がついているが、これはアメリカを拠点とするカナダ人のアマチュア天文家が発見した、月と地球の間で奇妙な動きをする天体のことだ。後にその表面が白い酸化チタンで塗られていることから、1969年に打ち上げられた、アポロ12号のロケットの機体の一部ではないかといわれている。永瀬はその記事のことを友人から教えられたのだが、メールを読んですぐに忘れてしまっていた。その数ヶ月後、「お風呂からあがって、髪がぬれたままティファールのケトルでお湯を沸かしていたとき、ばらばらの短いシーンが卵形の弧を描きながら頭を駆け巡った」のだという。
実際に展示されているのは、どこか夢の中のようなぼんやりしたトーンで撮影された、いくつかの断片的な画像で、直接的に「J002E3」と関係があるようには見えない。UFOやロケットめいた物体が写っている写真もあるが、特にストーリーを追ったものではないだろう。だが、全体的に何かを「追跡」しているような、妙にワクワクした謎めいた雰囲気があって、日常が非日常にワープしていく感覚が、なかなかうまく定着されている。さらっとでき上がった小品には違いないが、むしろふとした思いつきを形にしていく軽やかな手つきに、この写真家の持ち味があるのではないだろうか。同時に刊行された、タブロイド判の新聞のような造本の写真集(500部限定)も気がきいている。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

山本渉「欲望の形──器の濃き影」

会期:2014/10/31~2014/12/07

NADiff Gallery[東京都]

山本渉の「欲望の形──器の濃き影」のシリーズは、ぜひ写真集の形で見てみたいと思っていたのだが、今回のNADiff Galleryでの展示にあわせて、小冊子ではあるがそれが実現した。見れば見るほど、なかなか味わい深いシリーズだと思う。
被写体になっているのは男性の自慰用の器具で、「オナホール」という身も蓋もない名前で呼ばれている。山本はその内部に石膏を流し込んで型取りし、黒バックのモノクロームで撮影した。結果として、そこにあらわれてきたのは、何とも奇妙なフォルムを持つ物体だった。あるものは植物的な(ドイツのカール・ブロスフェルトの『芸術の原型』を思わせる)、あるものはねじ釘状のメカニックな形態をとり、中にはアニメのキャラクターのフィギュアを象ったものまであるという。まさに「欲望の形」そのものだが、普通は触覚によってしか味わうことができないその形状を、ネガをポジに逆転するような発想で見事に視覚化した所に、山本の卓抜なアイディアが活きていると思う。
展示は小ぶりなフレーム入りのプリント(25・4×20・3cm)が14点並んでいるだけなので、いささか物足りない。もう少し数が増えれば、タイポロジー的な比較も可能になるし、写真の大きさも「等身大」にこだわることはなかったのではないだろうか。「欲望の形」というテーマも、「オナホール」だけに限定するのはもったいない気がする。もっといろいろな対象物に広げていけるのではないだろうか。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

Nerhol ATLAS

会期:2014/10/16~2014/11/20

IMA gallery[東京都]

2007年から活動しているNerholは、1980年生まれの田中善久と81年生まれの飯田竜太のアートユニット。彼らのポートレート作品は、出版物では見たことがあるが、実物は今回の展示で初めて見た。既に彼らの手法──被写体に200回シャッターを切って撮影した写真のプリントを、カッターで少しずつずらして切って貼り合わせ、厚みのある立体物を作る──については知識があるわけで、それを踏まえつつ作品がどう見えてくるかに興味があった。
結論からいえば、手法がどうしても最初に目についてくるこの種の作品の例に漏れず、その核心になかなか入り込めないもどかしさを感じた。人間の”顔”は、いうまでもなくとても心そそられるテーマであり、多くのアーティストたちがその謎解きに取り組んできた。Nerholの試みも、むろんその一つなのだが、2012~13年に開催された各展覧会に出品した作品を再構成し、「ATLAS」と題する書物の形で提示した今回の展示を見ても、カットアウトの繊細な手さばきと、”顔”の歪みのオプティカルな視覚的効果の面白さ以上のものは感じとれなかったのだ。
被写体に選ばれているのが、若い世代の日本人、外国人の男女だけという所に、“顔”につきまとう異様さ、異常性のファクターをできるだけ押さえて、むしろ平静な日常の“顔”を分析的に見直していこうという志向性を見ることができる。その結果として、彼らの「ATLAS」は、平板で退屈な印象を与えるものとなった。それこそが現代の“顔”なのだという反論が予想できるが、Nerholに限らず、このところ平均化、標準化の状況にすんなりおさまってしまうような作品が、多すぎる気もしないではない。人間の“顔”というのはこの程度のものなのだろうかと、無い物ねだりをしてみたくなる。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

《もりおか歴史文化館》《旧岩手県立図書館》《旧盛岡銀行(現岩手銀行中ノ橋支店)》

[岩手県]

菊竹清訓による《旧県立図書館》(1967)がリノベーションされ、2011年にオープンした《もりおか歴史文化館》(2011)を訪れた。以前とはだいぶ空間の雰囲気が変わったが、それでも60年代の建築が残ったことは良かった。歴史資料を用いた企画展「あの日あの時の盛岡4 ─馬のいた風景─」ほか、常設における盛岡の歴史など、想像以上に展示が面白かった。辰野葛西の事務所による明治末の《旧盛岡銀行》(1911)は、現在保存の工事中で、角地の玄関だけ見えるが、全体を覆い、クリストのインスタレーションを彷彿させる。

もりおか歴史文化館

2014/11/07(金)(五十嵐太郎)

舟越保武彫刻展 ─ まなざしの向こうに ─

会期:2014/10/25~2014/12/07

岩手県立美術館 企画展示室[岩手県]

日本設計が手がけた《岩手県立美術館》(2000)を見学する。ちょっと古典的なデザインだが、いい空間である。地元出身の船越保武展を開催中だった。白眉の作品は長崎26聖人殉教者記念像(今井兼次も登場する記録映像もあり)だが、脳梗塞で倒れた後、左手だけで制作し、優美な造形ではなくなった晩年の作品が鬼気迫る。常設は萬鐵五郎、松本竣介など、やはり地元作家が充実している。盛岡市先人記念館も、国際連盟事務次長にまでなった新渡戸稲造、アイヌ叙事詩ユーカラを研究した言語学者、金田一京助など、内容が興味深い。情報化時代以前の彼らの志しの高さを見ると、現代が劣化しているのではないかと不安になる。

盛岡市先人記念館

記事左上:岩手県立美術館

2014/11/07(金)(五十嵐太郎)

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2014年12月15日号の
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