artscapeレビュー
2014年12月15日号のレビュー/プレビュー
藤岡亜弥「Life Studies」
会期:2014/11/10~2014/11/16
Place M[東京都]
2012年までの4年間のニューヨーク滞在時の写真をまとめた藤岡亜弥の「Life Studies」の発表は、2009年のAKAAKAでの中間発表的な展示を含めると、今回で3回目になる。前回(2014年春)の銀座ニコンサロンと大阪ニコンサロンでの展示はカラープリントだったが、今回はそれに加えて279×356cmの大きさに引伸されたモノクロームプリント(12点)も出品されていた。
ニューヨーク時代の藤岡は、カラーとモノクロームのフィルムを併用していたのだが、使っていたハーフサイズのカメラに光が入って、画面に縞模様のような筋ができたこともあり、ろくにプリントもせずに放っておいたのだという。だが、次第にその「失敗」がむしろ面白い効果をもたらすのではないかと考えはじめ、それが今回のモノクローム作品中心の展示に結びついた。
実際に今回の「Life Studies」は、カラー作品とはかなり異なる肌合いではあるが、ニューヨークでの生活の断面の別な部分を垣間見させてくれる、興味深い作品に仕上がっていた。ハーフサイズの縦位置の画面が二つ並ぶことで、微妙な時空のズレが生じてくるだけではなく、それ以外の通常の35ミリカメラで撮影された作品にも、奇妙に歪んだデモーニッシュな気分がより色濃くあらわれてきているのだ。はっきりいってかなり怖い写真群であり、スナップ的な要素の強かったカラー作品と比較すると、闇の奥をじっと覗き込んでいるような不気味さを感じる。藤岡がモノクローム作品を発表するのはおそらく初めてではないだろうか。いい表現の鉱脈になっていきそうな予感がする。
2014/11/12(水)(飯沢耕太郎)
佐藤信太郎「The spirit of the place」/「夜光 Night Light」
会期:2014/10/31~2014/12/20
キヤノンギャラリーS/フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]
佐藤信太郎のデビュー写真集『夜光 Nights Lights』(1998年)が青幻舎から新装版で再刊されたのにあわせて、東京都内の二つの会場でほぼ同時期に彼の個展が開催された。キヤノンギャラリーSの「The Spirit of the place」展では、盛り場のネオンサインを撮影した「夜光」だけでなく、彼の他のシリーズ「非常階段東京 ─ TOKYO TWILIGHT ZONE」と「東京|天空樹 Risen in the East」も同時に展示され、フォト・ギャラリー・インターナショナルでは「夜光」に絞った展示を見ることができた。
デジタルプリントによって、より鮮やかに、くっきりと甦った彼の作品をあらためて見直すと、佐藤が3つのシリーズを通じて、東京の新たな見方(「夜光」シリーズには大阪で撮影された写真も含まれているが)を提示しようとしてきたことがわかる。それは、都市を光と形と色という要素に還元して、そのテクスチャー、構造を定着しようとする意欲的な試みであり、近作になるにつれて、より包括的で、柔軟な把握の仕方があらわれてきているように思う。ちょうど区切りのいい時期に、旧作をまとめて展示で来たのはとてもよかった。
だが、問題は佐藤が次にどんなアプローチを見せてくれるかだろう。現在形で変貌しつつある巨大都市を俯瞰できる視点を確保するのは、そう簡単なことではない。インターネットのような不可視のネットワークが、都市の中枢部分を占めるようになってくると、写真でそれを視覚化するのは、ますますむずかしくなってくるからだ。佐藤がその難問にどう立ち向かっていくのか、次作に期待したいものだ。
キヤノンギャラリーS 2014年10月31日~12月15日
フォト・ギャラリー・インターナショナル 11月7日~12月20日
2014/11/13(木)(飯沢耕太郎)
原萬千子 個展
会期:2014/11/13~2014/11/24
高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]
1934年横浜生まれ、戦後小倉遊亀に師事し、傘寿を迎えたいまでも季節の花々を描き続けている日本画家。そんな閨秀画家がなんで黄金町くんだりで個展を? いくら横浜生まれといっても高架下のギャラリーは似合わないだろう、と思ったら「黄金町バザール2014」のキュレーターを務めた原万希子さんのご母堂だという。なんか黄金町がイッキに浄化された感じ。
2014/11/13(木)(村田真)
high & dry:田中和人展
会期:2014/11/14~2014/11/30
Gallery PARC[京都府]
花瓶の花に光を当てて壁に映る影をペンでなぞり、光源の角度を変えながらそれを繰り返し、残った壁を撮影した美しい作品「shadow traces」や、金箔を通して森を撮影した「GOLD SEES BLUE」など、久しぶりの個展では15ほどのシリーズから100点以上の作品が展示された。アイディアの数もさることながら、写真と別の物や色彩などを組み合わせた作品や、目の前の写真と映っているものとの間にプロセスが存在する作品が多い。このように解説すると、実験的な側面が前に出てしまうが、最終的な平面表現の美しさとともに見えてくるのは、そもそも身体を使った表現としての美しさなのではないかと思ったり。
そういえば、彼は近年、2012年「アブストラと12人の芸術家」や2014年「ニュー・インティマシー 親密すぎる展覧会」などの展覧会の企画も行うなどディレクターとしての手腕も発揮しているが、これも身体的。「アイデアはまだまだたくさんある」という彼の言葉が印象的だった。
2014/11/14(金)(松永大地)
フェスティバル/トーキョー14 「春の祭典」
会期:2014/11/12~2014/11/16
東京芸術劇場プレイハウス[東京都]
毛利悠子の舞台美術を見たくて足を運んだが、電信柱や、ささやかに動く小物を配したこれが、やはり一番良い。舞踏は、ストラヴィンスキーの楽曲を、日本の祭りとして再構築する実験的な試みだった。論理的にはアリの手法だと思うが、実際に和風化された実演を見ると、違和感も拭えない。
2014/11/14(金)(五十嵐太郎)